第65話 護国の御旗。1/5
馬二頭が地を鳴らす音の響きが、前後に遅れてそれぞれ草原に響く。
されど首に掛かる
「所属の
馬二頭を操り
「「……」」
馬が
前後の馬の、前一頭に
「そちらこそ認可された商業の旗もなく、冒険者の旗も無い。身分出自の分からぬ者に、コチラから安易に身の上を名乗る事は出来ない」
心が落ち着かずに動き続ける馬を
焚火で鍋を温める覆面を付けたセティス、黒い囲い、そして彼女らが用いている馬車の方角にも顔を向けただろうか。
そして、相対するカトレアの背後に控えている勢力と様相を確かめ終えて訪れた男は改めてカトレアに向き合い、馬から降りて顔を隠しているフードを外してその正体を露にした。
「だが、確かに事を急ぎ、礼を
「エルフ族……リエンシエールの血族か」
絹のようなシャンパンゴールドとでも表すればいいのか輝く毛髪をオールバックに纏め上げ、トンガリ耳に幾つものピアスが煌き、頬に刻まれ
「この近隣で先日からゴブリンの軍勢が迫っていると聞き、被害の状況とゴブリンの脅威規模の調査に
そして自らをエルフ族と名乗った男は、体に纏っていたマントを翻して敵意は無いと身に付けている弓や矢筒の隠されていた姿をも露にし、次はソチラが名乗る番だと語り掛けるのだ。
「——……我らは、とある目的をもって旅を共にする者だ。冒険者としての登録もなく商業組合にも属していない流れ者と認識してくれて構わない」
だが、語る事は出来ない。女騎士カトレアが仮面の裏で僅かに目線を動かして思考した末に出た答えにはそれが如実に表れていた。
「とある目的とは」
「語る義理は無い。口を開かせたいならば、その腰の短剣か、弓の
先んじてイミトに釘を刺されていた事も理由の一つであったが、なによりと魔物を敵視する世界で自らを含めた一行の素性や、ここまでの経緯を詳細に語る事は
例え争いになろうとも、隠さねば争いになりかねない事実が彼女の背に重く
「……分かった。我々の目的は、あくまでも調査だ。向こうの——あの焼け野原は貴殿らが行った所業なのか問いたい」
よって軽く金属音を響かせるカトレアの剣の
燃え終わり、もはや煙も立たぬ目を痛めそうな黒炭の大地。エルフ族の男が顔を向けた先に広がる丘の下、世界の終末の如き
「——ああ。ソチラが探していた小鬼の軍勢と意図せずに介してしまったので致し方なく」
「「……」」
そして選ばれた対応に、カトレアも
すると不穏と信じ難い事実を事実と報せる一陣の風に、エルフ族の男は背後に控える仲間と顔を合わせて何やらと疑念を確信に変えたような気配を見せるのである。
「そうか……いや、良いのだゴブリンの軍勢の討伐を
やがて風の終わり、納得の様相で結論を出したエルフ族の男は、カトレアを始めとした一行を敵に回したくは無いと声色を重く、真面目で
「もし良ければ、お仲間と共に我らが森にて是非とも
それから誘い文句を穏やかに、されど警戒を滲ませながら緊張で僅かに震える声色でエルフ族の男は満を持してと言ったのである。
普通ならば、一般的な反応ならば、統計を取れば、大多数はそのエルフ族の男の誘いを素直に受け入れたのだろうか。
だが——少なくとも、あの男は——この男は違った。
『……歓待ね。そいつは素晴らしい提案だ』
いつも通りの全てを見通していそうな
周囲の空気に漂い始めるは、心にもない
「誰だ⁉」
「……仲間だ」
突然の気配も無き悪魔の登場にエルフ族の男の驚きが響き、女騎士カトレアは弓を手に取ろうとしたエルフ族の男に
エルフ族の男が驚くのも無理はない、本当に現れたイミトの気配は無かったのだ。
先ほど、エルフ族の男たちがカトレアの仲間たちの様子を探っていた時には全くと言っていい程にイミトは完全に気配を消していたのだから。
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