第64話 壊滅の足音。2/5
その爆嵐が周辺気候との調和を
「なにがお互い様か。ゴブリンを駆逐した事で、これ以上の被害が出ないのなれば意義はあったと大義の一つも
「……お優しいこって」
やがて嵐が静まれば、クレアも鎧兜に隠されていた長い白黒髪を頂く美しい顔を骸骨騎士の腕の中で
そんなクレアの流麗な横顔に、そっと横目を動かし瞼を閉じたイミト。訪れた平穏を肌身に感じつつも、黒く燃やし尽くされた地表が恨みがましく睨みつけている事から目を逸らすかのようでもあった。
そうして、
「まったく……世は取るに足らぬ事ばかりよ。ほら、迎えが来たようぞ」
戦の終わりの
「——……イミト」
炎の監獄が消えた事で事態の終わりを認識した彼らの仲間の一人が、空を飛ぶ
「よう、セティス。臭いフェチでもあるまいに、こんな悪臭が酷い場所に何か用か?」
そんな斜め上の上空に飛来した彼女に気分を切り替え、普段通りの軽快な口振りで挨拶を送るイミト。風で巻き上がった灰が肩に降りた事に気付いて手で払い。
すると、彼女もそのような仕草を見せた。
「……一応、心配して様子見に来た。終わったなら、早く戻って。ゴハンが冷める」
しかしセティスは、まるで心配して損でもしたかのように服に付いた灰をイミトとは違って乱暴に払い除け、イミトの挨拶代わりの質問も払い捨てしめる。
「その前に風呂入った方が良いだろうよ。臭いで味がブレるからな」
返す言葉や仕草は兎も角、自らを心配して他の者を代表して迎えに来たのだろうセティスの対応に、椅子に座って重くなっていた腰を持ち上げ、再び服を軽く叩きながら
ついでにと、鎧の隙間から侵入したのだろうゴブリンども血潮の臭いを確認して酷い悪臭に顔をしかめてもいた。
だが——
「まぁ……その前の前に、か。クレアと先に戻っといてくれ、俺は王様の魔石とか回収しつつ少し調べたい事があってな」
ひと段落とも、早々にセティスの言動に甘んじて帰る訳にも行かない。
面倒げに吐いた息を自ら追うイミトの視線には、周囲に未だ残る死体の山々。
意味深な思惑があるのは明白で。
「……好きにせよ。セティスよ、我を運ぶ事を許す。こちらへ来い」
そんなイミトへクレアは少し
一方、セティスはと言えば——
「了解。その前に——最後の一匹」
「ぐぎゃ⁉」
クレアの指示に頷きつつも直ぐには動かず、腰に身に着けていた魔力を放てる拳銃を引き抜いて近くにあった死体の山の下——死体の裏に隠れ、息を
「……やはり手を抜いておるな貴様は」
やがて恐らく最後の一匹だったろうゴブリンが死の
「生け捕り捕虜って言葉を知らねぇのか。まぁ後で良いかなって思ってただけだが」
そんな彼女らに少しバツが悪そうな顔色で頬を
「余計なお世話だった?」
故にセティスは心配した。これから彼が調べたい気になっている事に、自身の行動が邪魔をしたのではないか、と。
「いんや、調べたい事とは全く関係ない事だ。お喋りも出来ないみたいだしな」
「それなら良かった。じゃあ、私たちは戻る。カトレアとデュエラさんが風呂の用意をしてるから」
されどイミトの即答具合と言葉から、大した動揺は見て取れず、言葉の上では安堵する。空中で方向を変える
イミトの視線は彼女らを見送る意思もなく、既に別の所にある。
「ああ、そっちも先に入っといてくれ。良い感じに出汁が出始めた頃に戻ってくるさ」
「……気持ち悪い」
「ははは、そりゃ違いねぇな」
脳が死んでいるかのように適当に口が走らせる冗談。真面目に受け答えしたセティスが馬鹿らしく何処までも損をしたとボソリと冷酷に
イミトが自身の脳死している言動を
幾つもの小鬼の死体が倒された順に黒い魔力の煙に変わり始める頃合い、イミトは胸の奥にざわつきを感じていたのだろう。
セティス達が空を去った直後、小気味よかった鼻歌混じりの表情が真面目な顔つきに変わり、彼は足下に転がっていたクレアの斬った邪魔な小鬼の頭を無慈悲に蹴飛ばして、その下に落ちている物を一人ポツンと
既に答えは、掴んでいるのかもしれない。ただ淡々と、それを確かめる作業に勤しんでいるようで。
死体漁りの病的な、彼の背中を哀れに見つるは真っ青な天と白き太陽。
——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます