第64話 壊滅の足音。1/5
「ゴブリンの王は生まれながらに王の証たる
「少し打ち合っただけで砕けるとは、大した宝剣であったな。まるで砂で創られた偽物のようではないか」
天井から重く
「グガ……」
その汗がにじむ手に握るは、
「臣下も
それもそうだった。投げ捨てられた宝剣が音もなく地に転がったのは、そこら中に弾力のある肉の塊が無惨にも周囲の地表を埋め尽くしていたからなのだから。
「命乞いは気分を害す。選ぶが良い……
やがて彼の王に突き立てられる断罪の剣の剣先は
小鬼の王は突き付けられた二択に対し、果たしてどのような選択をする事になろうか。
「グ……グガアア‼」
それは、事も無げに選ばれた。
彼の体を突き動かすは壊滅した軍勢の再起の為か、それとも単なる差し迫った死への恐怖か。
小鬼の王から、その真意を聞く事は今後も——出来ない。
「——くだらぬ。所詮は低俗な蛮王か」
語るまでもない。その選択が、この世の戦と死の象徴たるデュラハンが最も愚かしむ選択であれば尚の事。
「猿山の
『【
骸骨騎士が片手で天に
距離はあった。しかし意味は無い。
「グガアアアアアアアアアアアアアァァ——‼」
空間すらも焼き切るが如く断罪の一刀は、その圧倒的な気配に先んじて背中を刺された王の断末魔を追って敵を
二つに割れた右と左、その時点で生き残って居ようはずもなく、されど業炎は
——それでも満たされない業炎がパチパチと空腹を鳴らす後日談。
本来、耳を澄ませば聞こえないような炎の
「……つまらぬ戦よ。如何に
寂しげに彼女は呟き、赤い双眸を鎧兜の裏で閉じて後の祭りに息を吐く。
終わってしまった喧騒の記憶が尾を引いて、ふと振り返り過去にはもう戻れないと如実に嫌みったらしく語るような背後の壁に視線を振り返らせて。
「やはり今は貴様と戦う事が一番の娯楽となりそうだな、イミトよ」
「もう終わっているのだろう。早くこの壁を消さぬか」
壁向こう、その裏側に居る男にクレアは声を掛けたのだ。
すると、彼女の予見通り。
「——はは、こいつは壁じゃなくて幻想さ。ただの目隠しだよ」
向こう側にも居ただろう大量のゴブリンの叫び声一つも漏れることも無く、退屈に待ちかねていたような気の抜けた声色で、イミトはクレアへ言葉を返したのである。
そうして消える目隠し、黒い巨壁は煙となって炎の黒煙に紛れていく。
やがて露と鳴った壁向こうの光景は、クレアが創り出したコチラ側と似て非なるような惨状であったという。
「貴様にしては手早くやったようだな。別れた時には、まだ数百は居たと記憶しておるが」
武器を使った形跡はない。
しかし
恐らくそれは、否——間違いなく、黒い椅子に座る鎧姿の男が行った所業。
「たとえ数百は居ても、一つの的を狙える数は数百にはならんもんだろ。大したことも無い」
「そっちも、そろそろ炎の檻を消してくれると助かるな。耐熱な鎧とはいえ、運動してたら蒸してきた。戦いも終わったし脱ぎたいんだけど」
それでも互いに何の驚きも心の動きも無いままに、お茶会中に新たな客人を迎えるような気軽さで交わされる会話。誇ることも無く、卑下することも無く、ただ当たり前に鳥が飛び立つ様を見送るが如く、
「この程度の熱で、根性の無い」
「根性で何とか出来たら熱中症で死ぬ奴ぁ居ねぇよ……ったく。それで? 少しは戦えて気分が晴れたのか?」
平々と互いの仕事を
「ふん……貴様の方こそ、命を刈り取る事には慣れたのか」
「——……はっ、お互い様って所だな」
挨拶代わりの皮肉を一つずつ。
轟々と燃えていた周囲の炎の檻はクレアの魔力が供給されなくなった為か天高い天井から消えていき、外界との温度差や空気圧で一瞬にして豪風を嵐の如く巻き起こす。
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