第55話 やがて灰になる。4/4
本来の静寂を思い起こす僅かな合間、夕食の片づけに片手間で始めるイミトは並行して思考する。
如何に語れば良いものか、もしくは如何に片付けて行けばいいのかと。
「どう言えば良いんだか……まぁ近々、ちょっとした目的の為に馬鹿みたいな力を持つ連中が大規模な魔物狩りの勝負を始めるらしくてな」
洞窟外で嵐に
「人数は五人。その中に、ルーゼンビフォアも含まれるって言えば……どのくらい面倒な感じか伝わるのかね」
言えぬ事は多く——信じさせたる根拠は乏しい。そのような状況を暗に匂わせて、虚実の仕事を請け負わせた首を
「……ルーゼンビフォア。先日、クレア殿の命を狙いレザリクスと共謀した女ですね。確かに、共に居たイミト殿の……妹殿と同様に只ならぬ気配を感じましたが」
今にも気怠く首の骨関節を鳴らしそうなイミトの曖昧な説明ではあったが、
しかし——
「ああ。イミナの事は気にしなくていいぞ、くだらねぇ同情で自分の優先事項を間違えるなよ」
そんなカトレアが
「とにかく、その五人の狩りの標的に俺やクレア……そしてバジリスクは確実に含まれてる訳だ。さっきも言ったけどユカリも、その標的に含まれるかもって話でな」
そして未だ高熱を
「なるほど……バンシーを人間と合成するなどという所業を平然と行うルーゼンビフォアのような
「確かにイミト殿が、無関係なセティス殿やデュエラ殿を戦いに巻き込まないようにするのは道理かもしれません」
カトレアがイミトの動きに視線を合わせる中で、岩板が一枚だけ外された土台の元へ戻った彼は創り出した火ばさみで土台の中で燃える炎を突き、何のことは無い表情で火を散らしていく。
そんな折だった。
「そ、それでも‼ わ、ワタクシサマには良く分からないですますが、それでもイミト様ガタと御一緒に行きたいので御座いますよ。バジリスクどもは、ワタクシサマのハハサマの仇でもありますし、そ……それに……」
「「……」」
ここまで抑えられていた主張を耐えきれずに解き放つように、デュエラは
それが——イミトを悩ませる
「リスクは承知の上。それでもイミトと同行するメリットを考えれば、これからも旅には同行させてもらう。というかミュールズで酷使した所為で私の箒は故障中だから、こんな所で置いてかれたら困る」
更に、掛け算の如く後押しする類似した主張がセティスの口から放たれれば、それは紛れて殊更に自由意志のように思えてしまうのだろう。
火ばさみが掴む炎の魔石が、イミトの心を焼く罪を示している様相。
無論——イミトの黒い瞳に映る物もまた等しく。
「まったく、面倒な事だ。勝手にさせれば良かろう、元より他の誰かに合わせて我は動くつもりは無いのでな。追いつけないのであれば、ただ捨て置くのみよ」
「——……そうだな。ま、止めても無駄なら止めても無駄か」
傍らのクレアが、唾を吐き捨てるように言葉を放たねば、イミトは彼女らの心に——どのように答え、どの程度の時を無為に過ごした事だろうか。
「好きにしろよ。テメェらの人生だ」
きっと——答えも要した時間も違ったに違いない事だけは間違いは無い。
「は、はい‼ ご迷惑は絶対に掛けないようにするのですよ‼」
「んじゃあまぁ……その工業都市ってのに向かって、やる事の整理でもしていくか。旅の道具やら食料やらは調達しなきゃいけないしな」
「その前にデュエラからバジリスクどもの情報を聞くのが先であろうが」
「……そう急ぐなよ。どうせ長い旅路だろ? ジャダの滝までどのくらいの距離があるか分かってんのか?」
こうして棚上げ上澄み先送りで今後の道が再び繋がった一行は、ある意味で普段通りの雰囲気に戻りゆく。燃えていた炎の魔石も、突かれて土台の中で転がされる度——もしくは他の魔石と離れていく分だけ、その光を弱めていき湧き上がる炎が収縮して行って。
「——馬車で急いだとしてジャダの滝までは、早くて三週間くらい。工業都市までは二日くらいだと思う」
「気楽に生きたい所だな。ミュールズじゃ殆んど観光も出来なかったしよ……その工業都市では少しくらい遊びたいもんだ」
ひとしきり火力が弱まり、後は時が過ぎるのを待つ事にしたイミト。
「ふん。くだらぬ、それは貴様らが
「かっ、あり得るな。本当にロクでも無い話ばかりだよ……レモン水の追加でも持ってくる」
「「「「……」」」」
その時、様々な想いで見つめられる彼の背を嘲笑うが如く——、洞窟の外の世界では、いよいよと雷が激しい閃光を放ち、鳴り響く。
——。
やがて余談。歓喜の宴の火は完全に消えて、静かに始まる本格的な片付けでの一幕。
「イミト殿、何か手伝う事はあるだろうか」
ピザを焼いた洞窟入り口の窯の薪木を一人で黙々と片付けるイミトへと近づき、カトレア・バーニディッシュは
すると、少し離れた場所で何やら話をしながら同じく片づけをしているセティスやデュエラに負い目を感じている様子でチラリと視線を流す彼女を横目に、イミトは窯の中の炭を掻き出す作業を続けながら答える。
「ん、残りは窯の火を消すだけだから休んでていいぞ。
荒ぶって降り
それは彼女が僅かに見せた視線の動きと、控え気味の声量や声質からも見て取れていたのであろう。
「——貴殿に隠し事は出来ないな。それは私ではなくユカリがあるようだ」
「へぇ。会話が出来るようになったのか」
しかし彼女自身は話は無いと否定する。胸元に手を当て、小さな微笑み。
彼女の『ソコ』に眠る——もう一つの意志を抱えて彼女は彼女の為に、イミトの推測通りの行動を取ったのだと。
「いや……残念ながら言語の壁はあまりに厚い。勘で、そう思っただけだ」
「……そうか、そりゃそうだな。いいぞ。代わってくれ」
自嘲するように笑みつつ首を振るカトレアに、頬を掻くイミト。
「——……」
やがてカトレアは瞼を閉じて、首をガクリと
「さっきの話についてか?」
そして語らい始める
「……そうピョン。いったい、何が起きてるか教えるピョン」
先ほどまでとは言語の違う言葉の
カトレアの身体で、彼女の本来の色ではない赤い瞳が
「何のこたぁ無い。当たり前が当たり前にお迎えに来るって話さ」
「灰になったもんは、当たり前に元には戻らねぇ。肥料か何かになって、新しい次の命の糧になるのが世の道理ってな。そういう事だろ?」
「ま、だからって……むざむざ殺されてやる義理も無いけどな」
窯の中に未だ残る炭に近しい薪木は、やがて灰になる。
——世界の如何なる物であろうと、異なる世界の者であろうと。
それを知るからこそ、彼は彼女の問いにお
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