第56話 たとえ雨が止めども。1/4
——その場所の時は、嵐とは程遠い動かざる静寂。
白い光が輝く程に
白の壁区切りすら見え難い広い部屋の中央にて、素朴な木製の椅子に座っていた貴婦人は椅子の肘掛けから頬を離し、もう片方の手に持ってた黄金色の液体と白い
「あら。アナタが一番乗り? アナタの世界の事務処理は良いのかしら? 色々と溜まっているんじゃないの?」
そして傍らに控えている執事姿の女性が貴婦人の為に差している傘が
「うふふ……私の世界が、どんな世界か知っているみたいな口振りね、ミリス」
すると答えではない言葉を返す来客は、漆黒の
来客の風体は金銀宝石と装飾の
「知らなくてもアナタの世界は有名ですもの、ラムレット。噂なら幾つも飽きる程に聞いているわ」
その者の名を、ミリスはラムレットと言った。
ルーゼンビフォアの
「——私の天使たちは優秀なのよ。神の不在で慌てふためく人形では無いの」
「ふふ、男遊びで見学には来ない者だと思っていたわ。それとも、今の
そんな彼女らの
「それはコチラの台詞ね、ミリス。普段は神のイザコザに干渉しないアナタが、自分の世界をルーゼンの
その
瞬間——、今一度とならされるミリスの指二本。
すると次は、彼女の椅子の前にあるのと同じ脚の長い小さなテーブル。
「……神は気まぐれなものなのよ。それにルーゼンとは……それなりに長い付き合いだもの」
やがてミリスは仕事を終えた様子で、再び椅子の背もたれに背を任せてラムレットの問いに感慨深く言葉を返すと、傍らの執事服の女性に気を遣われて差し出された飲み物の入ったグラスを受け取って。
「飲み物は
そして何かを思い出した様子で彼女に訊いた。その表情は、ほくそ笑み——まるでラムレットを
「あら、それは気が利かないわね。アナタが飲んでいるソレ、とても小便に似ているのに思いつかなかったのかしら」
対してそんなミリスの嫌味に対し、ラムレットは何も気にしてない顔色で意趣返しにニコリと笑う。魔女のローブからスルリと顔を出した
「ふふ……
「うふふ……どうかしら。アナタは肝臓を変えるべきね。アナタと恋仲になるくらい、とても哀れで仕方ないわ」
人如きでは
「——それでアナタの天使は……もう送り込んだの、ラムレット?」
「白々しい事……まだもう少し先ね。でも
「到着地点は嵐よ。傘ではなく
「……必要ないわ、私の天使は雨が似合うの。アナタのその何でも見通して余裕ぶっているような顔が驚きで歪むのが楽しみね」
だが度重なるセティスの嫌味とも意味深げとも取れる口調に辟易と、その表情は安息とは遠い不機嫌に染まっていくのである。
「ふふっ、とても素敵な自信だけれど、ようでは無いのよ……お見通しで余裕なの。かわいい絵本よりも読みやすいもの、アナタって」
「でも私は、とても寛大で慈悲深い神だから——多少の事は目を
「……」
そして——その表情は更に変化を及ぼされる。
妖艶な女神は、穏やかな神の笑みに何を想うか。
「さぁ……濁り酒の用意が出来たわ。お飲みなさいな、いつもみたいに狂い舐めて
「安心して良いわよ。その酒にも、この戦い自体にも……私は何の手も出してないのだから」
やがて素知らぬ顔の執事服を着た女性が白濁の液体で満たされた器を捧げた頃合い、何一つ不純の無い白の世界にて、
「では見守りましょうか。神らしく、子らの健やかな日々の営みを」
「……ええ。生も死も抱いてあげましょう……そして新たな神々の門出を祝って」
彼女らは互いの表面に偽りの笑みを貼り付け、
「「乾杯」」
互いの
——。
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