第46話 塵に燃えゆく。2/5
——。
そして、闇から
「つぁ……真夏の
高熱に
「備え付けられてる魔石の光源は——
周囲に敵影は無く、火災後の人工空洞の様子を周囲を見回して調査しながら中央へと向かって進んで行く。
すると、そんな彼の前に——
「——……イミト・デュラニウス……」
弱々しく盛り上がった
あまりにも小さな震える水溜り——しかしそれが、強炎に
「お。やっぱり生きてたか、随分と小さくなっちゃって、まぁ……」
もはや戦う力など無い風体のアーティーの前で槍を肩に担いだまま屈み、容態を
「必ず……必ず殺してやる……この恨み、痛み……忘れぬぞ……
僅かな水溜りに
「はは、それをテメぇが言うかよ。人に化けて人質を取って散々と卑怯をやり散らかしてた分際で」
その口から飛び出る
「もしかして、アディ・クライドやセティスが居なかったら上手く行ったと思ってるのか?」
しかし掻き混ぜても尚、槍の柄先をすり抜けて浮かび上がっている表情にイミトは腹を割って放ったような疑問を
「当たり前だ……‼ 奴等さえ居なければ、クレア・デュラニウスと離れて異常をきたしている貴様などに……」
すると弱り切った体を震わせて表情を怒りで
確かに、その事実は真実なのかもしれない。
物理攻撃が効かない変幻自在の流動体、まともに殴り合えばイミトに勝ち目は無かったのだろう。
だが、それは当然イミトも知る所——
「正解。でも残念なことにアイツらが来ちゃったんだよねー、可哀想可哀想ねぇ、スライムちゃん。俺と真っ向から戦いたいなら、お
自覚した上での
「……いずれ必ず、この報いは受けさせる」
そんなイミトに腹立たしさを抱え、恨めしく憎悪の目を
けれど、スライムの眼前で悪辣な笑いは尚も浮かび続けて。
「とか言って、後ろから攻撃しようとしてる辺り、せっかちだな。おススメはしないぞ」
「——‼」
唐突にイミトの背後に創られた黒い壁はイミトが肩に斜めに担ぐ槍に支えられ
「子供の遊びの
肩に担いだ槍を握り直し、スライムを見下げるイミト。不意打ちを
「そこらのガキ大将じゃあるまいし、どっちが強いとか弱いとか
自分が語るべきと思っている大人の論理、或いは失敗した己の策の甘さに対し、悔恨夥しく憎らしくイミトを見上げるスライムの顔は歯を噛みしめていた。
「——……なぜ、分かった。セティスほどの魔力感知が無い貴様が……」
「んー。一番、嫌な展開だからとだけ言っとくよ」
そして眼前の男の底にある底知れない【何か】を、未だ軽んじていたと自覚する。
「では……なぜ私の弱みを知っていた。分かるはずも無い、私に視覚や触覚や嗅覚が無いと——なぜ知っていた」
「そりゃ単純な推理だな。スライムの生態とか考えたり、お前さんが呪いを掛けた相手の視覚や嗅覚を奪う理由とか、聴覚を奪わない理由とかな。犯罪心理学的な?」
へへりと
巡り巡る知恵と知識の集約が彼の背景に見て取れる。
弱々しく震える流動体。不意打ちに使った分身は、盛り上がる力を失い、床に崩れて新たな水溜りへと成り下がって。
「——お。分身体の操作が維持できないくらいにはダメージは受けてるみたいだな。今の内に回収、回収っと」
そうすると、イミトは魔力の黒い
「……完敗という訳か。だが覚えておけ、イミト・デュラニウス。この借りは必ず……」
「何回も何回も、そういうの良いから。どうせコッチが忘れてても返しに来るんだろ」
もはやアーティー・ブランドは、その様を眺めていることしか出来ないようである。せっせとスライムの分身体をバケツ一杯に入れ終わったイミトは、容器の
「レザリクスとの連絡用に、この分身体も持っていくぞ。左の通路に逃げた本体を追い掛けないのは細やかな
「……」
そして次は、いよいよと今まで話をしていたアーティー・ブランドにも手を掛けようともしている。新たに作り出された二つ目の容器はその為の物であることは明白。
「セティスに分身の核を撃たれまくって感情が理性で抑えられなくなってなかったら、正直ヤバかったよ。俺のイキリや挑発に付き合ってくれて、ありがとな」
別れ際の挨拶を述べて床とスライムの間に差し入れるスコップ。肩の力が抜けている微笑ましく
そんな男の表情に——、
「——最後に一つだけ聞いておく。メイティクス・バーティガル……あの方の娘は、今回の件に腹心の部下であるアディ・クライドを送り込み、調査をさせていた。貴様は先ほど、あの男に酷い仕打ちをしていたな」
「やがて貴様らが首を斬り落とすつもりの女の恋を後押しするなど——
負け
「……そりゃ質問か? なんで、そうしたのかって?」
その声の意図する所に、疑問を返しつつもイミトは
「別に俺は、アディ・クライドの事は好きでも嫌いでもねぇし、アレの恋だの愛だのを邪魔する筋合いも無い。まぁ
思案しながら容器にスライムを注ぎ終え、それでもまだ思案しながら自身の行動の論理を組み上げていくようなイミトの返答。
アーティー・ブランドは、その答えを静かに待った。
そして——、答えは放たれる。
「すんなりと罪の意識を感じて体を返すような人間より、未練たらたらで自分の幸せの為に歯向かってくる相手の方が歯ごたえがあって、アイツが喜びそうだからな」
「それに、あの状況でお前の好きな奴——俺達が殺すつもりだから諦めろ、ってアディに言う訳にも行かないしな」
悪魔的に悪魔らしく優しく
とにかく酷い答えだった。
「——……極悪人め。ロクな死に方はせぬと思……え……——」
「報いは受けるさ。当然の如く、な」
最後の問いに
「よし……こっちは一段落だ。まさか向こうは負けてたりしないよな、
一つの戦いが終わり、彼は戦場に恋する想い人を想う。
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