第44話 怒れる兎と泣く女。2/4
***
彼女達は三対三であった。
響き渡る金属同士の衝突音の連続。剣と刀——金切り声の
「中々、剣の腕には覚えがあるようだ……流石はイミト殿の兄妹と言った所か。素人の
そこから一、二歩を左右に飛び退き、剣を持つ騎士は右手に持つ剣の
「……なんで?
一方、
——音がしていた。
「確かに耳障りの悪い音だな、バンシーの鳴き声とは。心を削るようなマンドレイクの根っこの悲鳴とは、また
蚊の鳴くような音響に耳を
そして、その実——四対三。
「……ウゼぇピョン。おちおち眠っても居られないピョンよ」
カトレアの声色でカトレアが放つ言語では無い言葉で、不快を口にする女が左眼を赤く満たして光らせる。
——ユカリ・ササナミ。
半人半魔——カトレア・バーニディッシュの身に宿らされた兎の魔物の真の名前。
「私の身体と声で、私に分からぬ言葉を話されるのよりは気分が良いな」
「——二つの魂が、お互いの魂を引き合ってバンシーの叫びから正気を守ってるみたい」
そしてその実——四対四。再び剣を構えるカトレアに対し、仮面の少女は何かしらの因果を感じ、仮面を外して黒い瞳と整った顔立ちを
——イミナ・ソウマ。
イミト・デュラニウスの、かつての妹にして災禍の魔物バンシーを宿す少女である。
対峙する二つの黒い瞳と、碧眼の右眼と赤い光に埋められた魔物の左眼。
この場に存在する二種の半人半魔、三つの色合い。
互いに無意識に、この場では二対二の様相である事を悟ったのかもしれない。
「貴殿は——
「うわっ、たぶんだけど説得してるんだピョンね。兄妹だからとか綺麗事を言ってそうで気色悪いピョン」
だが——同じ顔、同じ声でそれぞれに性格の違う想いを違う言語で放ち、体を半分に分かち合っている様子のカトレアとユカリ。
対して——
「……イミト殿? お兄ちゃん? 説得?」
「キモイ、キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイ‼」
「——⁉」
カトレアの言葉を受けて、まるで人格が入れ替わったように黒い瞳を赤く染め上げて何かに取り憑かれたが如く怒りに
「うっわぁ……」
荒ぶって周囲の全てに刀を振り回すイミナの様に、
そして——、
「お兄ちゃんは、いっつもそう‼ 自分の事だけしか考えてなくて、自分の都合しか考えてなくて、何でも分かってるような顔して、何でもできるような顔して、格好つけて‼」
「何にも出来ないくせに‼ 何にも変えられないくせに‼」
「……剣に重みが増したか」
イミナの激情に身を任す不規則で乱雑な動きをカトレアの剣が防ぎ、また新たな攻防が再開される。
次々に繰り広げられる
「変える必要が無いって逃げて‼ 逃げて‼ 逃げてばっかで‼」
「このっ——‼」
だが、
「——……私の事、助けてくれなかった……助けられなかったくせに……」
「「……——」」
彼女は泣いた。瞳から
しかし忘れてはならない。
その涙を流す少女の身に宿る恐ろしき魔物であるバンシーが、【泣き女】を呼ばれている事を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます