第43話 開戦。3/6
***
一方その頃、彼女らにも念願の食事の時間が訪れていた。
「では、頂きます、なのです‼」
「……頂きます」
イミトの故郷の風習に
それから互いに目の前の料理——城塞都市の城の一角での朝食と比べれば質素な物ではあろうが、良質な油で光り輝く多彩な色合いのサラダや半月状に別たれた黄金色のガレットは、陽光に満たされた朝の雰囲気も相まって充分に豪華に見えて。
彼女らはそれぞれに、フォークとナイフで料理を口に運んでいく。
そして——、
「んー‼ 外はザクザクで中はホクホク。チーズの
「確かに……ジャガイモだけとは思えない食感で、オリーブオイルの風味も嫌味な油っぽさが無くていいですね」
各々に呟く料理の感想。口元まで黒い顔布を
「そして、
「
「更に果物の爽やかな香りが加えられ、ガレットとは
自らの働きを自画自賛するように重ねていく会話。
すると、そんな彼女らとは対照的に白けた眼差しを贈る物がやはり一人。
「……大層な口振りであるな。あの阿呆がおったら、気持ち悪いニヤケ面を魅せつけておるだろうよ」
髪で作った魔力の黒い台座に横たわる人型の頭部。食事を必要としない魔物、デュラハンのクレアは退屈に飽き飽きと息を吐き、
「ぁ……ごめんなさいなのです。イミト様が居ないと、クレア様は食事が取れないので御座いますですよね」
「……」
「貴様ら如きに憐れまれる道理は無いわ、馬鹿どもが。イミトには後日、同じ物を作らせる故——我の事など気にせずに楽しむが良い」
クレアの実情に
腹立たしい人間の
しかし唾を吐き捨てる想いを堪え、彼女は代わりに溜息を吐いたのは彼女自身が向けられて苛立った
「はい‼ その時はワタクシサマも一生懸命、お手伝いするのですよ‼」
「ふん……足手まといにならねば良いがな」
しかし、それも平穏な時のみの事であろう。
彼女は魔物、非業の戦場にて生まれ生きてきた誇り高き首無し騎士のデュラハン。
「ん——……来たか。ずいぶんと、時を読まぬ事だ」
「クレア様……」
「今回は——私にも分かります」
そして、遅ればせながらとはいえ微々たる遅れ。カトレアは傍らに置いていた剣の
「まだ貴様らは食事をしておれ。剣を抜くのは向こうの出方次第だ」
平穏が
僅かな空間の異変、揺らぎがクレアが待ち望んでいた敵の来訪を告げたのだ。
やがて地に降臨なされるは、
「——……こんにちは。いえ、お久しぶり……それとも、おはようございますですかね。クレア・デュラニウス」
神々しく光を放つ白髪、他の神の光を拒絶するような
対する彼女はといえば——
「ふん。貴様、そのような顔をしておったか? その眼鏡がなければ誰だと問うておった所よ、ルーゼンビフォア・アルマーレン」
せっせと急ぎ気味に食事を採るデュエラを背後に、魔力で創った黒い台座を高く大きくしながら美しい白黒髪を波立たせる異形。
頭部のみの魔物は世辞笑いで微笑むルーゼンビフォアに対し、旧知の中の如く軽々しく
「やはり、覚悟は出来ているようですね。あの男をミュールズに送り込んだ時点で私たちから狙われると考えたのは、
すると、そんなクレアの落ち着きぶりに
「——認識の違いだな。狙われたのではない、狙わせたのだ」
それが彼女の武器か、クレアはそう思った事だろう。ルーゼンビフォアの槍が
しかし——魔法、材質、硬度、形状——あたかも品定めをするような眼差しで槍に目を落としていたクレアではあったが、ひとしきりそれらを確認するや彼女は息を吐きつつ
「あの
「……」
もう、ルーゼンビフォア・アルマーレンを見る必要は無い。そう暗に
「そして、その結果——貴様が連れてきたのは後ろの二人だ。まんまと奴の
退屈であったのだ。予想の
「その減らず口は、あの罪人に仕込まれたものですか? 戦場でしか生きられない
ここまで退屈だとは、思いもしなかったのだろう。待ちかねていた敵の挑発も、物の
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