第42話 その特別な一日の始まりに。6/6

 ——。


 そのは、彼女も持っていた。

 同じく色味を帯びて。


「うん……ようやく連絡できるようになった。こっちは問題ない、そちらにはまだ敵は来てないの?」


 彼女の名はセティス・メラ・ディナーナ。薄青い髪の下には、彼女の人生を物語る傷跡が幾つもある小さな少女。イミトやクレアと、行動や目的を共にもう一人の仲間である。


「うん……イミトとは別行動。今は私も朝ご飯を食べてる所」


 彼女もまた、城塞都市ミュールズで朝食の準備をしている様子。しかしながら調理をしている仕草は無く、城下町のテラス席のテーブルで独り、彼女は一杯のコーヒーをたしなんでいる。


 耳に薄い長方形の魔通石から伸びるイヤホンマイクのような物を付け、城下町の朝の慌ただしい街並みを鉄面皮のような眼差しで眺めながら独り言のように言葉を呟いているのであった。



「和平調印式は昼過ぎくらい。でもイミトの予想だと、事は動き出してるから予定に変更は無いと思う」


 コーヒー皿のわきに置いてあった少し茶色い角砂糖を指でつまみ、彼女はコーヒーに入れずに口へと運ぶ。甘さに眉根が僅かに寄って、しかめっ面の不愛想。


 すぐさま彼女は苦い真っ黒なコーヒーを静かにすする。



「けど、もうすぐイミトが先手を打つみたい。状況によって事態は早まる。私もイミトからの連絡待ちだから」


「敵の勢力がどのくらいかは調べられなかったけど、私たちが無事にミュールズに居る事を考えれば想定の範囲内だってイミトは言ってた。状況から見て私もそう思う」



 。その特別な一日の始まりに。

 舞台は——城塞都市ミュールズ。

 隣国アルバランと、ツアレスト王国の和平が決まる表舞台。



「ただ……イミトからカトレアさんに伝言を預かってる。その伝言に対する反応で、こっちの戦況は危険な状態になるらしい」


「うん……ヤバい奴が居るみたい。アディ・クライド……リオネル聖教の

「カトレアさん、彼は敵だと思う?」


「——……」



 その特別な一日の始まり——昼頃に行われる和平調印式を控えた朝に、



「……うん。分かった、カトレアさんの意見は聞いた。イミトには、そう伝えておく」


「それじゃあ、異変があったら——また連絡する」



 「でたジャガイモにバターが溶けた良い頃合い、ちょい足しの塩と黒胡椒」


 彼女らは、何の因果か偶然か、或いは作為に満ち満ちて——

 地面から芋を——それぞれに喰らう。



「うん。おいしい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る