第42話 その特別な一日の始まりに。3/6
その頃、彼女らの話に出てきた男、イミト・デュラニウスはと言えば——
「流石は王族用の
彼もまた一日の素晴らしい始まりに、胸を
彼の趣味は料理——、クレアらの予見通り彼は今、城塞都市ミュールズの中央議会城の内部にある料理場に誘われるままに足を運び、嬉々として目を
「ふふ……化けの皮が
そんな彼の、ある意味では
「おっと……これは失礼しましたマリルティアンジュ姫。つい
マリルティアンジュ・ブリタエール・ツアレスト。現在地でもある城塞都市ミュールズを
「イミト様のお料理好きは私も知る所……料理長にも話は通してありますので、この一角は御自由になさって頂いて構いませんよ」
けれどそんな身分違いの彼の態度を、僅かでも気にも留めてない風体で穏やかに首を
調理場でコチラの様子を
けれど、イミトには別の人物について不安に思う所があったのだ。
「それは有り難いが、わざわざ姫にお付き合い頂かなくても……また、あらぬ誤解を周囲に与えかねませんし」
昨晩、宴の席にて様々な貴族や国の要人たちに向けて公表された隣国の王子との婚約。その宴にてイミトは、マリルティアンジュ姫の婚約者となったアルバランの王子クジャリアースと
しかし、だ。
「いいえ。問題ありません、アルバラン国のクジャリアース王子とはキチンとお話をしておりますし、昨晩の
それも踏まえて、互いに普通の会話。ごく自然に
そして——、
「出来れば、セティス様も御一緒できれば良かったのですが……」
次はマリルティアンジュの手番と、話は自然に移り変わる。
「セティスは早朝より旅の物資の補給に向かいましたので。今日の和平調印が済み次第、次の旅に出る身として用意は早いに越したことはありませんので」
その問いは、申し訳なさそうな
「そうなのですか……もう少し、ゆっくりなさっても
刃に映る姫の憂いの直ぐ後ろ、メイドの視線にイミトは
「申し訳ない。待つ者も居る
そっと静かに包丁を置いて——またも愛想のような
「そうですね……少し寂しくもあります。お引止めしてしまって申し訳ありません」
しかし当の姫は、気にも留めずに普段通りを
その王族らしい社交的な立ち振る舞いに、イミトは密かに舌を巻いた。
そして——
「それで——、今朝は何を作って頂けるのでしょうか?」
話は更に移り変わり、彼——彼女らもまたその特別な一日の始まりである朝食についての話を始めるのである。
イミトが作る朝食——何を作るのかと尋ねた姫君に、イミトは答える。
「ジャガイモのガレット。ガレットは、とある地域の言葉で『円く焼いた料理』という意味を持ちます。ガレットの種類は朝食や酒の
片手で上に軽く放り投げたジャガイモは、何の因果か偶然か、或いは作為的にクレア達が今まさに作っている料理の食材と同じ物。
「今回、使う材料はオリーブオイル、ほうれん草、チーズ、そしてジャガイモですね」
パシリと故意に音を立てて宙に放っていたジャガイモを
「ベーコンやハムなどを入れても構いませんが、今回はシンプルにジャガイモの味を楽しんで頂きたいと思います」
そして質を確かめ終わるや、それをまな板の上に置き——
「あまり
傍らの包丁を手にしたイミトは——
「まずはジャガイモの
「「……はい。かしこまりました」」
——。
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