第42話 その特別な一日の始まりに。2/6
「……カトレア。貴様、料理と
「ええ⁉ あ、いえ……あの……で、でも皮を
そこまで来れば、傍観していたクレアも痺れを切らし、気付きを放つ。その指摘にカトレア・バーニディッシュは随分と慌てふためいたものだった。背後のデュエラの不安そうな表情も僅かに視界に入ったのも相まって、彼女は急いてジャガイモを黒い作業台のまな板の上に置いて包丁の刃を
それが、答えであったのだろう。
「——
さしものデュエラも、まな板に置いたジャガイモに包丁を突き刺すのは皮剥きでは無い事を知っている。顔布で表情こそ見せないが、その落胆の感情は彼女に肩を落とさせて。
「全く……騎士のくせに刃物一つ思い通りに出来んとは……」
「くっ、申し訳ない……」
そのデュエラの視線やクレアの呆れ果てた様子に、不甲斐なさを
すると、包丁が置かれた音を見かねて、クレアが溜息を吐いた。
「仕方のない——……コレを使うが良い」
そして頭部しかない彼女が、その特徴的な美しい白黒の髪を波立たせ、黒い煙のような魔力を
——物体の創生。デュラハンであるクレアの特技。
「これは?」
「ピーラーとかいう道具よ。デュエラ、その二本の小さい刃の腹を芋の皮に当てて軽く
今回、彼女がまず初めに創り出したのは掌で握り締められるサイズの調理道具であった。持ち手の先——、二股に左右対称に別れた場所に平行して日本の薄い黒い刃が光る道具。
「は、はいなのです——……ふわっ⁉ 簡単に皮が
それは、初見のデュエラが驚きの声を上げる程に容易くジャガイモの皮を
「ふむ。それならば、貴様らでも扱い
クレアもその道具は初めて創ったものであったからか、デュエラが次々に
「ピーラー……こういう便利な道具があるのですね……」
カトレアもまた、難儀と思えた皮剥きを軽々とこなしていくデュエラの
「……イミトの知識を基に作ったものだ。さっさと皮を剥き、手早く料理を作ってしまえ」
「ありがとうなのですよ、クレア様‼ おかげで朝ご飯に苦労せずに済むのです‼」
「確かにこれなら、私にも……」
恐る恐ると手を伸ばし、カトレアが手に取ったのは新たなジャガイモ。デュエラが楽々ワクワクと現在進行形で
こうしてクレアの魔力の基にした物体創生で創り出したピーラーを用い、彼女らは作業は始めったのだった。
「
雲行きは温厚、夏青空の分厚い
その余りある穏やかさに、戦場で生まれた彼女は
そんな折である——、
「そういえば、昨晩はイミト殿から連絡などは無かったのでしょうか」
「有りはせぬ。おおかた、
作業の片手間でクレアを退屈させまいと気を利かし、そのついでに気になる世の中の動向を探ろうとするカトレア。クレアは
「ふふふ、イミト様たちなら問題は無いので御座いますです。きっと今頃、イミト様たちも朝ご飯を作って居る頃なので御座いますよ」
すると次々に剝かれていくジャガイモに
「いや、ミュールズの城では流石に……使用人が料理は作る物ですし」
状況が状況、そうカトレアはデュエラの推測に異を
「まだ貴様はあの阿呆を解っておらぬ。どんな
「……」
直ぐ様にクレアに否定され、話に出てきた男の顔を思い出させられた様子。クレアも否定の言葉を吐く内に、悩ましげに眉間にシワを寄せていき、顔を空から下に
「全く以って平穏よな……如何なる用意をしておるか知らぬが、もたもたせずに早う来れば良いものを……ルーゼンビフォア・アルマーレン」
それでも、頭部のみの彼女は様々な意味で手の届かぬ位置にある事柄の事など考えても仕方なしと、積み上がっていく皮を剥かれたジャガイモに
——。
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