第40話 春の下、虫二匹。1/5
樹齢千年は
背景は黒いが闇は無く、星々の
床の白タイルに敷かれる赤を極めた
「いよいよ始まるようですね。神、ミリス様」
傘持ちの執事服を着た女性が言うに、彼女は神であった。桜の木の下で見事な赤に染まる
「ふふ……おかしな事を言うものね、アルキラル。もう始まっているのよ、彼らの戦いは」
「血飛沫が飛び交うばかりが戦争では無いもの」
姿形などはあって無きに等しく。
傘持ちの天使アルキラルが、神ミリスの御前の供えられた大きな赤い盃の水面に映る世界を見下ろして話しかけてきた話題をクスリと笑い、
すると、大きな盃に映っていた景色は変わり、人の子らがそれぞれの思惑を胸に
それは、セティスの入浴が終わるのを待つイミト・デュラニウスであったり、
人の姿から
或いは静かに剣気を
「……確かに互いに巧妙に動いている様子で。どちらが勝つか……私には分かりかねます」
次から次に様々な人物の様子が盃の水面を
彼女を桜吹雪から守る為の番傘をクルリと回し、積もった桜雨は風に運ばれ改めてと黒の世界に飛んでいく。
すると、神ミリスは
「罪人さんが勝つわよ。ルーゼンは彼が何をしようとしているのか、考えていないもの」
そして素知らぬ顔で酒の薫りを
「それは——未来を見た結果なのでしょうか」
天使アルキラルはそんな神の
——それが過去なのか、現在なのか。或いは未来なのか、と。
「いいえ。折角こんなに面白そうな展開なのに、そんな無粋な真似はしないわ。先が分かっているって、退屈だもの」
しかしながらアルキラルの指摘に着物の
大きな盃の
「単純な予測として罪人さんが勝つと考えてる。今の彼女は神の力の
そしてミリスは横たわりつつあった体を起き上がらせて、着物の乱れを整えつつアルキラルに
その意は迅速に理解されたのだろう。
「——しかし、恐れながら状況として圧倒的に優位に立つのはレザリクス側です。あの罪人の思考や考えている策が最善を尽くしていて有効なのは認めますが、選択できるカードが多いのは、やはりルーゼンビフォア様の方かと」
持っていた傘を開いたままに据え置いて、ミリスの傍らに辿り着いたアルキラルは片膝を着き両手で丁寧に宙に浮いていた酒器を持ち、最後の
「でも、選べるカードは常に一枚ずつなのよ……どんな世界であろうと、幾ら選択肢が多くたって、それは絶対の理」
「……」
その堕ちる最後の
「まぁ私個人の願望も込みで、自信を付ける為にも彼には勝って欲しいってのもあるわ。まだまだ彼やルーゼンには働いてもらわなきゃいけないものね」
「……そろそろ
そして一啜りする酒の薫りに満たされて、
「そうね。客人も訪れ始める頃かしら、勿論おかわりは必要よ」
「かしこまりました。ただちに用意させて頂きます」
酒席は四つ。
「——花見を
バツ悪く笑む
そんな折、一匹の蜂が羽音を鳴らし、
桜の吹雪を
「
「……
「ご報告を。我らが神よ」
「聞きましょう、貴方たちが、こんな私を神だというのなら」
世界の意図せぬ動きの中で、とても微笑ましいと思いながら今日も彼女は、子らを見守る。
——。
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