第32話 嘆きの峡谷。2/4
「殺せは無いだろ‼ 茶目っ気あふれる子供だまし程度で‼」
「オオオオオ‼」
ガシャガシャと鎧を鳴らして走り出したデスナイトの咆哮に対し、クレアの極論ぶりに異議を唱えたイミトではあるが、静止させて話し合う時間などは
「ぶっとい大剣だな、クソ……コンプレックスの裏返しかよ」
デスナイトの振り下ろした大剣を避けるべく後ろに飛び
「からの、タックル‼」
だが、戦いの号令が掛けられたデスナイトが遠慮することは最早なく、続けざまに鎧を盾に肩をイミトに向けて猛烈で瞬発力のある突進をした為に、イミトは緊急回避と真横の岩や砂利ばかりの河原に
「っつ~、転がるのもタダじゃないな、小石が食い込む」
『鎧を着込まず軽装などと
即座に問答、しかしクレアの言動と共にデスナイトの追撃は止まず、イミトはそれを何とか飛び退いて
「正論を投げてくるんじゃねぇよっ‼」
だがやはり、イミトが投げた石はデスナイトの
しかし、その事実は光明でもあった。
「……視覚共有してねぇな。魔力感知で位置と動きだけ確認して操作してると見た」
『む……それが判ったから、どうしたというのか‼』
小石を投げた際のデスナイトの反応と、クレアの言葉によりデスナイトという戦術の不安要素を考察したイミト。
しかし、そんな事は
「オオオオオ‼」
確かに、それは——ほんの
けれど、イミトにとっては
「こうすんだよ、【
『魔力の煙だと⁉
故にイミトは施策する。これまで掌に灯していた黒い渦を
そしてその策の一段階目は成功とそういって
「——……視界を
一瞬の暗闇に戸惑うデスナイト、二段階目の策は同時に進行していた。
『——上か⁉』
デスナイトの大剣が引き起こす暴風で散る
確かに、彼はデスナイトの頭上に存在していた。
「今回限りの大放出だ【
恐らくは黒い煙を噴き出すと同時に、天井を突き抜ける様に凄まじい
そして、
「【
「ついでに、ポールのダンスも見せてやろうか」
一瞬にして遥か下の地面——ひいてはデスナイトを貫くべく、延々と長い黒い槍を創り出すや、物の見事に支柱が如く直立に突き立てられた槍を足場に器用に空中にも
しかし、結果として
『……ぬるいわ。愚か者‼』
すんでの所で槍はデスナイトに
「だろう——なっ‼」
それでもイミトは動揺しない。予想の
「それで? デスナイト経由で武器は作れんのかい、クレア様‼」
『武器とは——、武技があってこそ武器なのだ‼』
デスナイト経由とはいえ、本腰を入れて対峙するクレアとイミト。互いに不敵な笑みを浮かべ続け、何処か楽しげ。
続けざま、追い討ちをかけるようにデスナイトが放った巨岩の回転を目撃したイミトは柱の槍を手放し、今度は己が扱い易い長さの槍を再び創り出して、これ見よがし。
「岩を砕くに、
『それが甘さだと、言っておる‼』
やがて至れる決着の幕開けを、イミトは岩を砕く己の槍の
だが、岩を砕くと同時に視界に入るデスナイトの突進。
更には——
「隠しナイフ‼ クソ——‼」
事前に、イミトと戦うその前から
「……ゴホッ、加減はあっても……ヌルさはねぇか」
「オオオオオ……」
地面に跳ねて転がったのも相まってイミトが受けたダメージは相当のものであるようだった。衝撃を吐き出すように漏らした
イミトより遅れて地面に降り立つデスナイト。先ほど投げて蹴飛ばされていた大剣を拾い上げ、骨身の顔——
『ふん。どうやらここまでのようだな、
「言ってくれるな。確かに、その馬鹿デカい剣を受け止めきれる硬さは無いが、間合いも速さも小回りも、こっちの方が、歩があるかも知れねぇぞ」
『ふふふ、であれば……試してみるか?』
『「……」』
それでもイミトは立ち上がるのだ。悔しさに砂を握り、改めて槍を手に取り、挑発めいた物言いのクレアに立ち向かう。
ジリリ、緊迫の空気の中——嘆きの峡谷はとても静かな風を贈った。
——その時だった。
一発の銃声が空気を切り裂き
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