第32話 嘆きの峡谷。1/4
——とはいえ、嘆きの峡谷で語らねば出来事はまだまだ続いていた。
「あー
魔力で創りし黒い槍で、峡谷の谷底に
「それで片付けたと思ったら——……」
そして、ひと段落と
「「フシュゥールル……」」
そこに居たのは二体の筋骨隆々な
「今度はパワータイプの誕生で時間が掛かって、数だけの連中が増えていく訳だよ」
二足歩行生物とは言えど、その
そして——、
「クレアは魔力感知の圏内……つーか、わざとギリギリの速度で中に居るって感じだな」
イミトが
「バオォォォン‼」
その威嚇を受けた巨猿が
故に、イミトは妙案を張り巡らせたのだ。
「よっと……心配性なのか意地が悪いのか……【
心ここに
それは、これまでの物体創生とは違う動き。黒い渦のまま
「ブホっ⁉」
そして
——それが、まず一つの段階。
「【
更に二段階、膨れ上がり
「——バルブシッ⁉」
それは——あまりにも強烈な一撃だったのだろう。鎖に繋がれた回転によって遠心力を付与された鉄球は、回転円の軌道上に踏み入っていた
「良いな。これで薙ぎ払いながら追いかけるか……いや」
「これで————どうだ‼」
やがて進むべき方向に鉄球を解き放ち、同時に大腿筋がハチ切れんばかりに全力で岩ばかりの河原を駆け出して飛びゆく鉄球に追い付き、
「うしっ、これで馬車を見つければ——居た‼ やっぱり空を走ってやがったか」
空を猛烈な勢いで飛行する鉄球。その頭上にて
しかし、だが、或いはやはり、
「ん——……なんだ、アイツ?」
『そう易々と勝ち馬には乗らせんよ』
——彼女が、そこに居るのである。
彼女もまた馬車の位置を感覚で把握するイミトと同じく、イミトが猛烈な勢いで近づいた事に気付いたらしく、脳裏に届くクレア・デュラニウスの声。
「クレア‼ アイツまた——‼」
クレアの不敵な声色に他の事に気を取られ、反応が遅れたイミトの視線の先には、馬車の天井にて佇む漆黒の存在があった。
その存在を始めに認知した瞬間——想起したのは嘆きの峡谷に至るまでに倒したクレアの魔力が生み出して兵士ではあったが、何処か違う。
見るからに武骨で強者の風格を漂わせる漆黒の全身鎧の騎士姿。
威風堂々と巨大な黒い大剣の剣先を馬車の天井に置き、剣の柄の尻に両手を置いている佇まい。そんな存在が、首を上げて骸骨の顔を覗かせて憎悪に満ちた赤い
刹那——イミトは全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。
「‼ 速っ——ぶねぇっ⁉」
馬車の上で直立不動だった漆黒の存在は、イミトの姿を視認するや否や、黒い鉄球めがけて馬車の天井から跳び上がり、瞬く間にイミトの眼前にて剣を振り抜く。
さしものイミトも突然の危機に際し思考する
そこでようやく、クレアが得意げに漆黒の存在について語り始めるのだ。
『我が直々に操る特別製のデスナイトだ……先ほどの玩具のようには行かぬぞ‼』
「ちっ‼ お人形遊びはパパやママとやって欲しいんもんだな」
描写こそしなかったが、イミトは割かし魔物と比べれば嘆きの峡谷に至る前にクレアの作り出した死霊騎士たちには苦戦を
しかし現在、目の前に存在するデスナイトは、クレアの言葉を聞くに彼女自身が操る——言ってみればルールなき生き物。更に加えて操縦者のクレアは、百数十年は確実に戦場を渡り歩き、戦場の処刑騎士と恐れられる程の
「良いぜラスボス……こちとら、負けたくないから戦わねぇ程の負けず嫌いだ。たまには正々堂々とやってやんよ」
よって頬に一筋の冷や汗を滲ませつつ、槍の長い柄を握り締めるイミト。彼も不穏な気配に強がり不敵な笑みを浮かべデスナイトへと対峙する。
「ふん。よかろう……ソヤツを倒せれば、此度は貴様の勝ちとしてやる」
どのみち越えなければならない敵とはいえ、槍を構えたイミトの意気に、止まったままの馬車に居るのであろうクレアは敬意を示す一言。ここで足止めをせず、決着を付ける心づもりになったのは恐らくはその敬意の為なのであろう。
——だが、イミトは言った。
「あっ……いや、勝利条件を変えるのはナシで」
そんな配慮は要らないと。
『「……」』
沈黙するデュラハンの二人。
そして——、結論。
『殺せ‼ デスナイト‼』
クレアは
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