第22話 セティスの朝食。3/4
「それで、他の方々の目的というのは」
そして彼女は、別の話題に逃げるように今度は口元まで顔布を
デュエラも、その視線には直ぐに気付いたが——
「ワタクシサマはイミト様とクレア様を守ることが目的なのです、そしてイミト様の御飯を沢山食べるのですよ、もみゅもみゅ」
メデューサ族の呪いを嫌って少しカトレア達から顔を背け、赤いカレーに浸したのであろうパンを頬張り、話を終わらせる。
そんなデュエラを気遣って、次はイミトが小さな
「あー、俺も特に姫様には用は無いな。ぶっちゃけ、カトレアさんはともかく姫様は好みじゃないしな。性格が」
あまり気弱なデュエラを見つめるなと言わんばかりに喉を鳴らし、
「……⁉」
「き、貴殿はあまりに無礼が過ぎる‼」
すると、イミトの思惑通りか椅子が倒れん勢いで立ち上がるカトレア。
身分の差など
「俺はデュエラくらい美味そうに飯を食ってくれる奴のが好みなんだよ。さっきからカトレアさん任せで一言も喋りもしない。仕方ないだろ」
されど如何せん、思った事は思った事と開き直り、テーブルに頬杖を突いたイミトは尚も飄々と嫌悪と不満を滲ませて。
「冷静に考えろっての。逆に俺が口説いても良いのかよ」
「「……」」
更には言いたい放題に言った矢先に大義名分の
「な?」
悪辣に嗤う悪童。不愉快と嫌悪が二人の人物から向けられるのは自然の事だったのかもしれない。
それでも、
「……ふん。こやつの非礼なら我が詫びよう。そんな些末な事より話を進めるぞ」
周囲の仲間の中ではイミトと一番長い付き合いであるクレアが
何故ならば、セティス、デュエラ、イミトの次に語られるであろうクレアの目的が、カトレアやマリルティアンジュにとって最も気になる事柄であったから。
「我は、奪われた真なる体を取り戻すために動いておる。我の体を奪った者の名は貴様らも良く知る人物ぞ」
「良く知る……人物?」
異世界より転生したイミトは深く知らぬ事ではあるが、クレア・デュラニウスはツアレスト王国において襲い来る魔王の軍勢に対し、他の英雄に助力し大剣を振るった異端の魔物、デュラハンとして語り継がれている。
そんな彼女が語る【デュラハンの肉体を奪った】ある意味で逆賊の名をカトレアとマリルデュアンジェは固唾を飲んで待ちわびた。
「レザリクス・バーティガル」
「馬鹿な⁉ 最高司祭様が、かつての戦友の体を⁉」
それが全く以って思いもよらぬ英雄の名だと知らぬままに。
「因みに、セグリス(仮)の関係者だと俺達は
そして驚愕の事実に対する余韻すら生まれる
「うそ……リオネル聖教が和平の邪魔をしているというのですか⁉」
両手で口を押さえ、そんな話が信じられるものかといった様相のマリルデュアンジェは椅子に座っていた腰をさらに深く堕としたような面持ち。
だが——、
「そこまでは知らぬ。それとカトレア、我と奴を戦友などと二度と
「殺すぞ」
「——⁉」
カトレアが驚きの中で漏らしてしまった言葉が触発したクレアの激情——身も心も震えあがりそうな途方もない憎悪の魔力に当てられれば、反論の余地は消え失せ、あたかも事実であり非情な現実であるかの如く圧倒される他は無い。
唯一の救いと言えば、
「ま、レザリクスってのがどういう奴かは置いといて。マリルデュアンジェ姫様」
あろうことか、嫌悪の対象であった男の軽口が何一つ変わらずにそこにあったという事だけで。クレアの視界を塞ぐように掌を差し出し、彼女に感情的になるなと
「今のこの状況じゃ、他人を下手に信用すると痛い目を見るぞ。暗殺され掛けたんだ、あらゆる可能性は考えとくべきだろ。アンタを信じている、そこの騎士様を死なせたくないんなら特にな。体を動かさないんだから頭くらい動かせよ」
まるでクレアの怒りから視線を逸らすように並べ立てる説法、黙々と素知らぬ顔で食事を続けるセティスとデュエラを尻目に肩の力を抜きながら流し目をカトレア経由でマリルティアンジュに送るイミト。
するとマリルティアンジュは食事を再開しようとしたイミトを注視し、意を決したが如く背筋を伸ばして息を飲む。
「……それは、貴方様も含めてという事なのでしょうか」
「——はは、そうだな。俺も含めて、だよ。今までの失礼を謝りたくなった」
思いも寄らなかったのだろう。パンを千切る手を止め、キョトンと一瞬だけ呆けた顔で固まり、イミトは思わぬ反撃を笑い、嗤う。
その後は一転してゴキゲンな様相に変わり、軽い手の動きで千切ったパンを口の中に放り入れて。それを機に、話の流れの空気感も若干だけ明るいものに変わったようだった。
「それで、アルバランとの調印は何処でやる」
そして怒りを鞘に納めた様子のクレアも話題を変える事を暗に了承し、率先して話を進めるのである。すると、先ほどの威圧の余韻にカトレアは息を飲んだが、これから放つ言葉を整理するように瞼を一度閉じて僅かに漂う沈黙の余韻。
「最終目的地は西方との国境から王国寄りの城壁都市ミュールズです。そこで調印式は行われると聞いていますが——しかし」
「なんだ。歯切れの悪い」
それでもカトレアの声には
「ツアレスト王と最側近の近衛兵士長しか知らないのです」
彼女自身も、不明瞭だったのであろう。
「……何をだ? 嫌な予感しかしないんだが」
汗ばんだ面持ちに伝染する不安、イミトは危機感という程では無い面倒事が
それと時を同じく、自身の従者が何かを
「——私、マリルデュアンジェを含めた王族が幾つかの道に別れ、調印の儀に使われる王家の印を運んでいるので御座います」
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