第2話 密室専門担当者

 翌日センターに行くと、まだあの机には荷物が置いたままだった。


 机を見た視線を戻すと、先輩と目が合った。


「大丈夫だ。ちゃんと連絡しておいたから」


「そうですか」


「あぁいう奇怪な宅配は、そう何度もないからな。常駐はしてないんだよ」


「そう……ですよね」

 奇怪な宅配。言い得て妙だった。

 宅配物が、というよりも、あの部屋が奇怪だったが。


 自分の配達するエリアを確認して、荷物を積み込んだ。

 さ、今日もいっちょう、がんばりますか。



 ◆


 宅配から帰ってくると、天狗のお面をかぶった青年とすれ違った。


 ぎょっとした。出入口の扉を閉めたままの状態で固まってしまった。そのまま後ろ姿を見送ると、テーブルの上の荷物を持ってこっちにやってきた。


「あの!」


「え? 俺?」


 天狗のお面を頭にずらすと、人の良さそうな好青年の顔があった。もったいない。どうしてこんな怪しい面なんてかぶっているんだか。


「あぁ、その荷物。届けに行くんですよね?」


「まぁ、俺担当だからね、これは。俺しか配達出来ないと思うよ」


「気になるんだ。ちょっと見に行ってもいいかな?」


「いいけど、じゃあ俺ごと配達してよ。車、あるでしょ?」


 重いんだよね、これ。

 と、その荷物を俺に渡してきた。


 まぁ、いいだろう。

 自分から持ちかけた話だ。

 あの難攻不落の、要塞の、出入口のない密室に、どうやって配達するのか、見ものじゃないか。


 青年の姿はいつの間にか無く、外に出ると先を歩いていた。


「あそこの〇〇屋って書いてあるワゴン車だよ」


「あぁ、この車ね」


 車のカギを開ける前に、彼は車の助手席に乗り込んでいた。

 あれ、カギ開いてたかな。


 いや、ドアを開けようとしても開かなかった。カギがきちんと閉まっている。

 ん? じゃあどうやって彼はこの車に入ったんだ?

 これも何かのトリックか何か?


 天狗のお面と言い、あの溶接された扉と言い、先輩の言っていたように『異世界』に入り込んでしまったかのような錯覚を感じる。頬をつねった。現実、だよな?


 アパートメント狐に着いた。

 見上げると、5階建てのアパートが佇む。アパートにしちゃあ、高いよな。


「じゃあ、お兄さん。俺は先に行ってるから、荷物よろしくね」


「は?」


 青年は扉の閉まった玄関の奥に消えていった。

 くそ。重たいものを運ぶんだから、せめて扉は開けておいてくれよ。

 まったく、最近の若いやつときたら……。

 いや、俺もまだ若い、はずだ。


 はぁ。よっこらせ。


 2階で良かった。

 これで5階まであげろと言われたらさすがに怒っていたかもしれない。自分から言い出したことなのだから、我ながらわがままな話だが。


 踏み抜いた階段を横目に、申し訳なく思いながらもなんとか2階まで荷物をあげた。


 204号室の、あの異質な扉の前で天狗の青年が佇んでいた。

「はいよ。じゃあ頼むよ」扉の前に荷物を置いた。


 溶接された鉄の扉を彼の細い指が撫でた。

「あ、ダメだ」


「え? 何が?」


「中に入れない。密室じゃなくなってるみたいだ」


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