公爵家に狙われる?
重装歩兵が武器を捨て、地面に伏している間にユウジ一行は、その場を離れることにした!ゲイルはユウジに怯えながら、先頭を歩いて裏路地を進んでいく。ゲイルの話では最近、王女様や聖女様が仲良くなっており、近いうちに勇者を召喚するという。しかし王女様は床に伏してしまい、その聖女様は一人で勇者召喚をしようとするが一人では術が発動出来ず、落ち込んでおられる…らしい。また聖女様は反対の地域のスラムや孤児院へ向かって何かを捜している…という情報があったらしい。だが反対側の地域は、ここと違って盗賊紛いが多いらしく、ゲイルは聖女様が心配だそうだ。それでもゲイルは反対側には手を出せない、いくらA級冒険者でも弱いと思われがちな盗賊が強くて太刀打ち出来ないのだとか…。勿論それは、この世界の中では…というものでユウジにとって障害で無かったりする。
ゲイルと会話をしていると、裏路地の中央と思われる噴水前で黒のフードを被った数人が通れないように包囲していた。だが近くの民家を通った後、ゲイルは手ぶらだが、ユウジと弟子は古い槍やら農具やらを持っており、進行を邪魔しようと来た途端に弟子達が農具を
「あなた方を襲って申し訳ありません!どうか彼らの命だけは御助けを、私はどうなっても…」
「「マスター!?」」
「ふむ、別に怪我をした訳でもない。襲撃されたから反撃しただけだが、お前達は何者だ?身なりからして、どこかの…」
「!…私達はスラム街で営んでいる闇ギルドのマスターをしています。私達の活動は盗賊や野盗などから金品の換金や…その奴隷売買をしていて、よく兵士に追われます。この王国では奴隷制度が有りますが、私達の闇ギルドでは借金を作った為に奴隷落ちとなった者を扱っています。しかしながら、この王国では犯罪による奴隷以外は違法奴隷という事で、追われてしまうのです」
『む、後ろから兵士が来るか…。人数は…四十人そこらか、弟子達なら余裕だろうが。先の戦いで闇ギルドのギルド員(?)は行動不能だからな。貸しを作っておいて損は無いだろう。』
「おい、魔法を使える奴は居るか?」
「「「はいっ!」」」
「では『ファイヤーボール』だと民家に被害が出るから、『ウォーターボール』で後方に向けて十秒後に放て。その後、そこを通った者の足下を『氷結』で凍らせろ!」
「「「分かりました!」」」
「あっあの何かが近づいているのでしょうか?我々も何か手伝いましょうか。」
「あぁ。こちらに騎士団が大勢連れて近づいているので、足止めをしようかと思いまして。あなた達は物陰に隠れていてください。」
「あっ、分かりました。少しで良いので見学と言っては不相応ですが、しても良いでしょうか?」
「あぁ、構わない。お前達も良いな、間違っても巻き込むなよ」
「「「はいっ!」」」
闇ギルドのマスターは仲間に物陰に隠れるよう指示し、自分はユウジの近くへ向かった。仲間達はマスターの行動を疑問に思ったのか、数人だけマスターの背後に控えた。マスターは好奇心に駆られていて、背後の仲間に気付けなかった。ユウジはマスターに敢えて言葉に出さず、弟子達を静観する事にした。闇ギルドのマスターはユウジの弟子を見守り、マスターの仲間達は更に疑問が増える。しかしユウジの側に居るコウとナナが控えつつ、闇ギルドのマスターとその仲間に目を光らせている為、それほど近付けずにいる。
ユウジはコウとナナの行動で周囲の警戒は怠らず、弟子に指示した事を見守っていた。足音から数分後には来る事が分かる。コウは闇ギルドのマスターを不審に思ってか、気付かれないように睨みを利かせている。だがナナは未だ半人前な為、警戒されている事を悟られるほど睨み続けている。コウはナナの行動に
そんな睨みが続くかとマスターが思う頃になって、騎士団が近くに来た!騎士団の中には杖を持った者もおり、魔導士と思われる。弟子達は騎士団の存在に気付くと、
『『『ウォーターボール』』』
既に詠唱が済み、『ウォーターボール』が放たれ鎧が重い
そのペースは異常に早い為、闇ギルドのマスター達は唖然とした。それもその筈、『ウォーターボール』を放った後で、ただ「氷結」と言葉を発しただけなのだから。その場で騎士団は凍った地面から動けずに居たが、最後尾にある馬車よりメイドを連れた少女が下りてきた!これにはユウジも驚いた、弟子は不審に思い、ユウジの元へ後退する。コウは弟子に指示を出し、ナナは馬車を警戒する。闇ギルドのマスター達は馬車に付いている紋章を見た瞬間、ローブで素顔を隠しだした。
「ゆっユウジ殿、いずれ教会へお越しください。あの馬車は、この王国に数少ない公爵家の馬車であります!我々は顔を知られている為、隠れねばなりません、どうか我々だけでも…」
「あぁ、先に撤退してくれ。俺達は
「「「はいっ」」」
「有り難い、それでは我々は…」
「お前達は後退して、コウとナナの側で待機!アレは俺がやる。」
ユウジは弟子を後ろへ下がらせ、先行する。弟子一行が一定の距離を置いたのを確認すると、ユウジは程々に殺気を馬車へ向ける。
◆◆◆
時は少し
そんなエリスはユウジの魔力をスキル『魔力感知』で見抜き、かなりの強者と目星を付け、騎士団を来させて、ユウジの跡を追う。ユウジによる殺気で重装歩兵が来た事は想定外だったが、ユウジ一行の脱出を予想して遠回りして裏路地へ向かっていた。
『何なの、あの魔力は桁違い過ぎる!しかも、あれ程の殺気を放つなんて…』
「お嬢様、いかがなされました?」
「いえ、考え事よ。それで裏路地…いえ、スラム街には着くのは、いつ?」
「あと十数分には。この先で戦闘があるようです、今も爆発するような音が聞こえますし…」
「騎士団を連れてきているから、速度が落ちるのは仕方がないわね。」
「そうですね、ほほほ…」
『でも何か変ね、こんなスラム街で戦闘したら、すぐにバレるというのに…まさか!』
「すぐに止めて!罠かもしれないわ!」
「ええ!?」
「『皆さん、一旦止まってください!』」
「「「えっ」」」
騎士団から間抜けな声が上がると同時に、初級水魔法『ウォーターボール』が騎士団に向けて放たれてくる。騎士団は『ウォーターボール』に当たると、鎧の重みで地面に伏していく。更に驚いた事に、地面に広がった筈の水が凍り出したのだ。例外なく、足下は凍り、馬車の馬の周囲も凍り、動けなくなった。
そして道の先で動きがあった。黒いローブを着た者が数名離れていき、見慣れない者が跡を追っていく。ここまで来て流石に逃がせないと、馬車からメイドと共に下りる。エリスが馬車を下り終えた時、騎士団の先から地面に伏さなければ耐えれない程の殺気を放つ男が、こちらへ向かって来ていた。
◆◆◆
『さぁて、どうしようかな?杖を持っている者は魔導士だろうから、杖だけ壊せば時間稼ぎにはなるか…。あの少女は何か警戒してそうだな、戦うしかなさそうだな。ん?』
「敵を狙え!『ファイヤーアロー』」
「なっ!」
「お嬢様を安全な場所へお連れせよ!『ライトニング…アロー』」
「止めぬか、私はアレを…」
………ゴーーーーーン!
ドゴーーーン………
「なぁっ!何故だ、なぜ立っていられる!?」
「悪魔か」
「悪魔じゃ生温いだろっ」
「お前達、何をするか!先制攻撃したら、攻撃されても弁明できぬではないか!」
「「「あっ」」」
「魔導士は地面の氷を溶かせ、私達で足止めをする。急げ、まだ間に合うかも…」
「お嬢様、我々メイドだけで良いですから!あなたは馬車の中でお待ちを…」
「嫌じゃ、流石にアレから逃げ切れる気がせん!謝罪をする他あるまい。」
「魔法を放ったのは我々です、それが"公爵家の義務"でも今回ばかりはいけません!」
「しかし、それでは…」
「お嬢様、危険です!あの男から、かなりの魔力を感じます!お離れを…」
「へっ?」
「『我等の前に存在せし、敵兵どもに天罰あれ!我が
「お嬢様、アレは何の魔法でしょうか。聞いたことが無いのですが、何か嫌な予感がします!」
「あぁ。アレの魔法術式が分からん、あんな魔法は本でも見たことは無いぞ。」
「お嬢様だけでも、逃がせないでしょうか。幸い、まだ詠唱しているようですし…」
「無理じゃ!」
「なぜですか、スラム街を無くせる魔法なんて有りませんよ?」
「それは…」
「『我が前に来い、我に従え!』…こんなところかな」
ドゴーーーン!
「あぁ、あの魔法陣は何でしょう。あれって、あの召喚魔法ですかね、お嬢様。」
「えぇ、でも普通の魔法陣ではなさそうな気がします…」
「ん?」
『我等を喚んだのは、お前か?人族
『おい。人族を舐めるのは、こうやるんだよ!おい、人間。同族殺しなら他を当たってくれ!それでも頼みたいってんなら、美女を持って来い!ぎゃははは…』
「あっそ。んじゃ、リリースで」
『『えっ?』』
「お前らに頼もうとしたのが大きな間違いだったよ、返還してやるから待っとけ。」
『いや、待て待て待て。』
『俺らが必要とされていないだと?そんな訳が、…おい!人間、一回手合わせと行こうか。どっちが上か思い知らせてやろう。ぎゃははは…』
「ほぉ、では行くぞ!」
『どこからでも掛かって来いやぁ…』
『人族風情が我々に刃向える筈が…』
……… グシャッ!
『おい、お前…その骨は何だよ?』
『お前こそ、その羽は…』
「意外と脆かったな、やっぱり返還しようかな。あっ…お前らさ、この羽と尻尾って要らないよな?」
『『えっ!』』
「そうかぁ、要らないか。じゃあ、燃やしておこうかな」
『えっと…それって…』
『あれ?この羽って…』
「そうだよね~、後で燃やしておこう。んじゃ返還するから…」
『『待ってください!謝罪するので許してください、お願いします!』』
「ふ~ん。それで、お前達の名は?」
『私は現・龍王、ゲイオルグと申します。』
『我は現・獣王、アプと申します。』
「そっか。おい、ナナ!」
「はい、ユウジ様。」
「コイツらの傷を治しといてくれ、俺はアレをどうにかしてくる」
「はい!『癒しの光を、キュアー』」
『すまんな。』
「いえいえ。」
『あの男に仕えているなら、代官か?』
「いえ、ユウジ様の弟子です!あそこの人達も弟子です、私からしたら彼らは先輩で兄弟子ですが…。それにしても、よく生きてましたよね~。ユウジ様が本気出したら、誰も止められないのに。」
『『えっ?』(それほどにも強いのか…)』
ユウジの後方ではナナが自慢気に語っているが、実際のところは、この世界では…である。ユウジは気にせず、先程の少女の元へ歩いていく。少女一行はユウジの召喚魔法に圧倒されていた。
「それで何か用ですかね、俺達は急いでいるんですが。」
「そっそれは、お前達を…」
「私が話そう、私はエインヤード公爵家令嬢エリスであるぞ!良きに計らえ…」
「ふむ。」
「私を知らぬのか?お主は異世界から来たのだろう、ならば知識の深い我等と争って良い事が無いのは百も承知の筈であろ…」
「いや、無いな。知識が無いのなら、旅をすれば良いのだ。わざわざ教えてもらう義理は無いしな」
「ぬ、お主は馬鹿か?知識を持たない状態で、どこへ行くと…」
「お嬢様!」
ボンッ………
「う………」
「誰が馬鹿だって?聞き捨てならないよね~、勝手に転移させといて。元の世界へ帰らせてくれるなら謝罪も受けようと思ったが、帰せないなら頼る必要はないよな?」
「しかし…」
「しかも自国に縛っておきたいのか、他国に勧誘されないために。まぁ良いさ。数ヶ月の間は、この王国に滞在してやる。だが、それ以降は知らんがな」
「なっ…、恥を知れ!我が王国を敵に回して生きて帰れると思っているのか!貴様等なんぞに…」
「それ以前に我々を返還できない自体で、我々は被害者だよな?ならば、それは逆恨みでは無いのか?」
「ぐっ。だが私達が喚んだのだ!私達王族に従うのは、当たり前のはず…」
「悪いが、俺は王国に使える気は
「ならば!我が王国の王であり、私の義父であるクリス国王と決闘を…」
「あぁ、それなら意味が無いぞ?喚ばれて当日に叩きのめしたからな、言ったら相手の方から謝罪がくるかもな。」
「そんな…。そんな訳があるかぁぁぁ!」
「………っ!?」
ユウジはエリス令嬢に「王国に仕えたくない」という
ユウジとしては…クリス国王の話は控えようと思っていたが、令嬢の対応から結論を突きつけた。ユウジは、それで収まるかと思った言葉であったが、王女からしたら違ったらしい。突き付けられた令嬢は義父の敗北話に驚き、目の前のユウジを苛立ちで魔法を放ってきた。しかも周囲を巻き込むほどの、自身さえも範囲内の魔法を空から隕石のように落ちてくる。
「(この令嬢は馬鹿か?これが落ちたらクレーターで済まないぞ、これは流石に潰すしかないか…)
「ふん!この魔法を消せたら、実力を認めてやらんでも無いぞ…」
「「お嬢様!我々と共に避難を、流石にお嬢様が死んでは元も子もありま「あはははははは…」せん…」」
「どうする?」
「お嬢様が壊れた。もう逃げても良いか?」
「何を言うか、王女様を守ってこその騎士だぞ!このくらいで、泣き言を言うとは何事か!」
「しかし、あの者が失敗したら我々も死ぬのでは…」
「アレか?しょぼいな…、『創造』。…『物質を異次元へ転送!王国から離れた土地であり、人間が居ない土地へ…行け。』」
「「「………」」」
ユウジは自身のユニークスキル『創造魔法』によって王女の放った魔法を消滅させる。その光景に驚きのあまり声の出ない者、まさかと思っていた令嬢、有り得ないと暗示する者がユウジを見ながら、呆然とする。
ユウジからすれば、かなり少ない魔力の消費で魔法を放てた事に驚いていた。破壊するだけなら大量の魔力が必要だが、降ってきた隕石のような魔法を転送するだけだからであった。だが王都内部では無事でも、あくまで『転送』なので王国内の
令嬢と騎士団は、あまりの出来事に呆気に取られて呆然となっている。ユウジは、その間にナナの元へ戻り、弟子と闇ギルドのマスターと教会で合流するのだった。彼らは夕刻の鐘が鳴るまで、ずっと放心状態になっていた。
◆◆◆
…同時刻…
王宮では聖女一行の帰りを待ちつつ、クリス国王は国の責務に追われていた。その責務も、ある出来事によって中断となる。いきなり常人が腰を抜かす程の魔力を感じ、テラスより空を見上げれば巨大な岩が降ってきていた。それを見た官僚は膝を突き、クリス国王は国の最期と思い込み、笑い出す。
スラム街から逃げていた聖女一行も、この光景を見ていた。聖女カリンは上空の岩が魔法であり、王国で数人しか扱えない魔法だと知る。しかしクリス国王、聖女カリン、官僚一同は上空の岩が一瞬の間に消えた事に驚愕している。この時、ユウジが『創造魔法』を使った瞬間であった。
クリス国王は大急ぎで官僚や宰相を交えた少数での緊急会議を開き、先程の魔法について議論する。緊急会議の中では「他国からの魔法介入か」や「貴族の魔法暴発か」という話に変わるが、被害なく消えた事から消去法で次々と消えていく。最終的に「何かの予兆」か「勇者召喚失敗によるもの」という事になった。どの話も、これまで失敗して来なかった「勇者召喚の儀」によって決まっていく。
「では皆、これを城下町に掲載を。」
「はっ」
「因みにだが。この問題は、ここだけでの物とする。無闇に不安を煽っても仕方ないからな、あとは聖女一行が帰還したら聞いて見るのも良いだろう。」
「そうですな。では、直ちに…」
『『お待ちください、今は会議中ですので…」」
ガチャ…
「失礼します!」
「おぉ、聖女よ。帰ったか、それで成果はあったかな?」
「いえ、有りませんでした。スラム街を奥へ進み過ぎてしまい、襲撃されたので撤退して来ました。」
「ほぅ。」
「ですが、先程の魔法は王国で作り上げた魔法です!数年前に開いた学会で発表された魔法ですが、王国内で使えば被害甚大な為、戦時以外は禁止されていた筈なのですが…」
「では、どこかの令息・令嬢が
「そう…ですね。彼らは規格外ですから、どこかの貴族が怒らせなければ怒らないでしょ……う」
「「「それだ!!」」」
「えっ?陛下、それは一体どういう…」
「実はな。私は彼らに暗殺部隊を向かわせたのだ、決闘の敗北でイライラしていてな…。今考えれば、それが原因かもしれん。」
「「「何をやっているのですか!」」」
「うっ」
「では掲載に追加で、彼らに向けたメッセージを加えた方が良いかもしれません。聖女様も良いですね?」
「そうですね、我が国の失態ですからね!」
それから数日後、消えた魔法の岩が他国との国境に落とされた。これによって各国で緊急会議を行われ、クリス国王が対処に追われるのは、また別の話。
異世界に召喚されたら、職業が賢者になっていた… 青緑 @1998-hirahira
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