冒険者登録と商人登録をしよう

 城門を出て外壁の方へ足を向けるユウジ一行は、聖女が探している事も知らずに歩いて行く。外壁に近付くにつれ、防具を身に付けた者が多くなっていくが、今は気にせず、そのまま進み続けた。外壁に辿り着くまで、さほど掛からなかった。どこに古着を着た人間を疑わない者が居るだろうか、…外壁の憲兵が真顔で近付いてくる。


「お前達、そんな格好で外壁を出ようとしているのではなかろうな。それと身なりを見る限り、身分証も碌に持っておらんだろう?」

『どうしますか、ユウジ様?』

『…任せておけ』

「はぁ、身分証も何も持ってませんね。どのように身分証って証明すれば良いのでしょうか?憲兵さん、私はユウジと申します。」

「(ん?言葉遣いからして、どこかのボンボンか?)…あぁ、私はガルドという。この外壁の管理をしている者だが、…身分証は冒険者ギルドか、商人ギルドか、傭兵ギルドの三つのうち、どれか一つでもあれば身分証と証明されるぞ?知らん…のか?」

「えぇ、あまり外を歩かないので。冒険者ギルドはどこに行けば良いので?」

「(む。この者は肝が据わっておるな…。)…ふむ、あそこに防具を着た者が居るだろう?あそこに行けば分かるぞ!」

「(…言動で身分を見極めているようだな。気を引き締め過ぎたか…。)…ありがとうございます。これから行ってみます。みんな、あそこのギルドへ行こう!」

「「おぉ…。」」

『この者達、何か得体の知れない雰囲気があるな。だが、それもユウジという者が口を開けば、かすかに雰囲気が穏やかに変わるなぁ。』


 ユウジ一行はガルドのいう冒険者ギルドへ向かった。外は数人が会話をしており、建物は大きいが中に入れば、小さく見える。この国では文字は、あっちと同じで助かった。「登録受付」と書かれた場所へ向かうと、二十代と思われる女性が立っていた。


「こんにちは、冒険者登録ですか?」

「はい、後ろにいる仲間も同じくです。よろしくお願いします。」

「はい、分かりました!ではギルド証の作成に入るので、こちらの用紙に書いてください。書き終わりましたら、もう一度いらしてください。」

「はい。それじゃ、書こうか」

『ふ~ん。初心者にしては、はっきりしているわね。でも模擬戦を受ければ、そんな外見なんて無くなるわ!それに、あんな細い腕で受けられないわよね~。ふふ、じっくり観察させて貰いましょうか…』


「ユウジ様、あの受付嬢が怖いんですが…」

「気にしても仕方ないよ。ほら、ここ書き忘れ」

「あっ、すみません。」

「ユウジ様!よくある話としては、これ書いたら模擬戦?ってのがあるはずだけど、私達は大丈夫なのかなぁ。」

「大丈夫だよ。王様と一戦交えて分かったけど、この世界では、それほど強くは無いようだし。大抵は王様みたいに見掛け倒しって可能性が大きい気がするよ。」

『まぁ実際、この世界では武器頼りらしいしね。逆に手加減しないと死者を出しそうだね~』

「「「ユウジ様、皆が書き終えました!」」」

「…あぁ、渡して来るよ。」


 みんなの書いた用紙を確認すると、名前、性別、出身国、経歴を書いて、他のアンケートのような項目は無視したらしい。内容としては、「あなたは仲間が危ない時、どう行動しますか?」だったりする。だが、ここで時間を費やすのも面倒なので、みんなには書かないように促したのだが、正解だったようだ。受付嬢に書類を渡すと、満面の笑みで書類を見ていく。最後の用紙まで見終わり、受付嬢は顔を上げる。


「ご確認致しました!では皆さま、こちらへ。模擬戦をしていただきます。勿論、怪我しない為に木剣などを揃えてありますよ♪」

「はぁ。」

「(ふふ、化けの皮を剥がしてやるんだから!)うふふ…」

「どうかしましたか?」

「(はっ、いかんいかん。)いえ、お構いなく…。大丈夫ですので」


『『『絶対、ユウジ様の事を見下している!』』』


 一方は笑みを浮かべ、もう一方は受付嬢を睨みつける。ユウジも困っていたが、殺気が無いだけ良しとしようと妥協した。招かれてから数分歩いた所で、闘技場のような場所へ着く。闘技場には防具をフル装備した冒険者らしい格好が十名程いた。聞き取れる限りでは「初心者狩り」という名目の洗礼らしい。なかなか良い度胸をしている。


「ユウジ様、潰して良いでしょうか。」

「いや、相手の実力を見てからでも遅くはない。あまり目立っても怪しまれるからな、最初は様子見して弱そうに演技すれば良いだろう。」


「あの!さっさと来てください。彼らは我が国のAランク冒険者です!みなさん、この新人を潰してしまってください。どうせ見掛け倒しのヒヨッコでしょうし…」

『ほう、そこまで馬鹿にされては手加減は要らないなぁ。』

「では模擬戦の初戦は私からで良いでしょうか。簡単に倒れて貰っては困るので、勝ち抜き戦で如何でしょうか?」

「良いでしょう、ギルドは認めます!あなた方も良いでしょうか。」

「「「あぁ、目に物を見せてやる!!」」」


「では、双方…始め!」


 まず一人目は正面から棍棒で叩きに来たが、見切って腹部への一撃で倒れた。それを見て、怒号を零しながら走って来る槍を持った冒険者。槍持ち冒険者は槍を前に構え、突き刺して来たが、ユウジは横へ飛び側面から槍を折った!その後も、二人組・四人組となった冒険者が襲ってくるが全員を返り討ちにし、かつ気絶させた。

 流石に残りの人数が数名になると、自主的に降参した。模擬戦がユウジ一人だけで終えてから、受付嬢は頭の中が真っ白になり、ユウジは気絶させた冒険者が襲って来ないように縄で縛り付けた。そうしてユウジが受付嬢の前に戻っていく。


「すいません。模擬戦が終わったのですが、どういう結果になるのでしょうかね…」

「申し訳ありません、皆様をC級冒険者として登録致します。流石に初めから上級冒険者となると、ギルドマスターや他の組合から苦情が来ますので、…ご了承ください!」

「分かりました、ではギルド証の作成をお願いしますね。」

「「「(よしっ!)」」」


 受付嬢は深く頭を下げてから、作成に取り掛かった。ユウジを除いた弟子達は見えない所でガッツポーズを取っていたが、ユウジは頭をかしげながら、その場を立ち去る。

 その間、受付嬢はギルド証を作るように同業者に頼み込むが、書類を確認してギルド員が「間違いじゃないの?」と聞かれ続け、押し黙る受付嬢。それを見兼ねて陰から見ていたギルド員の証言により、ギルド証が作られていく。


「ありがとうございます、エラさん。」

「良いよ、いつか埋め合わせしてくれれば。でも、まさか上級冒険者を初見で倒しちゃうとは驚いたね。」

「そうですね、もしかしてC級冒険者に決めたのって、何か不味かったですか?それくらいの実力はありそうですが…」

「いや、君の判断は間違っていないよ。ただ…ね、ギルドマスターへの説明をどうしようかと思ってね。あの人、何かと頭が硬いから…さ。」

「…どうしましょう。私、クビになりますかね…」

「いや、せめて解雇処分は無くても謹慎で済めば良い方じゃないかな?」

「はぁ………。」


   ◆◆◆


 闘技場を出てから三十分くらい経った頃、先程の受付嬢が手頃な籠を持って戻ってきた。籠の中には、ギルド証と思われる青いカード状の物が入っている。


「こちらに…いらっしゃいましたか。こちらにあるギルド証を一人一つ持って、自分の唾液つばなどの体液か、血を一滴垂らせば登録完了となります。」

「ありがとう、このギルド証の色って何か意味あるの?入った時に他の冒険者は、茶色のギルド証が見えたのだけど。」

「はい、勿論ありますよ。茶色の色の薄さによってDランクまで決まっていて、この青いギルド証はC級冒険者、銀色がB級冒険者、金色がA級冒険者…となっております。」

「そう、それで俺達が急にC級冒険者で良いの?なんか規則があったりしない?」

「(鋭いなぁ、ユウジさん。)…規則はあるのですが、以前にも似た事例がありましたので、大丈夫かと思いますよ!」

『まぁ以前って言っても、あの時は王女様が自らの独断でいらしたからだし。あの時に比べれば、まだ良い方だろう。』

「そうですか。では有り難く、いただきます。」

「はい!…では最後にステータスが先程の唾液か血でギルド証に登録されていると思いますので、後でご確認ください。ステータスは依頼を受注する際に更新されますので、何かありましたら受付へ来てください。」

「えぇ、ありがとう。」

「「「ありがとうございます!」」」

「はい…」


 ギルド証を登録完了後、冒険者ギルドを出て端の人通りの少ない場所まで移動してから各々おのおのがステータスを確認しだした。周りからは「僕、剣士だって!」「私は魔法職のようだわ、なんかRPGね。」「こっちは薬師?薬師って何すれば良いんだろう、スキルが空欄なんだけど…」…と相談が小声で会話している。何やら、ステータスには職種とスキルがあるらしい。ユウジもステータスを確認しようと、唾液をギルド証に付着させてステータスを見た!


   ***

ユウジ・サトウ/男/19歳


HP:380/390 MP:960/960 状態:健康


・職種:魔法師、格闘家、戦士


・スキル:鑑定Lv6

     魔力感知Lv4

     武術Lv7

     召喚Lv9

     魔法行使Lv6

     並行思想Lv4

     アイテムボックスLv8

     手加減Lv10


・ユニークスキル:全武器装備可

         王の威圧

         創造魔法


・称号:転移に巻き込まれし者 策士

   ***


『なんか面倒なステータスだな、ユニークスキルって何だ?まぁ後で調べれば良いか…』

「ユウジ様はステータス、どうでしたか?私は何かユニークスキルとか出てたけど、さっぱり分からないんですよね~」

「俺も似たようなもんだ、称号に「転移に巻き込まれし者」って書かれていたな。」

「あっ、それは皆のステータスにも書かれていたようです!あれ…でも何に巻き込まれたのでしょうか。こういうのって、勇者とかが一人はいる筈ですよね。ユウジ様が違うなら、どうなっているのでしょうか…」

「…確かに」

「…俺の憶測だが、良いか?」


「「「はい!」」」


「あの時、聖女様が「まだ未熟な故に…」って言ってたよな?…って事はだ、実際は勇者を召喚する筈だったが失敗して、代わりに俺達が来てしまった…って事じゃねえのかと思うんだが、どうだろう。」

「確かにありそうな話ですね。」

『まぁ勇者なんて出てきたら、それこそ面倒なことになってスローライフが遠退くじゃないか!…無くて良かったぁ。』

「それじゃ、日が傾く前に商業ギルドに行くぞ!」

「えっ、なぜですか?」

「商業ギルドに行って登録しておけば、掘り出し物があったら売れるだろう?この世界の文明を考えれば、簡単な計算だとか、値切りに対しての試験がある程度だろうから、受けといて損は無いだろう…と思ってな。」


「「流石、ユウジ(様)だ!」」


   ◆◆◆


 その後、商業エリアへ向かって歩きだしたユウジ一行だが…その頃の聖女と言えば、未だにユウジを当ても無く捜していた!王国騎士が追跡している事も気付かない聖女一行は、スラムにも手を出して捜している。だが、ユウジ一行は一人も見当たらない。当然ながら捜している地域は、ユウジの居る地域と真反対へ向かっていた。聖女カリンの一行は呑気に移動しているが、その反面、聖女の背後数メートル後ろでは王国騎士がスラムに住む野盗や盗賊紛いと相対していた!

 王国騎士は聖女一行と付かず離れずを繰り返しながら、追跡と護衛をしている。しかしスラムの奥に進めば進むほど、野盗や盗賊紛いに手を回しつつ守るのは至難の業である。それも倒しても奥へ進むにつれて数が増えていけば尚更。


「「「うおぉぉぉ!」」」


「そこ!左から漏れてるぞ、左を守れ」

「隊長、数が多過ぎます!聖女と合流して撤退を…」

「無理だ、流石に神殿側の人間と接触は控えたい!」

「しかし、このままではジリ貧です!ご決断を…」

「くっ…仕方ない、お前達は合流して脱出せよ!こちらは負傷者を連れて引く。急げ!」


「「「はっ!!」」」


 王国騎士団の中から数名が離れ、聖女一行の下へ走る。王国騎士団の隊長は負傷者を抱えて、交戦しつつ、聖女が脱出して行くのを尻目に撤退する。幸い負傷者は多数出没したが、死者が出なかった事にホッとした。だが城内に戻ると、神殿の枢機卿なる者が聖女を叱りつけ、国王は王国騎士の帰還を知り、側へ寄ってきた!枢機卿も彼らに気付き、ヒール、ハイヒールを掛けてもらった。聖女はと言えば、長時間の座禅ざぜんで足が痺れて侍女が支えて、やっとの状態で立ち上がっている。

 騎士団は聖女を追い出してからの行動を全て伝えると、国王は頭を抱え、枢機卿は呆れ顔で聖女を見やる。その聖女は反省する気もなく、何かを誇ったように足が震えながら仁王立ちしていたので、また枢機卿に叱られ続けていた。この日から数日の間、聖女は教会にて待機を王命で伝えられ、枢機卿と教皇によって軟禁される事となるのだが、それはまた別の話である。


   ◆◆◆


 ユウジ一行は街中を歩き続け、国一番と言われている商会を住民に聴取しながら向かっていた。そして住民や冒険者から評判の良い商会をいくらか候補を教えてもらい、その中から最も好評中で国内で顔が効く商会へ向かう。中には裏の世界と繋がっている商会もあったが、国で顔が効く商会の方が安心でき、信頼ができると確信した。その商会は『アルバーン商会』と言い、アルフリード国王が贔屓しており、各国に店舗を構えているという点で決めた!しかもプライバシーなどの秘密事も守ってくれるので、何か問題が起きても対処が簡単なため、国王に知られるデメリットが有るがメリットが多いので、向かう事にした。なお『アルバーン商会』は他と同じく裏の世界と繋がっているが、主に裏で牛耳っているのも『アルバーン商会』だったりする。

 ユウジ一行が冒険者ギルドを出てから、数時間のこと。目の前で大男が数人と大男に隠れる商人風の人物が、長身だが軟弱そうな格好の商人に向けて、何かを言い合っている。周りを囲っていた民衆に聞けば、「商品が壊れて賠償金を払え」とか「商会の名を貸せば許す」とか「の加盟店だから調子に乗るな」などの話が持ち上がった。それを聞いたユウジは弟子一行に待機を命じ、民衆の中へ混じっていく。ユウジは群がる民衆を掻き分け、長身の商人と大男を連れた商人の間に割って入る。長身の商人は目をつむり、うつむいている。大男は急に現れたユウジに一歩だけ後退あとずさり、ガラの悪い商人はユウジを見てニヤニヤと笑う。


「なんだい?正義の味方のつもりかな、そこの商人の雇われでも無いだろう」

「あぁ、俺はユウジって言うんだ。以後、よろしく。一応、これでもC級冒険者だが…」

「兄ちゃん、悪い事は言わねぇ。さっさと逃げな、俺らはA級冒険者なんだ。俺らより低級の冒険者が、しゃしゃり出てきて良い問題じゃないぞ!」

「それはそれは、ご丁寧に。でも引く気は無いから、安心してほしい。」

「兄ちゃん、注意はしたぞ?怪我したく無けりゃ…ぐっ…!?」

「怪我したく無かったら、なんだって?」

「…何をしているか!?おい、お前らはA級冒険者なんだろが…」


 ユウジは敵意を感じて反射的に大男三人の腹部を殴りつけて倒した。そしてガラの悪い商人が怒鳴っている間に、残りの大男をユウジは腹部一撃で倒していき、最後の一人となった商人は自分で雇ったA級冒険者に向かって蹴っている。だがA級冒険者達は微動だにせず、腹部に一撃を食らった瞬間にA級冒険者達は悟った。このC級冒険者に絡んではいけないと、自分達よりも強者なのだと。よって出来上がったのは、A級冒険者が仰向けで倒れて商人が一人、震えながら少しずつ後退っていくが、逃げ場を民衆に妨げられる!逃げ場を失った商人は「お前ら分かっているんだろうな!こんな事をして…」などと騒いでいるが、民衆は耳を貸さない。

 ガラの悪い商人は民衆に睨まれる中、ユウジに向かって「金なら、いくらでも払うから…」と命乞いをしだすが、ユウジは取り合わない。長身の商人はユウジに向けて、尊敬と感謝の視線で見ている。それはもう、詰所つめしょの憲兵が巡回で来るまで続く事になるのであった。


「「「………」」」


「憲兵さん、アイツが報告した商人です!早く捕らえてください。」

「あぁ、だが…この倒れている冒険者は?それに気は…」

「俺はユウジって言います。偶々、通り掛かったら争っていたので鎮圧しました。その証人は、ココに居る民衆の方々にお願いします。」

「うむ、確かに。ではユウジ…殿には…」

「あ…あの!ぼ…僕の商会へ連れて行ってはいけませんか?命の恩人なのに何もしないというのも…」

「あぁ、構わない。ユウジ殿には近いうちに詰所へ来て頂ければ宜しいです。それでは彼らを連れて行きますね?A級冒険者の方の処分の付け方は、ユウジ殿にお任せ致します。では!」


「ユウジさん、助けて頂いてありがとうございます!僕はカイって言います。これから宜しくお願いします。」

「えぇ、分かりました。では少々待っていてください、連れを連れてきますので。」

「はい、分かりました。では、離れの喫茶店で待っていますので、お声掛けください!」

「えぇ。」


 その場で一旦カイと別れて、弟子の下へ向かうと、女性の弟子は低級冒険者のような者に絡まれていた。男共は他の冒険者と争い、裏路地に居る孤児や浮浪者が怯えて建物の陰に隠れていた。争っている者を避けて歩き、争いの中心へ着いてから誰でも分かりやすいように、ユウジは殺気を広範囲に広げた。すると弟子と数名の冒険者以外は膝を地面につくか、怯えて動けない者が多かった。

 殺気を広範囲に放った所為せいか周りからガシャガシャと音を鳴らして重装備の兵士が来たり、如何いかにも強そうな身体の冒険者が向かってきた!重装備の兵士はユウジから数メートル離れた場所で武器を構えている。強そうな冒険者は、いつでも武器を出せるように帯剣する。弟子はと言えば、殺気で動けない相手を退かしてユウジの近くに通れる道を探している。さっきまで争った相手だから、気を遣う事は無いと思うのだが…。


「おい、そこのC級!この状況からして、お前が主犯だろ?大人しく、お縄に付け」

『面倒なことになった、ここで聖女や国王が出てきたら厄介だ。早々に撤収して、弟子を連れて行かないとな…。問題は冒険者と、あの重装備槍兵をどうやって排除するかな…』

「おい!聞いてんのか、C級?耳が聞こえねぇか?」

「うるさい、少し黙っててくれ。今悩んでいるんだから…」

「聞こえてんじゃねぇか!考え事でもしてたかなぁ、C級くん?」

「………。ふん!!」

「おっお前………ぐはっ!?…ちょちょ、ちょっと待ってくれ!そ、そうだ、話し合おう。」

「んで、なんだって?何かしようとしてたよな…」

「めっ滅相も御座いません、おま…貴方に何もしません!だから命だけは…(ここで真相を話したら、やられる!コイツには敵わねぇ、勝てる気すらしない…)。」

「ふむ、では命を助ける代わりに、この場から去るのを手伝ってくれるか?…ん?」

「ひっ、分かりました、手伝います!だっだから…」

『こういうやからには、これくらいが丁度良いだろう。まぁ後始末が大変だから、せいぜい優しくき使って部下にでも雇うかな…。知らない土地で右往左往するのも心許ないし、多少のゴロツキでも知識くらいはあるだろう。でも、まずは切り抜けてからだが…』

「お前の名前は何て言うんだ?俺はユウジってんだ、あそこに居るのが弟子だ。」

「(騙したらヤバイ!)おっ俺はゲイルっす…です。」

「おい、こっちに集合!!」


 声を掛けると、弟子一行がぞろぞろとユウジの近くへ集まって来た。そこでゲイルを紹介するが、弟子達は不審に思い、ゲイルの言動や姿勢を観察する。ユウジはゲイルに気付かれないように、殺気を薄く遠くへ放つと、緊張していた重装歩兵の背筋が真っ直ぐになって緊張がほぐれた。そう思いたかったが、次の瞬間には自分らは地面に伏していた。何が起きたかと思ったが、自身が震えている事以外は分からなかった。

 弟子の中では『アレはキツイよなぁ』などと愚痴ったが最後、地獄耳と言って良い程にユウジが根掘り葉掘りと聞いてくる。弟子は問いを必死に振り切り、それを見たゲイルは何が起きたか分からない内の一人であった!他の者と言うと、周りで傍観している民衆や倒れている重装歩兵であった。民衆は静かに事の成り行きを見守る。特に重装歩兵に関しては、力を入れても立ち上がれず、身じろぎしても動けない現状を打破できていないのだから。

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