第34話
ローズマリーがカイザーの側妃になる日が来た。公爵である父親から告げられ王宮内の後宮に身を移す事となった。
側妃といゆう地位はモヤモヤするが、やっとカイザーの隣に立てると胸は高鳴っていた。
ローズマリーは頭のてっぺんから爪先までピカピカに仕上げた。
頭は綺麗なローズレッドの髪を編み込んでアップし、宝石で豪華に飾った。
ドレスはプリンセスラインのドレスにカイザーの瞳の色のサファイアの首飾りをつけた。
婚姻式は王宮内の王座の間にて王様と王妃様立ち会いのもと行われる。
妻を得た、それと同時に現王が退きカイザーが王となるため、戴冠式も行われる。正妃は新しい王が直接決定することなので、戴冠式と同時にローズマリーが正妃に昇格することもあり得る。
若い王がその座に座ることにより、何かあった際に国内の混乱を最小限にするためのこの国の伝統であった。
ソワソワと王宮内の私室にいると扉を叩く音が響いた。
「失礼致します。王太子カイザー様が参られました」
執事が静かな声でそう告げた。
「はい。今参ります」
ローズマリーはソワソワしていた様子などおくびにも出さず、すっと立ち上がり扉に向かった。
執事が敬々しく扉を開くとそこには、黒い軍服を着たカイザーがオーラを放ち立っていた。
片肩から前部にかけて吊るされる金銀糸飾り紐の飾緒が広い肩を強調し男らしさが壮絶な色香をはなっていた。
黄金色に輝く金髪は後ろにながされきりっとした瞳をより引き立てていた。深いブルーの瞳にひきつけられローズマリーは見惚れてしまった。
ローズマリーの前にすっと手が差し出される。
はっと我に返り頭を下げ礼をするとそっとその手に自分の手を重ねた。
指先に心臓があるんじゃないかとゆうくらい、そこに意識が集中する。
そっとみあげるが、薄い唇をきりっと結んだカイザーと視線が絡むことはなかった。前を見据えて王座の間にむかうため二人は歩を進めた。
王座の間の扉が厳粛に開かれる。招待された貴族たちが部屋の両側に立控え、王座には王と王妃が威厳を放って座っていた。
二人は赤い絨毯を粛々と進む。王の前まで来て深いカーテシーをする。
シンとした室内に王の声が響いた。
「これより、カイザー・フォン・アズベルトとローズマリー・ディ・マークベルの婚姻式を始める」
従事が、液体の入った1つの杯を王の前に献上した。
この杯をまずカイザーが一口飲み、その杯に魔術を込めそれをローズマリーが飲み干す。
カイザーはその飲み干したローズマリーに口づけをする。
これで婚姻は成立する。
王が厳粛な声色で
「ローズマリー。そなたは、いまよりカイザーの側妃になる。身を賭して王に仕えることを誓えるか」
「はい。お誓い申し上げます」
ローズマリーはそういってカイザーが一口口につけた杯を口にした。
飲み干すと、カイザーがローズマリーの顎に手をかけ腰を屈めて口づけを落とした。
だが、それは決して甘い口づけではなかった。深いブルーの瞳がより冷たさを強調した。すぐに口は離されカイザーは王に向き直った。
ローズマリーの背がぶるりと震えた。
こんな冷たい口づけをされるとはおもっていなかったからだ。
でも、これから夜を共にしていけばそれも変わるだろうと嫌な考えは胸のうちから追い出した。
「これより、続いてカイザー・フォン・アズベルトの戴冠式を行う」
王はかぶっていた王冠を外し従者が玉台に置いた。
また、王妃が持っていた玉璽も同じく玉台に置かれた。
カイザーが膝を折り王の前に跪いた。カイザーの前まで歩み寄り玉台に置かれた王冠に手を伸ばし、カイザーの頭上に掲げた。
玉璽はそのままカイザーに渡される。玉璽は王妃がもつものであるので、まだカイザーの手の内にある。王妃を迎える際に王からうけとるものなのだ。
カイザーが立ち上がり玉座にむかい、ローズマリーもそのあとに続くが玉座から一段下がった所で足を止めた。
玉座の横、すなわち王妃の席は無人のままだった。
「カイザー・フォン・アズベルトはこれよりこの国を統べる者となった。この国をより豊かになるよう最善をつくす。前王に恥じぬよう歩んでいこうと思う。皆のものよろしく頼む」
前王と王妃が目を細めてカイザーを見つめた。
王たる威厳を放ち堂に入ったその姿に盛大な拍手と共に部屋中の女性から感嘆の溜め息がもれる。
見惚れたのはローズマリーも同じだった。
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