第35話

 その夜はカイザーとの初夜だった。

体を清め薄いレースの夜着を着込みベットのうえでその時をまった。


 しかしその夜、カイザーがローズマリーの部屋を訪れることはなかった。

 更に、それは初夜のみではなかった。

ローズマリーは唇をかみしめてその屈辱に耐える日々が続いていた。

 執務室に訪問したり、お茶に誘ったりと努力は涙ぐましかったが、それらを冷たくあしらわれ居室に戻る日々がはじまった。


 一度も体を重ねることがない飾りの妻。そんな噂が耳にとどくことも久しくはなかった。


 そんな中カイザーの居室に娼婦が呼ばれているとゆう噂をみみにしたのだ。目を見開き信じられないおもいで執務室のドアを叩いた。 


「ローズマリーでございます」


 暫く間を置いて、

「入れ」

 部屋の中から短い返答が聞こえた。

 ドアをあけ中にはいると、執務室にある机で仕事をしているカイザーが顔を上げた。

 違う机で執務をしていた宰相がちらりと横目でローズマリーをみたが、すぐに書類に目を落とした。


「どうした?」


 カイザーがローズマリーに問いかけた。

 震える拳を両手でぐっと握り、意を決して口を開いた。


「カイザーさま。夜のお通りがないのはなぜですの?しょ……娼婦をおよびになられているとゆうのは……」


 声が消え入り下を向いてしまった。


「ああ。本当のことだ。」


ローズマリーは思わずばっと顔を上げた。


「っ…なぜですの!?」


「なぜ……?おまえに答える必要があるのか?」


「あっ……ありますわ!私は妻です!」


「お前と子を作るつもりはない」


その一言に目を見開いて愕然としてしまう。


「これ以上話がないのなら、部屋から出ろ」


冷たく言い放った。


「娼婦は…わたくしとどう違いますの?」


震える声をがまんして必死に声を絞り出した。


「あぁ……あやつらは俺の性欲を処理するだけだからな。子種を腹のなかにだすつもりもない。おまえがかわりにするとゆうのか?」


カイザーははっと口の端をあげ失笑した。


「わ……わたくしは……」


言い淀むとこれ以上はないとドアを指し示られた。


「で……できますわ」


「ほぉ……マークベルの令嬢が娼婦のまねをすると?」


顔をあげローズマリーの瞳をブルーの瞳が射抜いた。


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