第32話 ローズマリーとカイザーの出合いの話です

ローズマリーとカイザーとの出会いは幼少期に遡る。

公爵家令嬢として王宮に招待された時だった。

幼少より甘やかされ褒めそやされて育ったローズマリーは何でも自分が一番でなければ意味がなかった。

好きなものは必ず手にし、嫌いなものは虫を踏み潰すかのように処理した。メイドも気性の激しさから交代がはげしかったが、決して途切れることは無い為さして気にしたこともなかった。


ローズマリーが公爵について王宮に行った際もだんだん暇になり、どこかで遊びたいとわがままを言い庭に遊びに行くことにした。メイドもうざったくて一人でぷらぷらしたいと走って隠れてまいた。クスクス意地悪い笑みを浮かべドレスについたホコリをぱんぱんと叩いていた時だった。突然頭の上からいきなり声をかけられた。


「おい。お前なにしてる」


ぱっと顔をあげると、そこには見たことのないような金髪の美少年が立っていた。ぽーっと頬を染めだまっていると、つまらなさそうに


「お前馬鹿なのか? しゃべれないのか?」


ひどい言いようである。いままでこんな言い方をされたこともなければ、勝手に喋りかけてくるなんてことは早々無かった。

「なっ……無礼ですわ! あなた! わたくしをだれだとおもってますの! マークベル公爵家令嬢ですのよ!」 


ふんっと胸を張りきつく睨んだ

だが少年はビビるどころか蔑んだ瞳をむけると、


「はっ! たかが公爵家で偉そうにすんな」


「なっ……なっ……」


ローズマリーはもう呆然としすぎて言葉が出なかった。


「で? なにしてんだ? 馬鹿な公爵令嬢様は」


心底バカにしたような冷たい目をむけられ、ローズマリーは少し怯みはしたが持ち前の勝ち気な性格で言い返した。


「わ……わたくしは馬鹿ではございません! 一人で庭を眺めようとしていただけですわ!」


「へぇ……メイドも連れないで、マナーも何も出来てないんだろうな、まぁ俺には関係ないわ。じゃあな」


「あ……あなたはどなたですの!!」


踵を返しひらひらと手をふる少年の背にむかって叫んだ。



なんて無礼なヤツですの! か……顔はとても美しかったですけども。

もやもやしながら歩いていると先程まいたメイドが真っ青な顔色で走り寄ってきた。


「お嬢様! どちらにおいでですか! ここは王宮内です。王家の方々もいらっしゃるんですよ! 粗相をしてしまいましたらどんなことになるか……」


ダラダラとした説教を右から左に聞き流した。

このメイドはなかなか定着しないメイドの中で唯一変わらずそばに居てくれるメイドだった。ちょっと口うるさいのは玉にキズだけど。


「あ〜もう、わかったわよ! もどりますわよ! ミリアお部屋でお茶を用意してちょうだい。疲れたわ」


「もぅお嬢様……畏まりました。お部屋にもどってお茶の準備をさせていただきますね」


 

✛✛✛✛✛✛


そう言って部屋に戻り寛いでいると、父親が部屋にはいってきた。

「ローズ、今夜王宮晩餐会に招待されている。お前もだ。決して粗相してはいけないよ?」


「はい! 畏まりましたわ。お父様」


「本日、王太子カイザー様と弟のカイン様共に参加される予定だ」


「まぁ!ほんとに! 楽しみですわ!」


「ああ。ローズはとても美しいからね。カイザー様もお前に夢中になるぞ」


ローズマリーはもう晩餐会のことで頭はいっぱいだった。

ミリアに髪を綺麗に整えてもらい、バラを一輪髪にかざった。

まだ幼いとはいえ目鼻立ちがはっきりしてるので、とても7歳にはみえなかった。



「はァ……お美しいですわ」


ミリアがため息を漏らした。

自らも何度も鏡でおかしいことがないか、チェックする。


そうこうしているうちに父親と晩餐会会場に向かう時間になった。そっと父の腕に手を回しウキウキしながら豪華な廊下を歩いて行った。

だが、そのウキウキと胸の高鳴る楽しい時間は晩餐会会場についてすぐに終わりを告げた。



席に案内されふと周りをみわたしたローズマリーはある一点に視線は縫い留められ、ぴしりと音がしそうなほど表情が固まった。


何故ならば先程ローズマリーを馬鹿にしてきた美少年がそこにいたからだ。まぁ王宮内にいたなら晩餐会に招待されているかもとはおもっていたが、席をみて顔色がより悪くなる。

王様と王妃様のとなりすなわち王太子様のお席に座っていたからだ。


金髪の髪を後ろになでつけ、仕立てのいい紳士服に身を包んでいた。

固まって穴が空くほど見つめているローズマリーを父親が窘め、耳元で囁いた。


「ローズあまり直接そんなに見てはいけないよ。無礼にあたるからね」


「は……はい……お父様」


ローズマリーは恥ずかしくなりぱっと視線をテーブル落とした。


そんなローズマリーの様子をカイザーは見つめていた。燃えるような赤い髪。マークベルの特徴をひいた令嬢。綺麗な部類に入るだろう。今後妃候補としてあがってくるのはほぼ間違いはないだろう。けれど、カイザーの心は冷めていた。運命の番…そんなものやはりいないのだろうな。はぁ……っと小さくため息を付き心に引っかかったモヤをぱっと払った。



晩餐会がつつがなく終わりを告げ、退室する際にマークベル公爵がローズマリーを王の元に連れて挨拶に行った。


「素晴らしい晩餐会お招きいただきありがとうございました。王太子殿下こちら娘のローズマリーでございます。以後お見知りおきを」


ローズマリーはハッとなり最上級の深いカーテシーをし挨拶をする


「御尊顔を拝し、恐悦至極に存じ奉ります。マークベル公爵家ローズマリーでございます」


王様がほぅ……と興味部下げにローズマリーをみた。


「しっかりした娘だな公爵。カイザー、カイン挨拶を」


「はじめましてローズマリー。カイザーだ。以後仲良くしてくれ」


「カインです。宜しくお願いします」


はじめましてといったカイザーはからかう様な素振りは一切なく本当に興味がないといった感じだった。


わたしにそんなに魅力ないのかしらかしら。バカといわれたことも王太子になら我慢ができた。わたしに釣り合うとしたらカイザーしかいないわ! といつもの悪い癖がでてしまった。そう、ローズマリーはカイザーの正妃になると心にきめてしまったのだ。金髪で深いブルーの瞳の超美少年。成長すれば確実に世界一の美青年になるはず。名実ともに世界一のおとこの隣りにいるのはこの私。他の女が横に立つなんてありえない! まだ7歳の少女の恋心は重い独占欲からのこじらせた始まりだった。

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