第26話

「あっ! カイン? いまは何時!? ナタリーがさがしてるんじゃないかしら……」


「司書長からどこにいるかきいているだろう、問題ない」


窓に目を向けて見るともう外は日が沈んでいる。何時間ここにいたのか……さぁっと顔色が悪くなる。


「まぁ今日は部屋に送ろう、歩けないだろうから抱いていってやるから」


といって肩とふとももの下に手をまわしひょいっと抱き上げた。

ヒャ! お姫様だっこである。


「首に手を回せば安定するぞ」


といいながら、ん……と首を下げてくれた。

そっと首の後で手を組み抱きつく。

ドキドキが伝わってしまうこの距離に心臓が爆発しそうなくらい高鳴った。



部屋をでて進んでいくと宿舎の入り口に見慣れた人物が佇んでいた。


ナタリーが背筋を伸ばしこちらを見据えていた。


「ナタリー……ごめんなさい。これは……その……」


さくらが言い淀んでいると


「さくら様。後ほど陛下が謁見をされるとの事です。お部屋に戻りましたら、ご用意させていただきますね。ドレスが乱れてらっしゃる様ですので」


とカインをちらりと責めるような目線で見た。目が座ってる……こわい……


「は……はい!」


「では、まいりましょう」


そういってくるりと踵を返し部屋の方向に歩きだした。


「晩餐はどうされますか? 王がご一緒でもいいとおっしゃっていましたが」


「あっ……出来たら今日は部屋で食べたいんだけど、軽食でいいので……」


「畏まりました。では後ほど軽いものを作らせてお持ちします」


話しているうちに部屋に到着し、そっと足をおろされる。


「では、また会いに来る」


カインはそう云うと腰をかがめさくらの唇にそっとキスをして抱きしめた。カインが


「王の謁見には私も付きそう」


と言うと、


「許可されておりません」


硬い声でナタリーが答えた。カインは鋭い視線でナタリーを見据えぐっと拳をにぎりったが、無言で踵を返し部屋を出て行ってしまった。


「あっ……!」


小さく声が漏れたと同時にナタリーにドアを締められた。


「さくら様、湯浴みをされますか?」


先程とは違う優しい声で声をかけられ


「はい。ひとりで入れますので用意してもらってもいいですか?」



「畏まりました。では、湯殿と軽食の準備をさせていただきます」


そういってドアを少し開け誰かに指示をしてナタリーは部屋にもどってきた。


「すみません。護衛も兼ねておりますので私はこちらで待機していますのでお気になさらないでください」


そう言うとソファーの後ろにそっと立ち止まった。


「えっと……ナタリー。良かったらこちらのソファーに座ってくれない?少しお話したいし……」


自分の前にあるソファーを手で示した。


「普段姫様とご一緒に座ったりはしないのですが、お気を使うみたいなので座らせていただきますね」


そっと頭を下げ、上品に腰をかけた。



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