END 1

 悲しい。

 自分の中にそんな感情がまだちゃんとあったのを見つけてしまうと、余計に私はこの世に生きていることが、クソみたいなことだと思ってしまった。

 ちっとも、生きていることが祝福されてなんていない。

 生きていれば何とかなるさ、なんて言わないでよ。どんなに頑張ってもどうにもならないのに。あんたが助けてくれるわけでもないのに。

 私のせいなの?誰のせいなの?何のせいなの?

 自分を雑に扱ってるからだって?丁寧に扱っていたって、ここから抜け出すに至るまでのことにはならないでしょう。

 心の奥底で、自分がそう叫んでいるのを聞いた。ずっと、ずっと、そう叫んでいるのに。私は自分でそれに応えようと必死になっていた。それでも、どうにもできないから、やがて、そこから耳を塞いでいた。

 ごめん。

 でもその悲しみは、別に、自分自身に謝ってほしいわけでもないのもわかってる。


よくある話。

 夢を見て、知らない土地に来て、どうにもならず、それならそれで別の道を探そうとしても、いいように利用されて、踏み潰されて、何処へも行けなくなった。家に帰るにも、もともと両親から逃げ出すようにここへ来たのだから、帰れないし、帰ったところで私の人生がどうにかなるわけでもない。

 人生がクソだって語って聞かせるのにも、あまりにありきたりすぎて、つまらなすぎて、恥ずかしい。

 だけど、そんなありきたりのどん詰まりで、どんなにもがいても、これ以上どうにもならない。

 だから、もうここで終わりだ。

 私の中で叫んでいる悲しみに、本当に応えてくれるのは、目の前のこの男の手の中。そのナイフ。それだけなのかもしれない。


 私は、ナイフを握っている彼の手を掴んで、そのナイフを自分の胸元にまで持ってきた。そうすること以外、もう救われない。

 重なった手から、生きている人のぬくもりを感じるけれども、結局そんなものは、やがて失われる。

 生きていて、寄り添ってくれるものなど何もない。

 私が目を閉じると、それが合図になったように、ナイフは胸に突き刺さった。男は、私の望みを的確に叶えてくれたのだ。

 痛いかどうかも、もうわからない。呼吸が上手くできなくなって、苦しい。それはわかる。もうすぐ終わるということも。

でも、どうしても最後に言わなければ。

「あんたはさ……私にとっては……本当は……優しいの……かもね」

 そんなの、優しい、っていったらいけないよ。

 最後に聞こえたのは、そんな言葉だったような気もしなくもない。でも、もうそれもすべては意味がないこと。

 だけど私は言うよ。


 ありがとう。

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