第4話

若葉から電子辞書を借りて(ほぼ強奪して)俺は旧館の自分の教室に戻るところ。

「くくく」

思わず笑ってしまう。今日の若葉の顔、傑作だったなあ。本当、すぐムキになるし、元々すぐ顔が赤くなるからわかりやすい。可愛いやつ。

そうやって幼馴染で許嫁の一条若葉をからかうことが大好きで性根が腐りきった18歳の俺。鳴海穂高。


てか、あんな強く否定しなくても良くないか?と内心思いながら自業自得だなと思って気分が上がったり下がったりする。

そんな俺を見てたのか背後から

「お前、趣味悪いわ」

親友の声がした。そしてマジでないわっていう声。

「あ、駿くんじゃ〜ん」

「おっす。おら駿。てか…うえ〜、甘えんなや」

駿は幼稚舎からずっと一緒で親友。

俺がアクセルなら駿がブレーキ。そんで駿は俺たち3人の隠し事は基本的にお見通しだ。由菜も駿と似ていてそれに近い。

若葉と由菜も役割はそんな感じ。

あ、そうそう。若葉、由菜、俺、駿。この4人は子供の頃からほぼセットなんだよ。

「お前、また若葉からかいに行ってたのね」

駿が電子辞書を見て言う。

「うん。めっちゃ嫌がってた」

笑いながら答える。

「なんでそんなわざわざみんなの前でいじめに行くわけ?素直に電子辞書忘れたから貸してくれって言えばいいのに回りくどい。他の子のじゃなくて若葉に借りたい、会えるから一石二鳥だしって思って新館まで行ったんだろ?」

駿が本気で分からんと言う。バレてーら。若葉には伝わらんが。いや伝わる方がおかしいわ。

俺は笑いながら

「いや、今更そんな素直にとか恥ずいじゃん。あ、そういえばさ」

若葉のがいいとか若葉に会えるから一石二鳥っていう言葉には否定しない。でも素直に、という部分にはやんわり無理だという意思表示を含めて、そうやって話題を変えようとする俺に駿が遠慮なしにズバッと言った。

「違うだろ、罪悪感が増すからだろ」

うっ。流石。駿の鋭さには敵わない。

「いや、うん。まあそうなんだよね」

諦めてははは、と俺が答える。これはあんまり人に聞かれたくない。

俺は駿と旧館の裏口の階段に座って話してる。

ここが1番人に会話が聞かれなくて見つかりにくい場所だから。

駿がパックのレモンティーを飲みながら続ける。

「ダメだよ!若葉は俺のお嫁さんなる事が決まってんの!!って言ってた純粋な穂高くんはどこへ?」

言われると思った。一言一句狂いなし。そもそも俺のあの発言が事の発端だ。間違いない。

「からかうなって。あの時はあの時で本気だったんだよ」

「じゃあ今はどーしたんですかー」

駿が棒読みで言ってくる。幼馴染、親友、この要素から駿の言葉には遠慮がゼロ。俺にここまで辛辣に話す人はあとは由菜くらいだ。

ここから言うことは駿だから言えることであって、他人には絶対言えない。由菜は勘づいてるけど。

本当に言わなきゃいけない相手は若葉だけどそれも上手くできない。

だからこれから俺が言うことは若葉にはみんな秘密にして。いつかちゃんと自分で言うから。



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