第2話

穂高のルックスはそりゃあもう「少女漫画のヒーロー」かのように良い。

背も180cm近くあるし、目鼻立ちが整ってて正統イケメンの部類に入る。

幼馴染でいくらお互いの容姿に軽口叩ける間柄でも実際、口が裂けても穂高なんかイケメンじゃないって言えない。

悔しい。


教室の入口にいる穂高に向かって言った。

「電子辞書なんか自分のあるでしょ〜!?てかなんなら駿に借りてってば!」

私がこういう風に言うという事も穂高は想定内。

あからさまに悲しそうな顔をする。

そうすると周りが私に向かって言い出す。

「も〜、若葉、電子辞書くらい貸してあげなよ。穂高くんわざわざ旧館から若葉に会いに来たんだから〜」

「そうそう。あんなイケメンな彼氏、冷たくしたら離れちゃうよ?」

ありがた迷惑すぎる冷やかし。大体なんでわざわざ旧館から来るの?

穂高は。彼氏じゃない。

「分かったよ。もう。待ってて」

結局は穂高に弱いんだな、私も。

「は〜。はい」

ため息着きながら渡すと穂高かククククって笑っててむかつく。

「サンキュー」

そうやって爽やか〜に穂高は自分の教室に戻ってった。そう。問題はここから。ここからが最悪なの。

「も〜、若葉ってば福沢諭吉とか渋沢栄一とか言っといてちゃっかりあんまイケメン彼氏抑えてんのよね〜」

はあ。やっぱりか。穂高と私が並んでいる限り永遠に言われ続けるこの言葉。

私も馬鹿じゃないからここで過剰反応はもうしない。ちょっと曖昧に笑って返した。

「ねえねえ、ところでさ若葉と穂高くんっていつからの仲なの?ずっと聞いてみたかったんだよね」

高等部から入ってきた子に聞かれた。

これも実はあんまり言いたくない。

だから適当に返して寝るって言って机に突っ伏した。

寝たフリ。

そこで私の幼稚舎からの親友で女神のよーな由菜がやっと来た。由菜は計算してサボってるタイプの優等生。

「あ、由菜〜。やっと来た」

「おはよー」

「おはよって。今5限始まる前ですけど」

突っ伏して寝たフリしてる私を見て由菜が言った。

「なんで若葉寝てんの?この時間普段寝ないじゃん」

「あーさっき穂高くんが教室に来てから寝た」

別の幼稚舎からの友達がいつもの事みたいに言って突っ伏してるから分かんないけどそこから多分暗黙の了解的な感じでスルーされた。


机に突っ伏した自分の腕の中の暗闇の中で思い返す。思い返せばばか穂高しか思わない。


穂高と私は幼稚舎以前にお母さんのお腹にいる時から一緒。うちのお母さんが穂高の家が経営してる病院でお産した時仲良くなったから。

それでその内2人が結婚したらいいね〜ってなって許嫁ってことになった。

これは本当にビジネス抜きの許嫁。

まあ、それぞれ利点もあったんだろうけど何よりあの時まだ私たちは仲良しだったから。

幼稚舎入ってすぐの頃。今より人と話すことが得意じゃなかった私は穂高と由菜と駿(穂高の親友)の影にいつも隠れてた。でもある日みんなと打ち解けるきっかけが出来て遊ぶようになって、あるひとりの男子が

「若葉ちゃん、僕のお嫁さんになってよ!」

って言ってくれたんだけどそしたら穂高が

「ダメだよ!若葉は俺のお嫁さんなる事が決まってんの!!」

って言って。まあ幼いながらときめきました。はい。その穂高の「若葉は俺の」宣言がその後訪れる思春期に穂高をいじる最高の言葉になる。

小等部6年生くらいのまあ本当に思春期入りたて。

ふたりでいると常にからかわれるようになって。

1年くらいは我慢してたけど遂に耐えかねた穂高が中等部入ってすぐのある日に

「しつっこいな!なんなんだよ!もう!俺はあんなやつなんか好きじゃない!どっこも可愛くないじゃん!」

この大声での発言から男子もからかうのを流石にやめた。しかもこの頃あんなやつ呼ばわりだった。


そしてその言葉を額面通り受け取り傷ついた私と大声発言で気まずい穂高はそこから随分の間話さなくなって、いつも一緒の私たちを見てた友達たちが今度は心配して騒ぎだして、今度は私がキレた。うん。

そこから私はひねくれて、穂高は性根が腐ったやつになって今に至る。高等部から穂高はモテるようになった。高等部から入ってきた子が多かったから。

告白する子が出てくると穂高が私を理由に断り始めてまた噂が再燃した。

そのうちなんだか知んないけどもうやだ!って思ってる私に穂高がちょくちょくちょっかい出すようになってきて私を困らせては楽しんでる。

それでさっきみたいな事が多い。


…だから私は穂高の事がだいっきらい。

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