トラッシュボックス
くよくよめそめそと女が一匹、頼りない街灯を頼りにとぼとぼ歩いていると「おいおいおいおい!」と厭な感じの声が幽かながらもしっかりと聞き取れてしまった。
右手首に巻き付いたサイケなデザインがイカしたアドベンチャータイムの腕時計(デッドプールがしている奴)を見る。
午前4時過ぎ、時間的に新聞配達では無いな?
声の主を探すこと5分、薄暗い住宅街、統一感がある一戸建てが立ち並ぶ虚無感が漂う通りに、SOSの主はいた。
転がったスーパーカブはエンジンが切れておらず、ばばばばとイグゾーストノイズを響かせっぱなし、傍らには原付ライダーとそれに組み付く怪人物。
「放せ! 放せよ!」
「減らないんで! 減らないんで!」
「減る! 減るから!」
何やら揉めている。
「あんたら何やってんだ?」
「「!?」」
揉める者、揉まれる者双方が私に気づく。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「魔法少女はのお! 人を殺してもええんじゃ!」
この発言は私を魔法少女という外道人生に引き込んだマスコットのカニカマ女が放った放言だ。
実際魔法少女が活動で人を結果的に殺めてしまっても捕まらない。何故なら魔法少女保護法なる異常な法律が存在するから。
「うげげ! カニ女!?」
事情は知らぬがそれを言ったら終いだよ。
私をカニ女と呼ぶ者は悪党と相場が決まっている。
血相を変えた青年揉み怪人は路傍に倒れたスーパーカブを引き起こすと同時に逃走を始め、それと同時に
質面倒だ。
殺すしかない。
「待たんかド百姓!」
あんまり全身に渡る変身をしたか無いのだが、四の五の言っとる暇など無い。
フル変身なんか数か月振りだろうか?
走りながら変身したもんだから、脚の長さが今より10㎝ばかり縮む訳で、バランスを崩しすっころぶ。
「痛……」
中坊の躰ってのは良くない。
力に溢れすぎる。
アスファルトにすりおろされた痛みをこらえつつ、立ち上がるとその場で、1回、2回、3回跳ねる。
呼吸だ呼吸を止めるんだ。
先輩が言ってたね「短距離走は息止めろ」って。
良し!
用意ドン。
逃走者を追い立てながら私は考える。
そういや最近、給湯室でこんな噂を聞いた。
吸血鬼が界隈に出ると。
魔法少女特有の異常な身体強化のなせる業か速攻で
「おまえアレか! 吸血鬼か!」
「なんでわかるんだよおぉおおお!?」
この街は終わっているので吸血鬼も平気で突然現れる。
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