第21話
一度学校を出た後、その隣にある白い建物にやってきた。
道中アニーちゃんは私についてあれこれ聞いて来たけど、「趣味は?」とか「好きな人はいるの?」とかそういうたわいもない話だった。
この手の話を小説の中でしかしてこなかった私はどうにも対応に困ったけど、私はアニーちゃんよりは大人なので大人な対応ができたと思う。そう思いたい。
オリヴィア先生に着いて白い建物に入る。
中は真っ直ぐと通路がつながっていてその両サイドには扉がいくつか見えた。
なんだかホテルみたいだ。カーペットが敷いてあるわけじゃないから少しひんやりとした雰囲気だけれども。
「あたしたちのお部屋はこっちよ、リコ!」
「あっ、ちょっと待ってよ〜アニーちゃん〜」
赤髪のおてんば娘に腕を引かれて私は通路の一番奥へ。
辿り着いた扉には『アニー』と『テレシア』と書かれた表札がかけられていた。
なんかどこかで聞いたことがある気が……っと、それよりもアニーちゃんの部屋にはすでに同居人がいるの!?
「せ、先生! あの……この部屋……既に別の人が……」
「ああ、それなら気にしなくていいわよ」
先生は表札を一つ、ひょいと取って続けた。
「アニーの同室の子はね、この部屋を使っていないのよ。聖女になった今でも自分のお家で生活しているわ。だから、今日からは立花さんが使いなさい」
「そ、そうですか。結構自由なんですね」
ん、ということは……わたしはあることに気がついてしまった。
「そ、それじゃあ……私もお家から通わずに、ここから学校に行ってもいいってことですか?」
「構わないわよ。ただ、毎日教会まで来るのは大変でしょう?」
「それは……」
確かに今日ここまで来るのに4時間以上かかっている。
通学にこれだけの時間を費やすのはおかしな話だ。
そういえば葉山結衣さんも家から通っていたみたいだけど、魔女が多くなって来たから教会には行かないとか行っていたし、やっぱり面倒なんだと思う。
私がこれからも生きるためには魔女を倒し続けるしかない。
私の街に他に魔女がいたのかと言われれば……たぶんいない。
もしいたなら葉山さんがそれを倒して延命していたはずなんだから。
それに……アニーちゃんがすごく悲しい目をしていた。
「リコ……もしかしてあたしと一緒に暮らすのは嫌なの?」
「くっ……胸が痛い」
「立花さん、ここは合理的に考えてここで暮らすのが一番よ。ここは比較的魔女も多くて、聖女に取ってみれば聖域のような場所なのですから」
「……わかりました。ここで暮らします。よろしくね、アニーちゃん」
「やったー! ありがとう、リコ! 」
「よ、よろしくね……!」
年下……おそらく小学生相手だというのに私は何ともぎこちなくそう返した。
私こそは中学生といえどスクールカースト最底辺みたいな女の子だから、明るい小学生には負けるのだ。
私も明るい性格だったらもう少しマシな学校生活を送れたのかもしれない。
「それでは私は一旦学校に戻るわね。お昼が済んだら教室に来なさい」
オリヴィア先生はそう言って宿舎を後にした。
アニーちゃんは目を輝かせて私の背中を押す。
「ささ、中に入って!」
「う、うん」
おっかなびっくり私は扉に手をかけた。
中は大きな窓が一つあり、日当たりのいい部屋だった。
壁紙は全面白で、窓際には花瓶に花が生けられている。
ベッドは2段になっていて、下のベッドには大きなクマのぬいぐるみが置いてあり、上のベッドには何も置いていなかった。
「お姉ちゃんのベッドはこっちね! あたしのは下っ!」
「う、うん。そうみたいだね。それにしてもそのテレシアさん……という人は本当にこの部屋を使っていなかったんだね」
「……そうだよ」
「あっ、ごめんね。寂しかったよね」
「ううん! でもいいの! だってテレシアはあのお嬢様の従者だから、お城にいるのが当然なの」
「そうなんだ」
彼女は明るくそういった。
どうやらテレシアという方はメイドさんのような仕事をしているらしい。
メイドといえば、白百合ちゃんに悪態ついていたドSメイドを思い出してしまう。
もしかして、あの人がテレシアさんなのかな。
そんなことを考えていると、
「詳しい話は授業で聞けるわっ! だからリコ、支度をすましてお昼にしましょ!」
アニーちゃんがどこからか大きな布団を抱えてやってきた。
私はそれを受け取り、2段ベッドの上の段に敷いた。
急拵えではあるけど、これで上のベッドは私のものということなんだと思う。
そして部屋を出た後、入り口に置いてあった木の板に自分の名前を書いた。
「これでよし!」
「早く行こ、リコ! 置いていくわよっ!」
「待ってよアニーちゃんー」
余韻に浸るまでもなく、おてんばな少女に連れられて宿舎を後にする。
ここでの生活がどうなるかはわからない。
だけど、私はここで生きないといけない。
生きないと……私の当面の目標は達成できないのだ。
変な充実感を感じながら私は走り出した。
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