第17話

前回までのあらすじ。異世界転生ものの主人公みたいな扱いを受けた。以上。


聖女の力を計測した結果、どうやら私は非常に強い力を持っていたらしい。

受付のお姉さんたちの態度が一変した時には、内心私も気が大きくなってしまった。

昨日よりちょっと強くなった気分の私は、少し歩幅を大きくして受付の金髪メガネ──アイラさんの後ろを歩く。


聖女の登録自体は済んだみたいなんだけど、他にやらないといけない仕事が残っているらしい。

手に持っていた住所とか名前とかが書かれた登録書に間違いがないか確認しながら階段を降りていくと、アイラさんが足を止めた。


教会の地下1階は2階と同じような内装になってはいたが、その奥にさらに階段があるのが見えた。

どうやら地下2階があるみたい。

あっ、白百合ちゃんとお父さんがいる。お父さんは受付台で何やら書類を書いているようだった。私とおんなじようなものかも知れない。


受付の奥には真っ黒のシスター服をきた2人の女性がいた。

1人はボサボサ緑髪で目の下にクマのあるお姉さん。もう1人は金髪ロングだけど同じくボサボサで目の下にクマのある少女。年齢は私と同じくらいに見えた。


アイラさんは受付台を越えると、緑髪のお姉さんに声をかけた。


「お疲れ様、イブリン。図書館を貸してくださる?」

「……いいよ」


どうやらイブリンさんというらしい。彼女の声は小さく、それでいてガラガラとしていた。この時点で私は彼女に強い親近感が湧いた。おそらく、イブリンさんも私と同じタイプの人間だろう。


イブリンさんのことを見ていると、彼女も顔をあげて目があった。

その瞬間私たちは互いに視線を右下へとずらす。そして、通じ合った。


「お、お邪魔します……」

「こ……こちらこそ」


陰の者たちの邂逅はほんの一瞬で、しかし私たちは刹那のうちに心の友になった。

見ると、金髪ボサボサヘアーの少女も見知らぬ人が来たことに嫌悪感を覚えている様子だったので、ほとんど心の友だった。


アイラさんに連れられて地下2階へと降りてみると、そこは図書館になっていた。

図書館の前には電子ロックのかかったガラスの扉があって、受付の人とかはいない見たいだ。


「立花様、先ほどのロザリオを出していただけますか?」

「えっ、あ、はい。これですよね」


私は制服につけていた十字架のアクセサリーを一旦外した。


「それをこちらのパネルに近づけてください。チップが反応して、解錠されます」


アイラさんが指差す先に、白いパネルがあった。

さっきICチップで云々の話をしていたから、きっとそれだろう。

言われた通りに、私はロザリオをパネルにくっつけると、ガラスの扉がウィーンと開いた。


「あっ、本当だ。これは魔法的ななにか……」

「いえ、単純に電子ロックです。先ほど説明した通りとなります」

「そ、そうですか」


一縷の望みにかけて聞いてみたけど、やっぱりマジカルな要素はなかった。

聖女以外は魔法は使えないということなのだろうか。


図書館に一歩足を踏み入れると、弱い明かりがパチパチと付き何重にも折り重なる本棚たちを照らした。私たちを歓迎しているようだ。突然明かりがついたけど、これも魔法的なものじゃないと思うから質問はしなかった。


実をいえば、アイラさんがこの場所を図書館と呼んでいるのを聞いて少し違和感を感じていた。

施設の中にあるのであれば、図書『室』じゃないの?という話だったんだけど、この広さを見れば図書『館』と呼ばれていても違和感がなかった。

地下一階以上の階以上の広さを持っているようだ。


「立花様は2冊の聖書をお持ちになられていますので、他の聖女より少し多めのお時間をいただくことになります。その点、ご了承ください」

「多めに時間……? 私は何をすればいいんですか?」

「具体的には日記をつけていただきます。決まりですので」


聖女としての初めての仕事が日記? 疑問が多かったけど、アイラさんが先に行ってしまったので急いで彼女を追いかけた。


1万冊どころの騒ぎでないほどに大量の本が並べられた本棚の間の通路を私は行く。

道すがら本の背表紙を見たりしてはいいものの、英語のとか他のよくわからない言語で書かれた本ばかりでどんな本かわからない。

しばらく歩いていると、日本語の背表紙のものも現れた。

薄暗い明かりに照らされたそれらは、『キリスト教の歴史』『こどものキリスト教図鑑』『聖書』などのタイトルの本であることがわかった。

やはり、ここはキリスト教関連の本が並べられているらしい。


「(そういえば、サナエさんがキリスト教を魔女化させるとか言っていたっけ……)」


そのまま無言で私たちは進んでいった。

そして、ついに図書館の奥へと到着する。


「あれっ、なんだかネットカフェみたい」


私の第一印象はそれだった。

本棚のなくなったその場所には、まっすぐ続く通路が6本。

そして、通路の両側には扉が5枚ずつ作られている。

全体的に茶色い木材でできたそこは、木の匂いがしてなんだかいい匂いだった。


「ここは……?」

「ここは聖女様たち専用のお部屋となっています。歴代の聖女たちが、ここで日記を書いております」

「なるほど……でもどうして日記なんて」

「次の聖女へと知識をつなげるためでございます。また、聖女様方が生きた証にもなります」

「そ、そうですよね……」


しおれた声で私はそう返した。

魔女を倒さなければ私は寿命で死んでしまう。

それだけじゃない。魔女に殺されてしまう可能性だってある。

これからの私の生活は、常に死と隣り合わせ……なんだと思う。

そう考えたら、日記を書くという一見意味のなさそうな行為もとても大切なことに思えた。


「聖女様の部屋はそれぞれ電子ロックがかけられています。扉の側にあるパネルに聖書を押し当てていただきますと、扉が開きます。それでは、私はここで失礼します」


アイラさんは一礼すると、図書館の入り口へと戻っていってしまった。

どうやら、ここでもマジカルな機構はないらしい。

たぶん、画像認証とか文字認識の類なんだと思う。


残念がっていても話が進まないので、私は自分の聖書の部屋を探すことにした。


「歴代の聖女の日記か……どんなことが書かれているんだろう」


私は聖書を見て思いを馳せた。

ベレシートとゼカリヤ、どちらから行こうと考えていると、葉山結衣さんのことを思い出した。

彼女ももしかすると日記を書いていたりするんだろうか。


「よし。まずはゼカリヤからにしよう」


ゼカリヤの聖書を握りしめると、該当する部屋を探した。

通路を隈なく探すと、左の通路の一番奥にゼカリヤの部屋が見つかった。

部屋の壁の側には、パネルがある。

ここにゼカリヤをくっ付ければいいんだろう。

妙に緊張してきた私はごくりと唾を飲み込むと、決心した。


「……入ろう」


聖書をパネルに押しつけしばらくすると、ガチャリと木製の茶色の扉が開いた。









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