第15話

和風工房を抜けると、そこには洋風な街並みが広がっていた。一面に広がる色とりどりのチューリップに思わず目を奪われる。ここがどこなのか知らないけど、雰囲気的にヨーロッパのどこかなのは間違いない。

海外旅行はしたことがないから、私は思わずごくりと唾を飲み込んだ。


「す、すごい……本当に海外まで来ちゃった……」

「いや、ここはまだ日本だよ」

「えええええっ!?」

「ハウステンボスだよ、理子。僕は昔旅行に来たことがある」

「そ、そんなっ……私もう気分は海外旅行だったのに」


お父さんが冷静に今の場所を教えてくれた。

先走ってしまった私は顔が熱かった。

……名前は聞いたことがある。確か、長崎にヨーロッパの街並みを再現した観光スポットがあるとかなんとか。

九州地方のことはあんまり知らないけど、ハウステンボスは流石に知っていた。


「そ、それにしても……どうして観光地に繋がってるの?」

「サナエの趣味みたいだよ。長崎のどっかに扉を作らないといけなかったから、観光目的で選んだんだって」

「そ、そうなんだ」


魔女の工房の出入り口は随分と恣意的に作れてしまうらしい。

せっかく観光地に来たのだからと、遠くで回る風車を眺めながら、花の香を嗅いでみた。……いい匂いがするかと思ったけど、そんなことはなく無臭だった。

1人で観光気分を味わっていると、2人が先に行ってしまった。


「あっ、待ってー」

「はいはい、行くよ。お父さんを持って。ここから1時間くらい走るからさ」


白百合ちゃんはぴょんと飛び上がり、走っていく。

私は急いでお父さんをおんぶすると、彼女の後を追った。


ハウステンボスを抜けると、水辺に沿って私たちは進むことになった。

最初、随分大きな湖だなぁと思っていたんだけど、そうではなく湾だということをお父さんに教えてもらった。大村湾というらしい。

水辺の風景は、モクモクと広がる背の高い樹木が永遠と生えていてあまり代わり映えはなかった。

長崎は観光地って印象が強かったから拍子抜けしてしまったけど、よくよく考えてみれば県内全域観光地なわけがないなって私は納得した。


時速100kmはゆうに超えるスピードで私たちは進。聖女のスピードは電車なんかよりも随分と早い。

残念ながら新幹線よりは遅いかもしれないけれども、それと違って道は自由自在だ。


「ちょっと水上渡るよ。ショートカットさ」

「そんなこと出来るの!?」

「出来るさ。心配ならゼカリヤを使いなよ、理子」


そんなことを言いながら、白百合ちゃんは水辺に向かって垂直に走った。

そして彼女は水面に足をつける──しかしその体は水中に沈み込むことはなかった。

すごい! 私にも出来るのかな……!


白百合ちゃんは出来ると言ってくれたからきっと大丈夫。

大丈夫……のはずなんだけど……!


「やっぱり怖いっ! お父さん掴まってて!」


背中にそう声をかけると、私は大きくジャンプして杖に跨った。

空を飛ぶ魔法使いのイメージといえばこれしかない。

長さ的に2人がギリギリの聖女の杖に乗り、杖の先端からゼカリヤで水を押し出した。魔法の反動で杖は私たちを乗せて宙に舞う。


「わっ、安定しない! おわあああああ!!!」


私の魔法使いっぽい飛行は初めてにしては上々かもしれないがあまりにもグラグラして酔ってしまいそうだった。

背中のお父さんに気を遣いながら、徐々に高度と角度を調整させていく。

1分ほどの格闘の後、ついに安定した飛行に私は大きなため息をついた。


「な、なんとかなった……お父さん大丈夫?」

「大丈夫だよ、理子。それにしても本当に理子は大変なことに巻き込まれたようだね。僕が出張の間、何があったんだい」

「そ、それは……」


私は言うのを躊躇った。

まさか、お父さんがいなくなった後に学校ではイジメられて……ってこれはお父さんがいた時もそうだったけれども……とにかく膝を割られて橋から落とされ死にかけたのがきっかけでこんな力を授かったなんて……

だけど、お父さんには言わないといけない。そんな気がした。

きっと、この聖書を手にした時点で、私は長くて数年以内には死んでしまうと思う。数日前に死ぬ予定だったのが、幾分延長されただけだ。

突然娘が死んだなんて、そんなのお父さんからしてみたら悲しすぎる。

逡巡の末、私はついに口を開いた。


「わ、私ね。数日前に死ぬはずだったの」

「……それはどうしてだい?」

「お父さんたちには黙ってたけど、私小学生の頃からいじめられてて、高校に入ってからは一番酷くてそれで……」


言っていて苦しかった。

お父さんの顔は見えない。

だけど、悲しんでくれているのはわかった。

それだけで、私は十分嬉しかった。


「死にそうになったときね、私神様に祈ったんだ。なんの神様かと言われれば、なんの神様でもない……漠然と何かに縋ったそれだけなの。だけど……そうしたら変な本が舞い降りてきて」

「わかったよ。本当にすまない。僕は、出張ばかりしてて理子がそんなことになっていることに気が付けなかった」


お父さんは申し訳なさそうにそう言った。私の服を掴む手が震えていた。


「ううん。私が言わなかっただけだからお父さんは悪くないの。大丈夫、大丈夫って……誰にも言わず、いつか変わるって耐えていたのは私の意思だから」

「理子……」

「家に帰って、お父さんの話を聞くのは好きだったの。少ない時間だけど、楽しい時間だったから。私は救われてたんだよ。だから、お父さんは悪くない」

「……それでも、責任を感じない方が無理だよ。理子のためにお父さんにできることは何かあるかい?」

「なら、陸をもっと可愛がってあげて。お父さんがいなくなってから、陸はすっごく荒れてたんだよ。きっと、お父さんがいなくなって辛かったんだと思う」

「それでは理子のためにはならないんじゃないか?」

「ううん、いいの。私は多分、すぐ死んじゃうと思うから」

「……ん?」

「聖書の力の副作用みたいなものがあるみたいで、魔女を倒さないと私は死んじゃうんだって。頑張ってはみるけど……長生きはできなそう」


そこでお父さんは口を噤む。

お父さんは何年間も魔女の工房で身を隠していた。その間に魔女を見ていたはずだ。

あれをみてしまったら、長生きしろという方が無理な話だって理解してくれると思う。


「そうか……なら、出来るだけ頑張りなさい」

「どうして……?」

「頑張って頑張って、それでもダメなら悔いが残らないだろう。人間、悔いを残して死ぬのが一番辛いはずだよ」

「お父さんもそうなの?」

「それはそうさ。だから、お父さんはこの歳になってもまだ研究者なんてしている」

「じゃあ、私も悔いが残らないように頑張る」


自分に言い聞かせるようにそう告げて、私は魔法の威力を上げた。

速度を上げた私は前を走る白百合ちゃんに追いついた。

彼女は何もいうことなく、水上を走っていた。



思ったより早く走ったらしく、30分も走ったところで白百合ちゃんは足を止めた。

お父さんのつけていた時計は8時45分を示していた。

目的地は……港だった。

まだ海沿いには到着していないけど、遠くに海が見えた。

港のそばはすごく発展しているようで、これまでイメージしていた漁師町というのとは違っていた。なんだか海賊船みたいな船も停泊しているしちょっとかっこいい。


「人も多くなってきたし、ここからは歩くよ。そして、もう一度工房に入ろう」

「また入るんだ。次はどんな魔女の工房なの?」

「やはは、さっきサナエが言っていたフィコの工房だよ。かなり広いからびっくりするだろうね」


フィコという人については、サナエさんの師匠みたいな人という認識だ。

お師匠様の工房……一体どんなものなんだろう。

観光客気分で人の多い通りを歩いていると、至る所にこの場所がどこかを示す看板やのぼりがあることに気がついた。

どうやらここは出島という場所らしい……って流石にこの名前は知っている。

中学の授業で習った。でも、


「あれっ、出島って……島じゃないの、お父さん?」

「理子が学校で習った時代の頃は本当に人口の島だったんだよ。ただ、今では埋立が進んで島ではなくなってしまったね」

「へー、そうなんだ」


私が教科書で見たイメージと今のイメージが変わっているみたいで少し残念だった。確か出島って海外との貿易港だったと習った気がする。

そんな場所に工房を作るなんて、ずいぶん外国かぶれな人なのかも……とか思ったけど、フィコさんっていうくらいだからそもそも日本人じゃないよね。


ついに海沿いに到着したところで、白百合ちゃんは止まる。

さっきから私も気を張っていたからわかった。

海上に……工房の入り口がある。

近くに来て、さらに強く魔力を感知しようと感覚を研ぎ澄ますと、その輪郭はさらにはっきりとしてくる。

直径5メートルはあろうかという、丸く大きな入り口が私たちを出迎えていた。

入り口は黒く塗りつぶされているように私には見えた。

注視しなければただの青い海の一部であるのに。


「理子、入ってから少し泳ぐよ。息を止めておいて」

「う、うん。お父さんもお願い」


お父さんに確認を取った後、私は息を大きく吸い込んだ。

全員の準備が整ったところで、白百合ちゃんを先頭に私たちは海に飛び込んだ。


ザブンと音をたて、空気の粒が周囲を踊る。

目を開けていても全く痛くない。

陸上でそうするのと同じように、目が見えていた。

不思議な感覚に頭が混乱しながらも、私はお父さんを近くに引っ張り寄せる。


白百合ちゃん、泳ぐのも速いや。

私は泳ぎが上手な方ではないので、ゼカリヤを後ろに噴射して進むことにした。ゼカリヤ、万能な聖書すぎる。


30秒ほど進んだところで、上方から強い光が注ぎ込んでいるのが見えた。

先行していた白百合ちゃんがそこに入ったので、私も後を追った。


「ぷはあっ! ここは……?」


水から顔を出した後、周りを見渡す。

そこは広く、どこまでも広がる草原だった。遠くには山と、工場のような建物が見える。

工場を中心に放射状に草を分けた道が作られており、シスター服を着た小人がその道を忙しなく走り回っていた。


「あの小人って……」

「あれは、フィコの使い魔みたいなものだよ。魔女でもないフィコの魔力で作られた架空の存在さ」


なるほど。すごい魔女にはそんなこともできるのか。

お菓子の魔女も、お菓子を自由に生成できていたし、そういうものなんだろう。


私は白百合ちゃんに手を引っ張ってもらい、水辺から草原へ。

濡れてしまった服をどこで乾かそうと心配したが、なんと私の服は一切濡れていなかった。

仕組みはわからないけど、白百合ちゃんもお父さんもみんな濡れている様子はなかった。不思議な世界に来てしまった。


服が濡れていないことや、忙しなく走る小人に気を取られていたけど、改めてこの工房の異様さに気がついた。


この工房はあまりに大きすぎる。


お菓子の魔女の工房も確かに大きかった。

だけど、周りはチョコの壁に囲まれて、ある程度工房の形というものがあった。

では、この工房はなんなんだ。

一切の閉塞感を感じない。

自分のための住処を用意したというより、自分のための世界をもう一つ用意したというような印象だった。

強い魔女になってくると、世界をもう一つ作るくらいの力を持っているってこと?


そんな相手と戦って……聖女は勝てるの?


私の中で小さな、そして重大な疑問が生まれたところで、思考が白百合ちゃんの声で引き戻される。


「ここから進む道はすごくシンプルだよ理子。方角さえ間違わなければ、迷子になることはないし、私がそれを誤るわけがないのさ」

「う、うん。頼りにしてるね、白百合ちゃん」


つくづく便利な聖書ベミドバル。白百合ちゃんは自分のことを出来損ないと言っていたけど、彼女の聖書にはすごく助かっている。私はまだ、3冊しか知らないけど、その中だったら一番便利な聖書かもしれない。


再びお父さんをおんぶして、私たちは走り出した。

草原を走るのは気持ちがいい。

速度は相当出ているはずなのに、身体に当たる風は心地よい程度のものだった。

普通なら空気の抵抗とかで顔はめちゃくちゃになりそうだけど、そうなっていないのだからなんかしら魔法の力が働いているんだろう。


時速100kmほどで走っていると、小人が3人──私たちに追いついて並走してきた。

遠くから見たときには気づかなかったけど、紺色のシスター服を着た小人の背丈は私の肩ぐらい……小学生くらいの背丈で、顔は口だけがついたのっぺらぼう。手には指がなく、まるで国民的タヌキ型ロボットのようにまんまるいしろい球体が先端についていた。

人ではないことは、一眼で分かった。

小人は私たちの横につけると、敬礼して喋り出した。


「サユリ! サユリ、オツカレサマ! キョウモオシゴトガンバロウ!」

「やはは……お疲れ様、君たちもがんばってよ」

「オマエ、ミナイカオダナ! サユリノトモダチカ!?」

「わ、私!? うん、白百合ちゃんの友達だよ。立花理子っていうの。背中のはお父さん」


子供に話しかけるように言った。実際年齢はわからないけど、精神年齢は小学生くらい……だと思ったからなんの抵抗もなかった。

小人のシスターは名前を聞いて嬉しそうに続けた。


「ソウカ! イッショニハタラクナカマフエルノハイイコトダ! リコモイッショニガンバロウ!」

「う、うん。ありがとう」

「タクサンハタラコウ! マイニチハタラコウ! カミサマガオヤスミノトキモワタシタチハガンバロウ! カミサマノタメニガンバロウ! ソレジャ、カミノゴカゴガアランコトヲ!」


そういうと、私たちに並走していた3人の小人たちは工場の方へと戻っていった。

すごく騒がしい子たちだった。なんだか変な宗教入ってそうだけど、楽しそうな雰囲気は伝わってきた。


「やはは……驚いたかい? あの子達いつもああなのさ」

「驚いたよ。いっつもあんなに元気なの?」

「そうだね。彼女たちは365日ああやって走り回っているよ。日が落ちたらお仕事はおしまいだけどね」


随分と働き者のようだ。一年中、1日も休んでいないということだもんね。

高校だって週に2日はお休みなのに……大変そう。

でも、彼女たちは楽しそうだったからそれでもいいのかもしれない。


そして、さっき白百合ちゃんは日が落ちたらおしまいと言っていたことから、この工房には昼夜の概念があるらしい。ここまでくるといよいよやはり工房というより、もう一個の世界だ。


そこから先、私たちは道ゆく小人に挨拶をしながら1時間ほど走った。遠くに見えていた山の麓まできたところで、白百合ちゃんは速度をゆっくりと落としていった。

私にも分かった。工房の出口がすぐそこにある。

木々が生い茂る一本道の入り口──そこにぼんやりと扉があった。


「ついに……出口。ここからまた走るの?」

「やはは……流石にもう走るの面倒そうだね。心配は無用さ。さあ、行こう」


白百合ちゃんは手を伸ばす。

一般人からは何もないように見えるその空間に、彼女の腕が吸い込まれた。

この扉をくぐった後、何が待ち受けているのだろう。

半分の不安と半分の期待を胸に、一歩踏み出した。



赤・黄・緑……暖色のステンドグラスが太陽の光を浴びて輝いている。

振り返ってみると、背後には大きな十字架が建てられており、ステンドグラスを通して色を変えた光がそれを照らしていた。

木製で背もたれのある長椅子が左右に5つずつ配置されており、中央が道となっている。

奥の方に、階段が二つ見える。左側が上階へ、右側が下階へと続く階段のようだ。


どんな不思議な場所に飛ばされるかと思っていたけど、漫画の中で見た教会イメージそのままだった。

これまで扉を潜るたびに驚きの連続だったから、少し拍子抜けかもしれない。


「あ、人がいるよ白百合ちゃん」


教会の椅子の最後列に、長く綺麗な青い髪の女の子が座っていた。

色白でイギリス系の綺麗な顔だち。目つきは鋭く、第一印象はすごくとっつきにくそうな印象を受けた。

さらに、衣装が……メイド服だった。ドSメイドかな?

内心そんな冷やかしをしていると、青髪少女がこちらに気がついた。


正面からこちらを認識すると、素の状態以上に彼女の目つきはさらに鋭くなった。これで不機嫌じゃなければ嘘だというほど、彼女はその目で自分の感情を露わにしていた。

少女と白百合ちゃんはどうやら知り合いのようで、彼女の顔を見てからというもの、白百合ちゃんは居心地が悪そうだった。白百合ちゃんがぎこちなく右手を上げて挨拶すると、青髪メイドはドスドスと不機嫌そうにこちらに歩いてくる。


「や、やあ。1ヶ月ぶりだね。元気にしていたかい?こちらはもちろん元気さ。連れてきた聖女もね」

「ふん。御託はいい。軽口を叩く暇があればもっと熱心に聖女を探したらどうだ」

「やはは……それはもうおっしゃる通りで」

「まったく、1ヶ月も新しい聖女を見つけられないだなんて、これだから出来損ないは。お嬢様なら1ヶ月あれば10人は見つけられていただろう」

「いやいや、それは物理的に無理があるでしょ。そんなぽんぽん聖女が入れ替わったら私みたいなのが生まれちゃうしさ」

「ふんっ、お嬢様のことを知りもしないで下手な口を叩くな」

「ど、ドSメイドだ……」


見た目に違わず、青髪のメイドはドSだった。掴みどころのない白百合ちゃんがたじろいでいる。

妙な感動があって思わず思ったことを口に出してしまった結果、ドSメイドはその鋭い眼光を私へと向けてきた。


「貴様が新入りか。……チッ。どうしてこうも日本人が多い」

「やはは……それは私が日本で捜索作業をしているからだよ」

「……チッ。チッ、チッ、チッ、チッ……!」


すごい……舌打ちの嵐だ。なんて態度の悪さなんだと逆に感心してしまうほどに、素行の悪いメイドを見て私は少し萌えを感じていた。みるひとが見ればきっと彼女はたまらなそうだ。

小学校の頃から他人にひどい態度を取られてばかりだった私はドSメイドに案外耐性があるらしく、威圧気味な彼女の態度を許容できていた。

メイド様の怒りの矛先はついに私へと向かった。射抜くような視線を私の身体を頭の天辺から爪先の先まで送った。

しばらく値踏みをされた後、少女は不機嫌そうに言葉を紡いだ。


「ふんっ、新しい聖女よ。教会は貴様を歓迎する。上の階に行きなさい。手続きはそちらでしてもらえるだろう」

「あ、ありがとうございます」

「貴様はなりたての聖女にしては中々使えそうだ。それでも、お嬢様の足元にも及ばないがな」

「そ、そうですか。その……お嬢様というのは随分すごかったのですね」


素朴な疑問を口にしたところ、ドSメイドの耳がピクッと反応した。


「当然だとも。世界で一番の、最高のお嬢様だ。私が唯一使えるお方であり、そして……唯一、十戒の魔女を討伐なさったお方でもある」

「えっ!? 十戒の魔女をですか!? ねえ、白百合ちゃん。十戒の魔女ってこの前すごく強いって言ってた魔女だよね!?」


興奮気味に私は言った。すごい……まさかそんな一番強い魔女を倒せる人がいるなんて!

是非ともそのお嬢様に強くなるアドバイスを貰いたいなとか思ったところ、白百合ちゃんが走り気味な口調で会話を断ち切った。


「あ、ああ。そうだね。それより急ごう理子。これから君が聖女であることの登録や、教会学校の手続き、寮の案内に……他にも色々とやることが詰まっているんだ。さあ行こう、今いこう」

「えっ、白百合ちゃん? どうしたの急に焦ってっ……背中押さなくても歩けるって……」


流されるように私は上の階に続く階段へと誘導される。

階段に足をかけたところで、私は振り向いて青髪のドSメイドに挨拶した。


「今度会ったときに、是非そのお嬢様の話を聞かせてください! それと……強くなる方法もっ!」


メイドは小さく会釈した。ドSメイドの初めて見せるまともな態度に、私は少し驚いてしまうのだった。


私はどうにか強くなりたい。強くなって……倒さないと行けない魔女がいるんだ。


階段を強制的にのぼらされる中、もう一度振り返ってみると、彼女の姿はすでに消えていた。

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