丁寧で胸の底が冷える田舎の違和を薬指に集約した物語です。

ここまで美しい不穏にはなかなか巡り合えません。

婚姻の前に水際で命を落とし縁の切れた女性と、切り落とされた薬指という、強い映像力をもって描かれる田舎の町でひっそりと進行する物語です。
描かれているのは陰鬱とした闇ではなく、むしろ昼間の日常の中にある景色です。過疎の町にただようその空気はしんとしていて、他者との孤絶を覚えさせます。そんな中、時折ふいと現れる人間たちの言動はなんと奇怪なのでしょうか。

それらがかえって生と死の境目の不安を描き出し、特徴的で奇妙な風習と、向き合い難い対人関係という、主人公のこころの座りの悪さを更に浮き彫りにしてゆきます。

そんな社会的不適合のはざまに、紛れ込むようにして漂い現れる尋常でないものたち……。

読みながら、常に自身の心臓の辺りに、ひんやりとした薬指の存在を感じられます。ぜひご一読いただき、共にこの不穏を味わいませんか?