コマンド・ザ・プレジデント 6
「で、どこからだ」
「火星第8市のB-5ブロックだよ」
「えっ、確か第8市って大変な事になってたような……」
「うん。別のところから資金調達して再建中のようだねぇ」
「それなら怪しい連中が紛れ込んでも気付かれねぇな。人の出入りも激しいだろうしよ」
「なるほど……」
ヨルが首を傾げると同時に、ミヤコは火星第8市の広報資料を会議用コンソールに表示した。
「そうと分かりゃ、人集めてカチコミかけるか。艦長、手配頼む」
ザクロは拳を手のひらと打ち合わせてそう言い、出て行こうとしながらドゥーイの方に振り向くと、彼が自身の後ろに付いてきていた。
「は? 艦長も行くのかよ」
「ああ。元はと言えば僕のお客だ。僕が決着付けなきゃ意味が無いだろう?」
「そういうことならオレぁ反対しないぜ」
「ありがとうクロー。というわけで、万が一なにか僕にあったときのために、大統領選の準備でもしておいてくれ」
ドゥーイが久方ぶりに見せる好戦的な眼差しに、
「……」
ドゥーイの右後ろの席にいた、ハンサムな副長である少し額が広い中年男性がスッと立ち上がり、無言で海軍式の敬礼を見せた。
「ご武運を」
それを見た艦橋要員全員が立ち上がり、偉大なる大統領に向けて同じ様に敬礼した。
「ああ」
敬礼で答えたドゥーイは短くそれだけ言うと、ザクロ達と並んで艦橋を後にした。
*
「はあ、戦闘艦の準備でありますか? なんでまた非公式の大統領令で」
「ワシも知らんが野暮用でもあんだろうさ。おーい、例の重巡もってこい! 偉大な男にコルベットなんか似合わねえからな!」
「おいおい。大統領はあんだけ武器山ほど買い込んで何すんだ?」
「さぁてねェ。あの重巡も持ち出すらしいし、第四次大戦でもおっぱじめるんじゃねぇの?」
「縁起でもねえ事言わんでくれよロッキー」
手配書の認可と共に、ドゥーイはコロニー宇宙軍や政府公認武器商など、方々回ってベネットソンの潜伏先へ攻め込む準備を整え、宇宙軍港の最奥にある
そこには、『NP-47』宇宙軍の秘蔵っ子、重巡宙艦ジョンソン号がすでに武器などの積み込みが完了した起動状態で待機していた。
「やあ、
そして、その甲板上には、かつて宇宙戦艦ミズーリを共に駆っていた、すっかり禿げ上がったり白髪になったりした老兵達が、
「へっ、引退なんざ撤回するもんだろゥよォ!」
「またアンタと宙に出るなんて夢みてぇだ」
「そんな愉快な話を聞きゃ、居ても立ってもいられネェってもんよ!」
「まあ、ワシゃあダンナに、もう知らん、って言われちまったがな。がはは」
20年は若返ったかの様な、ギラついた目をして整列していた。
放っておくと不健康自慢を始めそうな老兵達へ、ドゥーイは深々と感謝の意を伝えると、総員へ配置につくように指示し、自らも艦に乗り込んで艦長席へ腰掛けた。
「へい艦長。とりあえずありったけ呼んどいたぜ」
出港したジョンソン号が宙域まで出たところで、ザクロ達が呼び寄せた『ロウニン』の駆逐艦からミサイル艇、宇宙戦闘機を含めた約100隻の大艦隊が集結していた。
「ほーこりゃ壮観だわい」
「ありがとう。こんな情けない父親のために手を貸してくれるなんて」
「気にせんでください。アンタにみんな恩があんすよ」
「まあ、あと50隻が現地集合すっから飯代にもなりゃしねえけどな!」
「ムサシお前余計な事言ってんじゃねえよ!」
航路目一杯に展開する『ロウニン』艦隊は、ジョンソン号を中心に据えて、ガラは悪いが賑やかに一路火星第8市へと進んで行く。
*
「な、なんだ!?」
その約1時間後、月面都市中央公園にあるカメラの映像を今か今かと見ていたベネットソンがいる、建設拠点の鉄筋コンクリート造の建物が爆発音と共に大きく揺れた。
ベネットソンのアジトは、市政府の庁舎になる建物を中心に半径1キロの壁の内側に、様々な建物やフタで戦闘艦を何隻も隠せる溝が掘ってある構造になっている。
「リーダー!
「あとドウェインの野郎からの申請で懸賞金が!」
「リーダーッ。視界いっぱいほどの艦隊がこちらに向かって来ています!」
「なにッ!? あれだけ
規模もタイミングも完全に想定外の強襲を受け、ベネットソンは顔中を油汗まみれにして動揺しまくって叫ぶ。
「フ、フンッ。勇ましい事をしてくれるなあ! オイ看守、人質を連れてこい!」
その様子に
「おいガキぃ! 父ちゃん、お前を見捨てたってよ!」
指示を受けて、カードキーをかざして解錠した戦闘員が、ヨハンナの恐怖を煽るように冷笑混じりに言って入ったところで、
「ダウト」
「なっ!?」
「ヨハンナ! 目と耳塞げ!」
バンジが跳ね起きる勢いで飛び上がり、膝の辺りで戦闘員の首を挟み、身体を
「さて鍵はコイツだな」
足を潜らせて手を前に回したバンジは、腰のベルトから鍵束をとって自分の足とヨハンナの拘束ベルトを解錠し、彼女へ自身の手のそれを外させた。
「じゃ、とっととずらかるか」
軽くストレッチをしたバンジは、兵士の死体からアサルトライフルタイプのビーム火器と、高エネルギー電池5本とナイフをくすね、小脇にヨハンナを抱えた。
「まって、出口分かるの……?」
「おう。何回も中を連れ回してくれやがったんでな」
瞼がピクリと動いて顔をしかめつつ、バンジは不安げなヨハンナにそう言うと、廊下を慎重に進み始めた。
そのタイミングで戦闘と呼ぶには戦力差のありすぎる、『ロウニン』艦隊157隻対ベネットソンの私兵艦隊30隻が交戦を開始した。
ド派手に外で陽動をしているせいで、見張っていた艦も応戦に向かったため、敷地の背後からこっそり低速侵入した、
危険を顧みず、ザクロは建物の真正面に回って、機銃で牽制しながら低空ホバリングしてドゥーイを降ろした。
全身に装備できるだけのビーム火器や手榴弾、ナイフにサブアームの実弾拳銃やサブマシンガンを装備したドゥーイは、
「ヘイ! ヘタレ野郎のアドルフ! 人を呼び出しといたくせしてこんなところに
1人で敵陣地すら制圧しかねない、殺気を籠もらせた眼光を監視カメラに向け、カメラの向こうにいるであろう男を罵った。
「今からそっちに行ってやる! 銃や人質なんか捨てて、俺にかかってくる準備でもしていろ!」
「じょ、上等だこの野郎!」
「お、声が震えているぞ? 昨日まで書類と格闘していたこの俺が怖いのか?」
「テメエなんか怖くねえんだよ! ぶっ殺してやるゥッ!!」
口では非常に勇ましい事をスピーカー越しに指さしてくるドゥーイへ言うが、3階中央の監視所にいるベネットソンは、顔面を真っ青にして脚を小刻みに震わせていた。
「じゃあクロー、景気が良いのを頼む」
「あいよ大将!」
ザクロはその罵り合いの最中に愛機のビーム砲をチャージしていて、ドゥーイが振り返ってそう言うと50%の出力で放って正面玄関を吹っ飛ばした。
その余波で、迎撃のために玄関で待ち受けていた兵士たちも、まとめて木っ端のように吹っ飛ばされた。
「んじゃ、露払いはここまでって事で」
ノシノシと進撃を開始したドゥーイを見送ると、ザクロは3階建て屋上からのロケット弾を機銃で撃ち抜きつつ、一旦その場から離れた。
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