コマンド・ザ・プレジデント 4
それと同時刻。
ヨルがバンジのベルトがトイレの壁に掛かっているのを発見し、ミヤコ経由でそれを聞いたザクロは、法定速度ギリギリで電動バイクを飛ばし、『アングラ街』の入り口に到着した。
「まさか死んでねぇよな……」
ザクロは歯をむき出しにするほど全力疾走し、半分転げ落ちるような勢いで第5階層まで到着した。
「おう、クロー。ど――」
「メアを見てねぇかッ!!」
同じタイミングでムサシが第6階層から上がってきて、陽気に挨拶しようとした彼の胸ぐらをつるし上げる勢いで
「な、なんだよ。オメーもバンジもっ」
「見たんだなッ。どこ行ったか言えッ」
「ぶ、武器屋街とかなんとか言ってたな」
「そうかッ! どうもなッ!」
「グエッ」
もう用は無い、とばかりにムサシを上がり階段の方にぶん投げたザクロは、歯をむき出しにして猛獣の様な勢いですっ飛んでいった。
「マジで何なんだ……」
「後でお詫びに何か
「そ、そうか……」
横倒しになったまま、呆然と階段の出入口を見ていたムサシへ、遅れて降りてきた空母型中型ドローン越しに、ミヤコがザクロからの伝言を伝えた。
「クロー、詳細は省くけれど、カフェテリアにメア氏とヨハンナちゃんが連れ込まれたようだ」
「おうッ」
操縦ついでにカメラにハッキングを仕掛けて、合成をなんなく剥ぎ取った映像をみたミヤコの指示で、ザクロはカフェテリアへと突入した。
「いらっしゃいませ」
「――ッ!」
営業スマイルを張り付けて出迎えた管理者を見たザクロは、ズカズカと彼に向かって突き進み、カウンターを飛び越えてその胸元にかかるネックレスを引っ張り出した。
「な、なんでしょ――ブゲッ」
すでに鬼気迫る表情だったザクロは、その先に付いたバンジに贈ったドッグタグを見た瞬間、容赦なく管理者の顔面を殴りつける。
フラフラと後退する管理者は、後ろの作業台に身体を預けつつ崩れ落ちた。
管理者を
「えっ」
そのドローン群は一斉に兵士達へと群がって、視界と行動を制限する。
「この程度で制御を奪われるなら、人間の方がまだマシだね」
ほんの一瞬でドローンのデータを書き換えたミヤコが、いつもの朗らかさが全く無い、宇宙空間の様に冷え切った声色で言い放った。
「……テメェら、死ぬ覚悟はもうしたな?」
管理者からドッグタグを奪い返したザクロは、腕を振り回している6人へ、怒りに震えた赤鬼と化してそう言うと、無駄のない動きで銃を抜き、全員の
「うう……」
「おいコラテメェ、デカイ女とガキの行き先を教えろ」
「さ、さてね。し、知っていても言うわけが無いがっ。はっははっ」
最初の一撃で大分ダメージが入った様子だったが、つるし上げてくるザクロへ、強がって嘲笑混じりに管理者が言う。
「――全部まるっと話すのでもうやめてください……」
だが、それで更にザクロの怒りへガソリンを差した管理者は、顔の原型が分からない程にド突き回されて観念した。
カフェのバックヤードへ続くドアの先で、港湾区画まで直に降りられる事を聞いて、管理者を投げ捨ててすぐにそのドアノブを掴んだ。
「……。クソ――ッ」
だがすぐに離し、頭をかきむしったザクロは、ジャケットのポケットからバンジのドッグタグをとりだして見つめ、それを強く握りしめつつドアに蹴りを入れるに留まった。
「……艦長、オレだ。スマン、色々とやらかしちまった」
何度か長々と深呼吸したザクロは、落ち着き払った声を作ってドゥーイに洗いざらい全てを白状した。
直後、ミヤコが呼んでいた警備局員がカフェの中へ突入してきた。
*
ヨハンナとバンジが連行された輸送船は、倉庫に2人を監禁した状態ですでに宇宙空間に出ていた。
「ぐ……」
「メア姉……ッ」
バンジはヨハンナとは別の部屋に一旦連れて行かれ、インナー以外を剥ぎ取られた後に、痛めつけられてからヨハンナと一緒にされていた。
ヨハンナは手首だけに拘束ベルトがされ、床にエアマットが敷かれているなど、乱暴にされているバンジと違ってある程度は丁重に扱われている。
「全く、なんてザマだ……」
吐しゃ物などが混じったものが口の端についているバンジは、青ざめた顔をしているヨハンナへ向け、無理に猫の様な大きな目を自嘲混じりに細めて見せる。
「これから、どうなるんだろ……」
「少なくとも、ヨハンナは無事だろうよ。アタシは……、まあ、しばらく殺されはしねえだろ」
しかし、ヨハンナの表情は怯えているままで、恐怖を和らげようという試みは失敗に終わった。
「まあ、こう……、なっちまったら……、もうザクロとかがなんとかしてくれると信じて、大人しく――あいたっ」
後ろ手に加え足首も拘束されているため、苦労して半身を起こしたバンジだが、体力の消耗が激しいせいで後ろに倒れてしまった。
「ちくしょう。冷てえし硬えしざらついてるし、たまったもんじゃねえな……」
「ならこっちで寝てて。まだマシだと思うから……」
横向きになったバンジの腕に新しい擦り傷が増えたのを見て、ヨハンナはシングルサイズのそれの上半分に寄りつつ目線で示す。
「気使うな、って言いてえところだが……、助かる」
肌が床に擦れる痛みに顔をしかめつつ、バンジは蛇のように移動してマットの上に転がった。
「――メア姉ごめんなさい……。私がワガママ言ったせいでこんな酷い目に……」
「ヨハンナが気にする事じゃねえよ。悪いのはお前を誘拐した連中の親玉だろ?」
「うん……」
「それに起きちまった事は仕方ねえだろ。自分でどうにもならねえなら、もう待つしかねーよ。幸い、お前の父ちゃんとアタシの親友は有能だしな」
クロ姉はともかくパパも……? と、首を傾げてヨハンナは訊いたが、メアは気絶する様に眠りに落ちていて、寝息しか返ってこなかった。
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