コマンド・ザ・プレジデント 3
「おいザクロッ! ヨハンナ知らねえかッ!?」
微妙な空気になったところに、バンジが珍しく焦った様子で艦橋へ上がってきて、甲板まで見回しながらザクロへ訊く。
「便所じゃねぇの?」
「くまなく確認したし、だいたいアタシが入ってたっつのッ」
「うん、ちょうど5分前に出かけてるね。もしかして、クローが面倒くさがっている
すかさずミヤコは駐艦場の人用出入り口に向けられた、防犯カメラ映像をホロモニターに投影して見せた。
「オイオイ、オレが悪いってか?」
「お前が口で面倒くさがってても、ほぼやる気だってのまでは知らねえだろうしな」
「……しゃーねぇ、手分けして探すぞ。メアはオレについてこい」
「おう」
「ミヤはドローンで探してくれ」
「了解さ。ああ、ヨハンナは98ブロックのエレベーターに向かったようだ」
「おうサンキュ。くれぐれもハッキングやったの見付からずに撤収しろよ」
「うん」
「ヨルは行き違いになったらいけねぇから、
「あっ、はいっ」
ザクロは素早く声と手振りで3人へ指示を出し、バンジを引き連れて大急ぎで外へと飛び出していった。
「ザクロお前もさあ、
「無理言うなよ。まさか聞いてるとか思わなかったんだっつの」
駆け足で通路へと出て右へと曲がり、エレベーターホールのある方へ走りつつ、バンジは冷や汗をかいているザクロへいつもより語気を強めて言う。
「だっつのじゃねえ! ややこしい態度とるのはお前の悪い癖だぞ!」
「なんだよ。それ今言うことじゃねぇだろ!」
「ああッ? アタシは今日の事について言ってんだけどな! 被害妄想か?」
「いーや、含みがあったね」
「お前が悪意があると思ってっからそう聞こえんだよバーカ!」
「ああ?」
粗野な物言いをされたザクロは目をつり上げて怒鳴り、売り言葉に買い言葉、とバンジが言い返してしまったため、2人は走りながら
「ちっ、エレベーターもう1階層についてやがる」
言い合いつつホールに到着したが、ドアの上にある表示パネルは1階層を示していた。
「あーあ、お前がもうちょい早く言えば良かったのになーッ」
「うるせえ! イヤミかテメエ!」
「何しやがんだコノヤロー!」
バンジが悔しそうに漏らした言葉に対し、ザクロがバカにしたニヤケ顔で突いたせいで、バンジはつい平手打ちが出てしまい、ザクロもやり返したためつかみ合いになった。
「後でじっくり話し合ったらどうだい?」
そうしていると中型ドローンが追いついてきて、不毛な争いをしている2人へ、スピーカーの向こうからミヤコがとりあえず仲裁に入った。
「そうだな! ザクロはちゃんと謝り文句考えとけよ!」
「そりゃあこっちの台詞だ!」
「フンッ!」
「ケッ!」
お互いに距離をとった2人は、険悪ムードのままもう1機のエレベーターで上に行き、ザクロは『西』、バンジは『中央』、ミヤコのドローンは『東』へ向かった。
ちなみに『北』にはヨハンナの自宅があり、『南』は人が行く所では無いだろう、と、ザクロとバンジがミヤコ越しに話し合って捜索対象からは外している。
「仲直りは早めにしておいた方が良い、とボクは思うんだけれど」
「そりゃあ、アイツが謝ってくるならやぶさかじゃねぇよ」
「それ多分、メア氏も同じ事思ってるんじゃあないかな」
不機嫌そうに口をへの字に曲げているザクロは、素っ気なくドローンの向こうのミヤコへ言いながら、無駄にドカドカとした足取りでまずは公設のカフェテリアへと向かった。
中にいた知り合いへ、迷子になっているという事にして、ヨハンナの目撃情報を聞いて回るが、同じ場所で歩いているのを見た以外のものを得られなかった。
その一方。
バンジは『中央』に到着するとすぐにそこに在住する情報屋達に頼んで、防犯カメラ映像からヨハンナを探させていて、商店街に来ている事を突き止めていた。
「げっ、『アングラ街』じゃねえか……」
だが、普通は住人が買い物には訪れない、武器やグレーな商店が集まる5階層の通称・『アングラ街』へと入っていくヨハンナの姿が、3分前の画像に映っていた。
『アングラ街』は、基本的に治安が良い『NP-47』の中では唯一悪いエリアで、マフィアの隠れ家や風俗店などもあるため、子どもは立ち入るのが憚られる場所になっている。
バンジはエレベーターを待つ時間を惜しみ、非常階段を全速力で駆け下りて向かった。
「おうバンジ、どうした血相変えて」
ちょうど到着したところで、更に下へと降りる階段の1段目に座っていたムサシと鉢合わせた。
彼は毎日トレーニングで階段を10階層分10往復していて、その途中で休憩しているところだった。
「へー、ヨハンナちゃんが。そういえば武器屋街の案内見てんのを見かけたな」
バンジも迷子になっている、という理由を付けて目撃したか訊くと、ムサシは階段の出入口から見えるエレベーターホールの案内板を指さしながらそう答えた。
「おう、サンキュー。助かった」
「そうかい。つかお前、エセ侍語じゃねえけど、なんかヤバい案件抱えてねえだろうな?」
「そういう気分なんだよ。ほっとけ」
「クローと喧嘩したんなら早めに仲直りしとけよ。大事な親友以上恋人未満なんだろ?」
「普通に親友だっての。――アイツが謝ってきたら考えてやってもいいがな」
「おいおい、長引かせてくれるなよ? クローも多分同じ事思ってっぞ」
「うっせ。達者でな」
フン、と鼻を鳴らして答えたバンジは、
「おいヨハンナ! 何しにこんな危ねえとこ来てんだ!」
「あ、メア姉……」
さらに奥まった路地へ行こうとしていたヨハンナを発見し、バンジはその手を掴んでから怒鳴るように叱った。
「そういう時期はあるにしてもだ、こんなところにまで来たらダメだろ」
ギュッと目を閉じて怯える彼女を見て、バンジは少し柔らかめの声色で諭した。
「ご、ごめんなさい……。クロ姉が迷惑そうに――」
「とりあえずここは危ねえから、カフェで休憩がてら聞かせろ」
神妙な面持ちで謝罪するヨハンナの言葉を遮り、バンジはニヤニヤして様子を覗っている、ガラの悪い男達3人を睨み付けながら手を引き、近くの公設カフェテリアへヨハンナを連れて行った。
「――こちら12号。〝蜘蛛の巣〟へ〝蝶〟が向かう模様。〝蜂〟に気をつけろ」
ヨハンナが入ろうとした路地の陰にいる、黒い覆面の男がその様子をどこかへ報告していた。
公設カフェテリアはどこもほぼ同じデザインになっているが、『アングラ街』のものは改装が施されていて、西部劇の酒場のような雰囲気になっていた。
「……」
「メア姉、入らないの?」
「やっぱり第1
急にドアの前で立ち止まり、バンジはその外見を見渡した後、サングラスの奥の目を険しくしつつ
「ど、どうしたの?」
「なんか嫌な予感がすんだよ」
「えっと、どうい――」
有無を言わさずヨハンナを小脇に抱え、バンジは武器街の出口へ走ったが、
「チッ……」
ドローンの群れがカフェテリアから飛び出して来て、蜂が群がるように囲われてしまった。
「やるしか――」
舌打ちをしたバンジは、ヨハンナを降ろして自分の足元に座らせ、ドローンの群れを
「アタシとしたことが……」
表情が凍り付いたバンジは、歯噛みしながらゆっくりと両手を挙げた。
普段ホルスターなどを付けたベルトを巻いているが、この時のバンジの腰には何も巻かれておらず、完全に丸腰の状態だった。
「大人しく、大統領の娘を連れてこちらへ来て貰おうか」
「誰が言うこと聞くかよ」
ドローンから変声機のくぐもった低い声がして、カフェテリアの方へだけ包囲が解かれた。
状況が飲み込めずに黙りこんで震えるヨハンナへ、スマン、と言ってから彼女を抱き上げた。
「プロなら下手に攻撃出来ねえよな?」
「時間稼ぎに付き合っている暇はない」
「――ッ!」
いかにも策があるという余裕のある笑みを漏らしたが、バンジのハッタリは通じず、ドローンの群れが一斉にはけると同時に、黒い兵士風の男達6人にヨハンナを剥ぎ取られた。
「うっぐ……」
バンジは応戦する間もなく、パワードスーツのパワーで地面に押さえつけられ、後ろ手にカギ付きの拘束ベルトで縛られた。
「おい、コイツ女だぞ」
「へへ、となればボディチェックだ」
「隠せるところが多いから念入りにな」
「……ッ」
バンジを立たせると、ゴーグルと覆面に隠れていても分かるニタニタとした顔で、兵士達は明らかに必要以上の人数が彼女の全身をまさぐって確認する。
「ん? なんだ、軍人でもないのにドッグタグなんかしやがって」
「! テメエ、それに触ってんじゃねえ!」
「うおッ、なんだ急にッ」
「麻酔刺せ麻酔!」
「放せェ!」
首にかけていたドッグタグを掴まれ、バンジは目の色を変えて暴れるが、首筋に無針注射器で麻酔を打ち込まれて大人しくされた。
「どうせオマエは畑の肥やしになるんだ、
「ち、くしょう……」
奪われていくドッグタグを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます