第31話 お祭りどころじゃなくなりました④

「ペチカを・・・・・・?」


「ああ、お前は、あの子を、ペチカちゃんを可愛がってただろう? 本当は助けたいんじゃないのか?」


 イヴァンの指摘にヨシュアは下唇を噛む。

 イヴァンの言うとおり、ペチカを心の底から助けたいと思っている。

 だが・・・・・・。


「それは出来ない」


「はあ!?」


「あの子はもうじき死ぬからだ」


 ヨシュアは反対したのだ、この作戦に。

 ペチカの膨大な魔力を使った作戦、ペチカの体に大きな負担が掛かる事にヨシュアは異を唱えた。


『あの人形ペチカは、あの膨大な魔力のせいで寿命は短くない。それなら、我が教団、いや教団を統べる聖女様の為に命を捧げる方があの人形のためだ』


 それを聞いたヨシュアはふざけるなと怒鳴りたかった。

 それとは反対にペチカはそれを引き受けたのだ。


『教団、聖女様のためにこの命を捧げます』


 そう言うペチカに何も言えず、そのまま作戦は決行される事になった。


「ペチカは無理矢理連れてこられた俺と違って、教団に拾われ育てられた。

 そんなペチカにとって教団は絶対だ。俺が説得したって無理だろう。

 だから、止められない」


「つまり、お前は余命僅かのペチカちゃんの意思を尊重したいって訳か?」


「・・・・・・・・・・・・」


 ヨシュアはイヴァンの問いに静かにコクリと頷くとイヴァンはヨシュアの胸ぐらを掴み、至近距離で睨付ける。


「お前、それが本当に心の底からあの子が望んでると思ってるのか!?」


「ペチカはそう言っている」


「彼奴らに一から育てられたって意味を解っているのか!? あの子は彼奴らが望めばそうするよう育てられただけだぞ!? それすら解らないのか!?」


「あの子は余命僅かだぞ!? 例え、助けたところであの子に救いは・・・・・・」


「つまり、お前はあの子が、ペチカちゃんが最期まで人を傷つける為に力を振るった方が救いになるって思っているのか?」


「そ、それは・・・・・・」


「本当にそう思っているのか? そう思っているのならお前は彼奴らと同じだ!!!!!!」


「!!!!!! 違う!! 俺は彼奴らと違う!!!!!!」


 イヴァンから放たれた言葉にヨシュアは反射的に言い返す。

 故郷を奪われ教団しか居る場所がない身だが、彼らと同じにはならないと誓っていた。

 ヨシュアにとって、教団は仇だ。

 目の前で両親を斬り殺され、妹とは離ればなれにされ、活動員として人間以下の扱いを受け続けた。

 そんな教団にヨシュアは忠誠もなにもない、だけど、ペチカは・・・・・・。

 そこまで考えて、ヨシュアは気付く。


 ペチカ本人から教団をどう思っているか聞いてない事に。


 それに気付いたヨシュアはだらりと腕を垂らし、己の愚かさを痛感した。

 結局、自分も教団を同じ事をペチカにしていたのだと。


「・・・・・・いや、お前の言うとおりかもしれない。俺はペチカの事を考えてなかった」


「・・・・・・・・・・・・」


「教団に育てられたペチカが教団に従うのは当然だと思っていた、考えてた」


「・・・・・・そうか。で、その事に気付いたお前はどうしたい?」


「助けたい、ペチカがそれを望んでいるか解らないが助けたい!!

 助けて、あの子が命尽きるまでペチカに普通の子として過ごさせたい!!!!!!」


「上出来!! オレはお前のその言葉を聞きたかった!!」


 ヨシュアの心の底からの声にイヴァンの口角は上がる。

 このまま、ペチカ救出の為に動こうとするヨシュアをイヴァンは止める、その事に不服そうな顔をするヨシュアにイヴァンは姐さんを呼ぶと言う。


「姐さん?」


「オレの仲間達だよ。助けるに行くにも二人だと心細いだろ?」


『・・・・・・もしもし』


「お~! 姐さん・・・・・・ 『イヴァン!!!!!! お前、何処に居るんだ!!!!!!』


 通信機から大音量で姐さんことカレンが怒鳴りつける。

 イヴァンは今までずっと通信機の電源を切っていたのだ。そのせいで連絡がつかなくなっていて、カレンは内心、凄く焦っていたのだ。

 当の本人から陽気な声で通信が来たものだから、カレンの怒りが爆発したという訳。


『お前だけ連絡がつかなくて、どれだけ心配したと!! もしかして、通信機の電源を切っていたのか!? 切るなとあれ程、言っているだろうが!!!!!!』


「あ、姐さん!! 説教は後で受けるから今はそれどころじゃないんだ!!」


『それどころじゃない?』


「ああ、教団に囚われてる子をこれから助けに行く。だから、力を貸して欲しい」


――――――


「これで大丈夫・・・・・・だよね?」


――大丈夫よ。


――ワタシ達の手伝いもあったけど上手く治癒の力を使えていたわ。


――今は寝てるだけだから安心して。


 アタシに力を貸してくれていた花の妖精達が良くやったと言わんばかりに心地の良い花の匂いを振りまく。

 ジェシカの傷は塞がり、今は穏やかにスースーと寝息を立てながら寝ていた。

 良かった、死ななくて。


「フロルちゃ~ん! ジェシカちゃ~ん!」


 聞き覚えのある声に振り向くとアウラさんが此方へと駆け寄ってきた。


「アウラさん!」


「二人とも、無事・・・・・・じゃなかったみたいね。ジェシカちゃんの様子は!?」


「アタシの治癒術で傷は塞がって、今は寝てます」


「そう、それは良かった。後でジェシカちゃんを安全な所へ運びましょう」


「はい。そういえば、他の人達、カレンさんは大丈夫ですか? 通信をもらった時、酷く慌てていて・・・・・・」


「カレンは大丈夫よ、今は持ち直して、この状況を何とかしようと動き回ってるわ。

 アッシュとデンは避難の誘導、お姉さんは避難場所で怪我の手当をしていたけど護衛騎士団の治癒部隊が代わってくれたからカレンに言われて貴女達の様子を見に来たの。

 イヴァンちゃんは・・・・・・、あら、カレンから連絡だわ」


 タイミング良くカレンさんから連絡が。

 何か情報でも入ったのかな?


「此方、アウラ。フロルちゃんとジェシカちゃんと合流したわ。だけど、ジェシカちゃん、詳しい事は後で話すけど今は寝てるわ」


『そうか、解った、ジェシカを安全な場所へ移動させた後、スラム街入り口にある建物まで来て欲しい』


「スラム街?」


『ああ、この騒ぎを起こした奴を叩きに行く』

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