第26話 お祭りが始まりました②

 ふんわり金髪に白い肌、赤い目の人形のような可愛らしい少女がアタシとジェシカを不思議そうに見ている。

 すっごい可愛い子だけど、いつの間にアタシ達の近くに?


「ごめんね、心配かけちゃったね」


「ううん、大丈夫だよ。ジェシカお姉ちゃん」


 ジェシカは少女の事を知っているようだ。よく見れば手を繋いでる、知り合いなのかな?


「ジェシカ、この子は?」


「こ、この子、迷子で、それで・・・・・・」


 しどろもどろにジェシカは経緯を話す。

 この子、ペチカちゃんは一緒に来たお兄さんとはぐれて迷子になった所をジェシカが保護し、ギルド本部にある迷子預かり所まで送り届けようとしていた所をアタシとぶつかったと。

 これはアタシが邪魔しちゃったかな? 


「そうなんだ、アタシ、邪魔しちゃったね。それじゃあ・・・・・・」


「お姉ちゃん、お姉ちゃんのお名前は?」


 立ち去ろうとしたらペチカちゃんがアタシのスカートの裾を持ってアタシの名前を聞いてきた。

 クリクリとした丸い目に見つめられる、これはヤバい、破壊力抜群だ。


「アタシ? アタシの名前はフロル、フロル・ホワイトだよ」


「フロルお姉ちゃんは何処に行くの?」


「これから屋台エリアに行くんだ、美味しいもの沢山食べにね!」


「美味しいもの沢山あるの!?」


 美味しいものと聞いた途端、目を輝かせる。お腹空いてるのかな?


「ねえ、フロルお姉ちゃん、ペチカも一緒に行っていい?」


 コテンと首を傾けてアタシに訊ねてくる、可愛すぎて良いよと言ってあげたいけど、ペチカちゃんの事を必死に探しているであろう人の事を考えると安易に言えない。


「ペチカちゃん、お兄さんが心配してると思うから先ずは私と一緒にギルド本部に行こう」


 アタシが困っているとジェシカが助け船を出してくれた。やっぱり、こういう所は変わらないな。

 いつもアタシが困っていると助けてくれたのはジェシカだった。村にいた頃、年が変わらない姉妹のようだとよく言われてたっけ。


「ヨシュアは迷子になっても強い人だから大丈夫」


 ジェシカとの思い出に浸かっているとペチカちゃんからズバッと一言が。

 ペチカちゃん、自分が迷子じゃなくてお兄さんが迷子になったと思ってるのね・・・・・・、ん? ヨシュアって確か食堂で働いてる人? 同じ名前かもしれない、けど料理長が年の離れた幼い妹が居るって言ってたよね、念の為、確認してみるか。


「ねえ、ペチカちゃん。ペチカちゃんのお兄さんって、食堂で働いてる?」


「うん、ヨシュア、ギルドっていう所の食堂で働いてるよ」


 ビンゴ!!!!!! ペチカちゃんがヨシュアさんの年の離れた妹さんだった!!

 こんな偶然ってあるのねと思っていたら、ペチカちゃんがスカートの裾を強く引っ張る。


「フロルお姉ちゃん、ヨシュアと知り合い?」


「知り合いというか一度、話をしただけというか」


「ヨシュアと知り合いなら大丈夫、きっとヨシュアも許してくれるから屋台に行こう! ジェシカお姉ちゃんも!」


「ちょっ、ペチカちゃん!?」


 ペチカちゃん、見かけによらず強引な子だな~、あと力が強い。

 こうして、アタシとジェシカはペチカちゃんと一緒に屋台エリアに向かうことになった。


「おっ! フロルとジェシカじゃないか。その子は?」


 屋台エリアのちょうど入り口辺りでイヴァンさんに出会った。

 王族周りの警備は護衛騎士団に任せているからイヴァンさんは喧嘩が起きやすい屋台周りの警備を任されたそうだ、前日、配置決めで揉め事が起きて、それらを全て沈静させたイヴァンさんなら適任と判断されたに違いない。


 アタシはイヴァンさんにペチカちゃんの事を話したら、苦笑いされた後、中間報告をしにギルドに戻るから、その時、ヨシュアさんを見かけたら声をかけておくと言ってくれた。


「良いんですか?」


「ああ、ヨシュアとは同郷みたいでな少し仲良くしてもらってるんだ。ヨシュアも妹さんを心配してるだろうし、それにあの様子じゃあ、屋台を一通り見るまでヨシュアの元に行かなそうだしな」


 チラッとペチカちゃんを見ると屋台に売っている林檎飴にペチカちゃんの目は釘付けになっていた。

 これは屋台を一通り見せないと帰らなそう、幼い頃のアタシみたいな子だな。あの頃、帰りたくないと駄々捏ねて、お兄ちゃん、お姉ちゃんだけじゃなくジェシカも困らせて暴れたっけ・・・・・・、いや、ペチカちゃんより酷いなアタシ。


「フロルお姉ちゃん! お話終わった? 早く行こう!!」


「うん、行こうか。じゃあ、イヴァンさん、もし見かけたらお願いします」


「おう! 今、人が中央に集まってるから今が屋台を回るには良いぞ、楽しんでこいよ」


 ペチカちゃんは嬉しそうにアタシとジェシカの手を繋ぐと躍り出るように気になっていた林檎飴の屋台に向かった。


――――――


「今、王族の奴等が挨拶の為に中央広場まで移動しているようだ」


「移動している所を狙うか?」


「いや、作戦通り挨拶が終わったらでいいだろ。遅かれ早かれ、あの醜い汚れた王族を殺すのだから問題ない」


「そうだが、やはり早く彼奴らを殺したい!!」


「落ち着け。それにこれは俺達の街を冒険者の街にしたギルドへの復讐も兼ねているんだ。

 彼奴ら、冒険者共に一泡吹かせるにも時を待て、彼奴らの前で王族を殺してこそ、復讐は完遂する!!」


 スラム街の中で最も薄暗い場所で男達が話しているのをカレンはただじっと見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る