お祭り騒動編

第23話 お祭りの準備をしてました

 アレックスの騒動から二ヶ月丁度経った。

 今、アタシ達、ギルドはというと・・・・・・。


「武道大会の参加者のリストは何処!?」


「確か、此処に!!」


「屋台の配置決めで喧嘩おっぱじめやがった!! 誰か来てくれ!!」


「解った直ぐ行く!!」


「祭りの櫓の組み立てがまだ終わらねえ!! 手伝ってくれ!!」


「手伝います!!」


 今はこんな感じです。

 明日、始まる祭りの為に右へ左で東へ西へ、皆、彼方此方に走ってます。


 ちょっとずつ準備は進めていたけど開催日が近くなれば成る程、忙しくなっていき、今に至る。

 そして、アタシは祭りの最中にギルド本部の食堂で販売するアップルパイに使う林檎の皮剥きをしている、剥いても剥いても終わらない地獄を味わってる最中だ。

 治安維持部隊のアタシが林檎の皮剥きをしてるのかって? 人手不足だからだよ!

 料理長含め三人でやってるけど、アップルパイの他にもミートパイとか売るそうだ、食堂の祭り限定のアップルパイとミートパイは美味いと評判で直ぐに売り切りになってしまうから大量に作らなければならない。

 その為、アタシが駆り出された。肉体的にも精神的にも追い詰められながらも林檎の皮を剥いていく、心を無にしてやろうとしても、まだ終わらないのかと考えるから無理、でもやらないと終わらない。


「嬢ちゃん、疲れただろう。お昼になるし、一時間ぐらい休憩してきな。ほれ、肉しか入ってねえ賄いサンドイッチだ、良かったら食べてくれ」


「サンドイッチありがとうございます! それじゃあ、お言葉に甘えて一時間、休憩しますね」


「おうよ、手伝ってくれてありがとうな」


 食堂を管理している大柄の料理長に賄いの肉しか入ってないサンドイッチを貰って、アタシはフラフラとした足取りで治安維持部隊の拠点を目指す。

 厨房から出ようとした瞬間、思いっきり誰かとぶつかってしまう。いけない、前を見てなかった。


「ご、ごめんなさい!!」


「いや、此方こそ、すまない。大丈夫だったか?」


 慌ててぶつかった人、黒髪に紫水晶を思わせるような目をした顔が非常に整った青年に謝ると彼はアタシの目線に合わせて謝ってくる。

 ちょっと待て、近い!! 顔が近い!! あと睫毛が長い!!


「ヨシュア、戻ってきたのか」


「親父さん、足りない食材を仕入れてきた」


 ヨシュアと呼ばれた青年は料理長に食材が大量に入った袋を渡すと、またアタシに謝罪をして厨房へと入っていった。

 前を見てなかったアタシが悪いのにそんなに謝らなくても・・・・・・。それはそうと。


「あの人、見かけたことがないですね。いつ頃、此処に?」


「ん? 彼奴、ヨシュアは一週間前にフラリと来て此処で働きたいとやってきたんだ。両親が食堂をやってたから料理の腕には自信があると言ってね。丁度、弟子の一人が親の後を継ぐと辞めていったから雇ったんだ」


「そうなんですか。そういえば、女性冒険者さん達が食堂を最近、よく利用してるのは・・・・・・」


「ああ、彼奴、目当てだよ。料理の腕も良くてな、最初は気に入らないと言っていた男達も黙らせるほどだ。おかげさまで繁盛してるよ」


 そう言って豪快に笑う料理長。

 最近、食堂によく女性冒険者達が来ているとセリエさんから聞いたが理由が解った

。あんな美形が居たら通い詰めたくなるよ。

 もし、アタシも耳に挟んでたら一目見るために来てたかも。と言っても、その時は非常に混乱というか忙しさに拍車が掛かってしまう出来事があったから無理だろうな。


――一週間前。


「お前等、やべえ事になった。祭りに王都から第一王位継承者であるレオンハルト様とその婚約者であるジョセフィーヌ様が来られるそうだ」


 突然、拠点に集まるよう言われたその日、カレンさんから爆弾が落とされた。

 何故に王太子とその婚約者がギルドの祭りに??


「おいおい、それは穏やかじゃないのう。この街には王族に対して余り良い感情を抱いてない者が多いんだぞ?」


 デンさんが言うとおり、この街には王族を快く思わない人達が居る。

 この街は王都から追われた人達が集まって作られた、もう千年以上も前のことだ。

 今はギルド、冒険者の街と認識され、住んでいる人は冒険者か冒険者狙いで商売する人達で全てが王族を嫌っている訳じゃ無いけど、昔から住んでいる人達には千年経とうが王族が代替わりしてようが嫌いなものは嫌いなのだ。


「ああ、マスターもそれを危惧している。それに来訪するのは第一王位継承者だ、ガチで命を狙う奴が現れるってな。それで、彼方さんの護衛騎士団から提案を受けて協力という形で見廻りする事になった」


「はあ!? 姐さん、それはマジですか!?」


「マジだ」


 驚愕の声を上げるイヴァンさんにカレンさんは冷静に言葉を返す。

 護衛騎士団と協力、頼もしいと思うけど王族の護衛が仕事だから色々と合わせないと大変そう。


「てなわけで、明日、私はマスターと一緒に王都に行って見廻りの話し合いをしてくる。その間、アッシュとアウラを中心に祭りの準備を進めておいてくれ」


「「「「「了解しました」」」」」


 とまあ、こんな訳でカレンさんがやっていた仕事を分担しながら祭りの準備を進めていた。

 どうして、王太子とその婚約者がギルドの祭りの来訪するのか、カレンさんに聞いてみたら。


「リカルドの件、覚えてるか? 自分の婚約者を陥れようとしたご令嬢を助けようとした奴を懲らしめてくれた御礼を言いに来たいんだと」


 そう教えてくれた。

 マジかよ、王子様。

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