第22話 ある男の末路
――くそ、くそ、くそ!! どうして、こんな事になったんだよ!!
西の大陸・北部地域の強制労働所、鉱山に向かう囚人用の馬車に揺られ、手枷、足枷を嵌められた状態のアレックスは、今の自分の状況を不満に思っていた、この男、あれだけの事をしておいて反省なんてこれぽっちもしていない。
これから鉱山で違反金を含め金を働いて返さなければならないという状況に更に苛立ちを募らるが今の状態でも逃げられる算段を考える。
――そうだ。暴れて数人で取り押さえようとした所を!!
「やれやれ、あれだけの事をしておいて反省してないとは呆れた奴だな」
声がした方、自分が座っている反対側を見るといつの間にか仮面を付け黒いマントを羽織った男が座っている。
アレックスは男に見覚えがあった。
「お前は俺にスキルを、守護の力を与えた・・・・・・」
「ああ、そうだ、覚えていたようだな」
アレックスが中央地域のギルドに入る前は南部地域のギルドで活動を行っていたが性格が災いし、どのパーティーでも問題を起こし追い出されるのを何回も繰り返し、最終的には南部地域のギルドから追放を言い渡され中央地域にやってきた経緯がある。
南部から中央に行く途中にアレックスはこの仮面の男と出会い、スキル・守護の力を与えられた。
「お前、いつの間に、いや、今はそんな事はどうでもいい。また便利なスキルを持ってきたんだろう! それを俺に寄越せ!」
「生憎、今は便利なスキルを持っていない。それに、俺が此処に居るのはお前を助けるためじゃない。スキルを回収しに来た」
「はっ?」
アレックスは耳を疑った、自分を助けるために来たわけじゃない、スキルを回収師に来たと言った事に。
「お前はやりすぎた。俺は言った筈だ、強力な分、使い方を間違えると破滅すると。そう忠告したにも関わらず、お前は守護の力を多用し好き勝手振る舞い、最終的には1つのパーティーを崩壊に導いた。よって、お前に守護の力は不要と判断し回収しに来たのさ」
動揺するアレックスに構うことなく仮面の男はアレックスを糾弾する。
男はアレックスの性格上、こうなることは解っていた、解ってはいたがスキルを与えた、命令されたからだ、ワザと問題を起こさせる為に。
だが、それは失敗に終わった。一般人を巻き込むまでは良かったがギルド治安維持部隊に介入されアレックスが逮捕されたのを失敗と判断しスキルを回収しに来たという訳だ。
「お前、本気でそれを言ってるのか・・・・・・?」
「ああ、本当の事だろ?」
「ふっざけるな!! あれは俺が加入した時点で俺のパーティーだ! 使えない奴を追い出して飽きた女を用無しと言って何が悪い!?」
「お前の中ではそれが常識でも、他はそれを常識とは呼ばない。さて、無駄に長い話は此処でお終いにして、ペチカ、出番だ」
男の前に幼い、7、8歳ぐらいの男と同じ黒いマントを羽織った少女が現れると少女は呪文を唱え始める。
すると、アレックスから白いモヤのようなものが放出し、アレックスは力が段々と抜ける感覚を感じると次第に立っていられなくなり、その場で倒れ込んだ。
アレックスが倒れ込むと同時に少女の手には虹色に輝く結晶、スキルの結晶が出現する。
「任務完了」
「ペチカ、良くやった。そろそろ、目的地に着く頃だ、帰ろう」
(こくん)
仮面の男は少女と共に消えると馬車は動きを止め、扉が開く。
「おい。着いたぞ、降りて、ん? なんだ寝てるのか。これから鉱山で働くってのによ、肝が据わってる奴だ。とっとと起きろ!!」
「ぐっ!!」
大柄の男に蹴りを入れられたアレックスはのそのそと起き上がると大柄の男に無理矢理、外へ連れ出された。
それからアレックスは今までの振る舞いが嘘だったかのように働き、模範労働者として称えられたという。
その事を聞いたフロルとジェシカはアレックスの偽物じゃないの? と聞き返したとか。
――――――
スキルをアレックスから回収した仮面の男と少女は通信水晶の前で跪き、結晶となったスキルを差し出す。
「回収しました」
『無事に回収できたようだな。さて、次はダンジョンで使用した転移魔術式を覚えているか?』
「ええ、覚えていますよ。それが?」
『実はな、二ヶ月後に中央地域のギルド本部で祭りが開かれる』
男はその言葉にピクリと眉を上げる。
次は何をしようとしているか解ってしまったからだ。
「もしや、今度は祭りの最中を・・・・・・?」
『察しがいいな、そうだ』
「そ、それでは、冒険者だけでなく一般人も・・・・・・」
『我らの聖域であるダンジョンを利用する者は全て敵だ、冒険者も一般人も関係ない。まあ、詳しい事は開始日になったら話す。今は備えて休め』
「・・・・・・解りました」
ブツリと通信水晶が切れると男は空を見上げるように顔を上げ、そして。
「何が我らの聖域だよ」
そう呟いた。
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