第21話 チーレムは崩壊しました
「早く剣を取ってくれ、決闘が始まらないじゃないか」
いつまで経っても木剣を取らないアレックスにカレンは挑発を続けながらも冷静にアレックスを観察する。
――やっぱり、守護の力は殺意がない人間と一対一で戦う時は発動出来ないようだな。
カレンはアレックスの様子から守護の力の発動条件を推測する。
アレックスに対して冒険者として怒りはあれど、殺すつもりはカレンには毛頭無い、殺してしまったら、どんな相手であろうとギルドが非難の的になってしまうというのもあるが。
アレックスが剣を取らないまま、ただただ時間が過ぎていく。
協力してくれている周りの冒険者達がアレックスに向ける怒気が高くなっているのを感じ取ったカレンは構えを解き、アレックスにツカツカと大歩きで近づいた。
「お前のスキルはどんなモンスターでも弱体化し巧妙に仕掛けられた罠は無効化、数人に取り押さえられそうになったら、取り押さえようとした奴等が気絶、凄いスキルだと聞いたんだが、それがあるのに関わらずどうして戦わない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
カレンの問いにアレックスは塞ぎ込んだまま。
このままだと、また無駄に時間が過ぎていくと判断したカレンは周りに潜んでいるイヴァン達に目線で此方の近くに来るよう伝えるとカレンはアレックスに更に近づいた。
「アレックス・フォーレン、ギルド本部に・・・・・・ 「なによ、あれだけアタイ達に偉ぶってた癖にギルドに決闘を申し込まれたからって急に弱気になって使えな~い」
今までずっと黙って事の成り行きを見てアレックスの連れの一人であるリコがアレックスをなじる、それを隣のミーシェが止めようとするがリコは続ける。
「だいだいアンタも守護の力がなけりゃ、全然ダメダメじゃん。本当に使えな~い!!」
「リコ! ダメだよ! この後、何されるか解らないよ!」
「弱虫ミーシェは黙ってな!
いつもいつも偉ぶって、アンタ何様? アタイ達がちょっと煽てれば調子に乗ってデレデレしちゃってさチョロいって思ったよね。今まで黙ってたけど、他の二人は知らないけど、アタイはアンタ自身じゃなくて、アンタの持つスキルに……」
リコは最後まで言い終わらないうちにアレックスに殴られた、その顔は酷く腫れ上がり鼻血を流し、口からも血が流れる、どれほどの威力で殴られたか一目で解るほど顔の形状は変わっていた。
殴られたリコを見てミーシェは腰を抜かしガクガクと震え、恐怖の余り失禁してしまう。
「俺に頼ってばっかのクソ女が!!!!!! 調子に乗るんじゃねえ!!!!!!」
ジャックの時と同じように殴られ気絶しているリコにアレックスは容赦なく蹴りを入れる。その光景にジェシカはショックの余り立ち眩みしそうになるが傍に居たジャックが優しく受け止めた。
流石にヤバいと判断したカレンは背後からアレックスの背中に拳を思いっきり打ち込むとアレックスはバタリとその場で崩れ落ちる。
こうしてアレックスの逮捕劇は終わりを迎えた。
――――――
アレックスが捕まってから数日が経った。
アタシはアレックスに関する事は一切触れさせてもらえず事務処理を任せられていた。
あのアレックスの事だから、アタシが仕組んだと言って変に騒ぐだけだと判断したのだと思うけど少し過保護すぎないかと思ってしまう。けど、アレックスを前にして正常を保てるかと言われたら無理だとハッキリ言えるから仕方ないか。
今日、アレックス達があの後どうなったか教えて貰った。
先ず、アレックスは北部地域にある強制労働所、鉱山に送り込まれる事が決まった、期間は違反金を始めジャックさんとリコの治療費、各メンバーの賠償金の支払いが終わるまで、結構な額らしいから20年以上働く事になるらしい。
アレックスに殴られたリコは治癒院に入院している、治療が終わったら、その後はどうするか解らないがお見舞いにやってきたリコの両親が村に連れて帰ると言っていたそうだ。
ミーシェはアレックスへの恐怖からか完全に心をへし折ってしまったらしく、迎えに来た両親と共に村に帰っていった、暫くしてお姉ちゃんからミーシェは両親と共に村を出て行った事を聞くことになる。
ジェシカは・・・・・・。
「ハァッ!!」
「甘い!! 蹴りを入れるならこう!!」
「グッ!!」
ジェシカの蹴りをカレンさんが軽く受け止め、その返しと言わんばかりにカレンさんはジェシカに蹴りを入れる。
別に戦ってるわけじゃない、ジェシカはカレンさんに師事を受けているのだ。
「私は、ジェシカを弟子として自分の元に置きたいと考えている」
所載を聞く前日、カレンさんからそう言われた。
アタシはそれにジェシカが了承したのなら良いと答えた。
「私の元に置くって事は一緒に行動する場合もある、それでも良いのか?」
「はい。アタシが追い出されたのはアレックスと役割が被ってしまった事が原因ですからね、それに冷遇される原因を作ったのはアタシがアレックスに対して快く思ってない事が伝わっていたのもありますし、例え冷遇されていなくても自分から出て行ってたかもしれないです。
それに偽善と言われるかもしれないですけど、ジェシカには立ち直って欲しいと思ってるんです」
この件はリーダーだったジェシカが一番ショックを受けていると思っている。
ジェシカの家は村の中心として働いている一族でジェシカは一族の恥にならないようにと厳しく育てられてきた、そのせいかアタシ達の中で一番大人びていて責任感も強かった。今回の事件は全て自分の責任だと思い込んでいるに違いない。
きっと、放っていたら自ら命を絶つかもしれないと思った。
「さて、今日はここまで!! 明日はスタミナをつけるために走り込みをするからな」
「わ、解りました。今日も鍛錬ありがとうございます」
「カレンさん、ジェシカ! お茶を持ってきました」
アタシは二人に冷たいお茶を持っていくとカレンさんは笑い、ジェシカは戸惑いの表情を浮かべる。
「フロル、気が利くな! お茶、ありがたく頂こう。ほら、ジェシカも貰いな」
「・・・・・・はい。ありがとう」
「うん、どういたしまして」
まだアタシとジェシカの距離はぎこちない。お互いにどうしていいか解らないから普通に接する事にしている、変にツンケンするのもね。
昔みたいにとは思わない、一度、壊れた関係は元に戻らないから、また新しく作るのも良いかもしれない、アタシはそう思っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます