第20話 崩壊まであと・・・・・・②

――昨晩。


 会議室でアレックスを逮捕するにあたって作戦会議が開かれた。


「守護の力は罠もモンスターも無力化させてしまうのね」


「はい、アレックスが罠に近寄っただけで罠解除、モンスターも近づくだけで弱体化させてました」


「なにそれ、詰んでるじゃん」


 アレックスが持つチートスキル・守護の力を唯一、直で見ているアタシからの話にイヴァンさんは頭を抱えた。

 会議が開かれた理由、守護の力にどう対応するかが一番の問題として上がったからだ。

 近づいただけでモンスターを弱体化させ、罠を解除し、あの時、ジャックさんを殴った時は取り押さえようとした人達は倒れた。

 近づくだけで無条件で発動するチートスキルにどう立ち向かえばいいか、頭を悩ませる。


「本当に無条件で発動するものかにゃ?」


 いつ入ってきたのか頭を悩ませているアタシ達に声をかけてきたのはレナードさんだった。

 いきなりの登場に驚いていると耳をペタンとして謝ってきた、可愛い。


「驚かせてすまにゃい。ノックしても反応しなかったもんで」


「気付かなくてすみません!」


「気にしなくっていいにゃ。マスターからアレックス・フォーレンに関する資料を預かってきたにゃ」


 レナードさんはカレンさんに資料を渡すとアタシの横に座る、どうやら、レナードさんもこの会議に参加するようだ。

 そういえば、気になる事を言っていたし、何か言いたい事でもあるのかな?


「みゃ~はアレックスとかいう奴のスキル・守護の力が無条件で発動するか疑問に思ってるにゃ」


「でも、直に見たフロルから聞く限りは無条件で発動してるみたいだけど」


「いや、よ~く考えてみるにゃ。フロル、スキルマニアじゃなくて、スキルを豊富に覚えてるお前さんなら解りきってると思うが、スキルの中には条件を揃わないと発動しないスキルがあるのを」


「なんか聞き捨てならない発言をされたような気がしますが、レナードさんの言うとおり、スキルには条件が揃わないと発動しないスキルがあります」


 アタシが言ったとおり、スキルには発動条件が存在するスキルがある。どれも強力なスキルばかり。

 例えば、白魔術スキルの中に超回復ウルトラヒールという回復技がある、本来の回復とは違い、怪我だけでなく病気すら治す強烈な白魔術スキル、だけど、発動するには全ての上級回復スキルを覚えていなければならない、覚えてなければ取得すら出来ないスキルでもある。

 全ての強力なスキルは強力であるが故に発動条件がある、理由は不明、スキルはアタシ達にとって当たり前のものであるが謎は多く、国がスキルの研究所を作るぐらいにはスキル研究は盛んだ。

 嗚呼、スキル研究所に行ってみたいな。きっと、アタシの知らないスキルがたくさんありそう・・・・・・・・・・・・、冷静になってフロル! また自分の世界に入りかけたわよ! でもレナードさんが疑問に思うのは納得した。


「強力なスキルには必ず発動条件がある、それなら、強力なスキルである守護の力にもあるはず」


「それなら、守護の力の発動条件が解れば対応出来るという事じゃな」


 デンさんの言葉にアタシは頷く。

 なんだ、簡単な事だったんじゃないか! 灯台もと暗しとはこの事! これならきっとアレックスを捕まえられる!


「じゃあ、発動条件を探ろうか。フロルちゃん、アレックスは近づく前に何かしていたかい?」


「いや、普通に近づいてましたね」


「え?」


「・・・・・・普通に近づいてました」


 アッシュさんの質問にアタシはそう答えることしか出来ない。だって、本当に普通に近づくだけだったから。

 ようやく突破口を見つけたと思ったのにダメじゃん!! また振り出しじゃん!!

 喜びから一転、振り出しに戻った事で重い空気に。本当にどうすればいいの? あのままにしていたら、ジャックさんみたいに戦う術を持たない人だけじゃない、彼奴が関わる人全てが犠牲になる!!

 考えなきゃ・・・・・・。


「あの日、アレックス・フォーレンがどうして機嫌が悪かったか話してなかったな」


 重苦しい空気の中、カレンさんがあの日のアレックスについて話をしだした。今になって、どうして。


「ジェシカ・スミスから聞いた話になるが、その日は依頼で、今の時期にしか咲かない東の渓谷の薬草を採りにいっていたそうだ」


 淡々とカレンさんは困惑するアタシを無視して話し続ける。

 東の渓谷に行き、無事に薬草がある場所へ辿り着いたら、後から別のパーティーがやってきた。彼らも同じ薬草を求めてやってきたのだ。

 アレックスはそんな彼らに向かって、これが俺が先に見つけた薬草だから金を払えと言ったという、呆れた、ジェシカが言うには薬草は辺り一面に生い茂っていたそうだ、アレックスの事だから欲でも出したのだろう。

 だが、そのパーティーのリーダーは冷静にこう返した。


――お金を払うかどうかは決闘で決めましょう。私が負けたら払います。


 そう言って一対一の決闘をアレックスに申し込んだ。


「アレックスはその決闘を受けたんですか?」


「いや、拒否したそうだ」


「拒否!?」


「ジェシカ・スミスが言うには面倒だと言って断ったらしい」


 アタシが言うのもあれだけど守護の力で相手を弱体化すれば良かったんじゃ、それとも・・・・・・。


「もしかしたら、面倒ではなく守護の力を使えないから拒否したかもしれないにゃ~」


「テリトリーに入った存在は全て敵と見なすモンスターと害しかない罠は無条件で発動できる、けど人間に対しては条件付きって事で良いんですかね?」


 アタシの疑問にレナードさんはそう考えてもいいかもしれないにゃと答える。

 もし、これが当たっていれば守護の力を無効化しアレックスを捕まえられるかもしれない。


「なら、私がアレックス・フォーレンに決闘を挑む。

 その為にも、ジェシカ・スミスだけでなく他の冒険者にも協力を頼むか、イヴァン、協力してくれる冒険者に声をかけろ、アッシュはアレックス・フォーレンの監視を、デンは周りが巻き込まれないように見張っていてくれ。

 あとは・・・・・・、あの馬鹿な冒険者の顔に拳をぶち込むだけだ」


 フフフフと黒い笑みを浮かべるカレンさんで会議は終わり、そして・・・・・・。


「おいおい、どうした? 早く剣を取れ、そして、私と戦え」


「う、うう・・・・・・」


 今に至る。

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