第18話 取調べを受けているジェシカは後悔していました

 フロルが姉のマチルダから話を聞いている間、ジェシカはカレンからジャックの暴行の件で取調べを受けていた。


「つまり、貴女が駆けつけた時には既に暴力を振るっていたという訳か・・・・・・」


「はい、アレックスは罰を与えてると言ってました。けど、きっと、アレックスが一方的にやったのだと思います。

 最近、いいえ、いつもそうなんです。怒るとすぐに手を出すんです、あの男は」


 淡々とアレックスが悪いと言うジェシカにカレンは違和感を覚える。

 ジェシカはアレックスに惚れ、アレックスがやる事には文句も言わず賛同し褒めちぎり、使い物にならないからとアレックスに同意しフロルを追い出したと聞く。

 それなのに、今はアレックスを非難している。

 フロルを追い出した後、何かがあったのだろうとカレンは推測した。


「・・・・・・貴女は、あの男、アレックスと恋仲だと聞いたけど何かあったのか?」


 カレンの問いにジェシカはビクリと体を震わす、その様子から、カレンの推測が当たったのだと解る。

 ジェシカは俯き、何も言わない。

 カレンはジェシカが口を開くまで待つ事にした。こういうときは本人の心の整理がつくまで待った方が良いと考えているからだ。

 コチコチと時間だけが過ぎていく。


「フロルを追い出して暫くして、アレックスは私達に対して暴言、暴力を振るうようになりました」


 丁度、時計が時刻を鳴らす音と共にジェシカは絞り出すような声でようやく話し始めた。




 フロルを追い出して暫く、私達、パーティーのランクがDからCに上がりギルドハウスを借りられるようになった頃から。


「なにチンタラしてるんだよ!! 置いていくぞ!! お前等は本当に使えねえな!!」


 私達に対して暴言、酷いときには暴力を振るわれるようになった。


 あれだけ私達に甘くて優しかったアレックスの豹変に最初は私達は驚きはしたものの、抵抗した。でも、それが余計に火に油を注ぐ結果になり暴言、暴力は酷くなっていった。

 どうして逃げなかったのかって? 私達にはアレックスのスキル・守護の力が必要だったから、守護の力無しじゃダンジョンに潜れなくなっていったの。一度、アレックスなしでダンジョンに挑戦した事があって、それで解ったのよ。

 アレックスは毎晩、私達を求めていたけど、それも無くなって、ダンジョンや依頼で稼いだ金は全てアレックスが売春婦を買うための金に化けていった。


 そういう日々を過ごしている内に、フロルが居た頃、アレックスが加入する前の頃を思い出すようになって・・・・・・。

 馬鹿ですよね、本当に私は馬鹿だ。

 アレックスの本性を見抜けず、あんな男に好きに・・・・・・、いいえ、違う、惚れたのはアレックスの持つスキル・守護の力、アレックス自身じゃない、その時点で間違っていた事に気付くのが遅すぎた。

 そして、フロルを使えないからって酷い事をして、挙げ句にはお兄ちゃんにも酷い事をした!!


 ごめん、フロル。ごめん、お兄ちゃん。ごめんなさい!!!!!!




 人前であるのも忘れて泣きじゃくるジェシカをカレンは憐れみを含んだ目で見つめる。


 フロルを追い出し、アレックスの本性を見抜けず、彼のスキルに惚れ込んだ結果だと考えると自業自得だと言わざるえない。

 このまま、ある一言、フロルは貴女達に愛想尽かしたと言ってしまえば、ジェシカは壊れるだろう。

  だけど、カレンから見てジェシカは心の底から後悔してるのだと解った。長年、ギルドの治安を守る立場として色んな人間に会ってきた経験からジェシカの心情を理解したのだ。

 カレンは泣き続けるジェシカの背中を優しく撫でるとジェシカは段々と落ち着きを取り戻した。


「落ち着いた?」


「はい、すみません」


「そう、それなら本題に入っていいかしら。貴女には協力してもらいたい事がある」


「きょうりょく・・・・・・?」


「ええ、私達、治安維持部隊の務め、馬鹿な冒険者の捕縛に協力してもらいたい」


――――――


――ギルド本部前大通り。


 あれだけの事をしでかしたにも関わらずアレックスは堂々と大通りを歩いていた、後ろにはリコとミーシェの姿。


「おい、お前等、喜べ! 今回は俺が好きなもの買ってやるからな」


「あ、ありがとう、アレックス」


「本当に何でもいいの?」


「ああ! だけど、俺が気に入ったならな!」


 その返答に二人は内心は買う気なんてないじゃないかと呆れるが顔には出さなかった。恐らく、アレックスが入れ込んでる売春婦の貢ぎ物を買う羽目になるのだろうと期待しないで着いていく。

 機嫌が良いのか鼻歌を歌いながら歩くアレックスの前に見覚えのある二人が立ちはだかった。


「アレックス」


 ジェシカとその兄であるジャックだ。

 ジェシカは前の時と違って、しっかりと何かを決意した目でアレックスを見つめ、ジャックは未だに痛々しい姿であるが妹のジェシカを見守っているようだった。

 二人の登場にアレックスの機嫌はあっという間に悪くなる、それを感じとったリコとミーシェは顔を青ざめさせるがジェシカはそれを構うことなくアレックスに話しかけた。


「アレックス、お願いがあるの。お兄ちゃんに謝って、謝ってくれればお兄ちゃんはギルドに被害届を出さないって言ってるわ」


「はあ!? 俺は悪くないのに、どうして謝らなきゃいけねえだよ!! そんな事を言うために来たんなら殴られねえ内にどっか行け!!」


「アレックス、お願い!」


「ふざけるな!!!!!!」


 ジェシカが一歩も引かないと解るとアレックスはジェシカに殴りかかった。


「はい、そこまで」


 拳がジェシカに届く前にアレックスは何者かに吹き飛ばされ、地面に強く叩きつけられる。

 アレックスを吹き飛ばした人物――カレンはアレックスを見下ろすように立っていた。


「やれやれ、話通りの男だな。さてと、仕事しますか。

 アレックス・フォーレン、お前を一般人及び自身が所属するパーティーメンバーの暴行の疑いがあるとして逮捕する!!」

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