チーレム崩壊編

第17話 お姉ちゃんが詳しい話をしてくれました

「お姉ちゃん、ジャックさんに何があったか教えてくれる?」


 場所は移り、治安維持部隊の拠点に姉のマチルダを連れてやってきた。

 あの再会の後、カレンさんが来てジェシカにジャックさんの暴行の事で詳しい話をと取調室に連れて行ってしまい、残されたアタシ達は此処で話すのもとなって拠点に移動し、冒頭に戻る。


 お姉ちゃんは話そうか悩んでいたけどイヴァンさんが「姐さん、リーダーから話を聞かされるので結局は知ることになりますよ」と言ったらお姉ちゃんはようやく話をしてくれた。


――マチルダ視点。


「ふう! ようやく着いたね、慣れない長旅だったけど大丈夫?」


「大丈夫よ、心配してくれてありがとう、ジャック」


 長時間、慣れない魔導列車に乗って来たからか心配してきた、彼、ジャックに向かって笑うと彼は安心そうに笑う。

 本当に良く笑う人だ、此方もつられて笑顔になってしまうのは仕方ない。


 今、ワタシ、マチルダはジャックと共に中央地域のギルド本部がある都市にやってきた。

 理由はただ1つ。


「此処にあの子達、フロルが居るのよね?」


「ああ、前の手紙に中央地域にあるギルドで冒険者をしていると書いてあったんだろう?

 フロルは嘘をつく子じゃない、きっとギルド本部に行けば会えるさ」


「・・・・・・そうね、会えると良いわね」


 ワタシは今年、彼、ジャックの妹・ジェシカと共に冒険者になった妹・フロルに会うためだ。


 会いに行く事にした切っ掛けは定期的に送られてきた妹の手紙が今月になって送られて来なかったからだ。

 忙しい時は無理に出さなくてもいいと言ったけど心配なものは心配で、あと妙に胸騒ぎがあった。

 ワタシだけでなく両親、兄も何か妙な感じがすると言い、話し合いの結果、ワタシが様子を見に行く事にしたのだ。

 ジャックにその話をしたら、女一人じゃ流石に心配だからと着いてきてくれたのだ、彼は何も言わなかったけど妹のジェシカがどうしているのか気になっているのだろう。

 電車の中で彼はジェシカは元気かな? と言っていたので、きっとそうに違いない。


「ギルド本部は確か、この大通りの先にあるそうだ。人が多いからはぐれないようにね」


「ええ、ジャックもね」


 駅の掲示板に貼ってある地図で場所を確認して、ジャックとはぐれないように目的地を目指す。

 大通りにはお店が二、三件しかないワタシ達の村とは大違いで沢山のお店が並んでいて、其方に目が行きがちになるのを抑えながら歩く。フロルに会えたなら、お土産を買いにでも立ち寄りましょう。

 そんな事を考えていたら、誰かにぶつかってしまった。


「あっ、すみません!」


 ワタシはぶつかってしまった人に謝るが、その人は舌打ちをするとワタシの髪を思いっきり引っ張った。


「きゃあ!」


「何がすみませんだよ!! イライラしてる時にぶつかってくんじゃねーよ!! このクソアマ!!」


 髪を引っ張られたまま、ワタシはそのまま投げ飛ばされたが。


「危ない!!」


 ジャックがワタシを受け止めて助けてくれた。


「大丈夫かい、マチルダ? 怪我は?」


「怪我は無いわ、助けてくれてありがとう、ジャック」


 ジャックはワタシを庇うようにして、ワタシとぶつかりそして投げ飛ばそうとした人、目の前の男を睨付ける。


「彼女はぶつかったけど謝ったじゃないですか! 暴力を振るうのはどういう事ですか!?」


「イライラしてる所にぶつかった奴が悪いんだよ! つまり、俺は悪くないって事だ!」


 男は心の底から自分が悪くないと言った表情で言い切りワタシ達を見下す、なんて人なの!? こんな人が居る場所にフロルが居るなんて・・・・・・、会えたなら、危ない人が居るって言っておかないと。

 ジャックさんは男の言葉に呆れているようで顔を歪ませていた。


「貴方は何を言ってるんだ、呆れて何も言えないよ。貴方のような人に謝罪されても気持ちは晴れない。マチルダ、行こう」


「ええ、そうね」


 謝罪を要求しても謝罪どころかまたイチャモンつけられるのが解ったから、ワタシ達はこの場を去ることにした。周りに人が集まってきたというのもあるが、この男とのやり取りには不快しかなかったのが一番だ。

 去ろうとすると男がワタシ達の前に立ちはだかる、なんなのよコイツ。


「ふざけるなよ、俺はまだ謝罪されてないぞ」


「何を言ってるんですか、彼女はちゃんと・・・・・・ 「この場で土下座して謝れ」


 男から発せられた言葉に信じられないと思うと同時に呆れるしかなかった。

 ぶつかったけど、お互いに怪我はないし持っていた物が壊れたって訳でもない、確かにぶつかった原因はワタシが周りに気を取られたのもあるけど土下座する程でももない。

 本当にこの人は何を言ってるんだろう、呆れて何も言い返せないワタシに代わってジャックが男に言い返した。


「ハァッ!? 貴方は何を言ってるんですか!?」


「お前等は非冒険者、俺は冒険者、つまり、俺はお前等より偉いんだ。だから、土下座して謝るのが基本だろ?」


「・・・・・・何が基本ですか、確かに貴方方、冒険者に助けられている部分もありますがこれは別です。

 僕達はこれからギルド本部に行きます、そして、貴方のような冒険者が居たと報告させていただきますね」


 男の言い分にジャックはギルド本部に報告する事を決めたようだ。

 全ての冒険者がこの男のような人ではないのは知っている、だけど、この男がこのまま冒険者として続けていたら、きっと、冒険者はこの男のような人ばかりだと思われてしまう。

 もう相手にする必要はないとワタシ達は男の傍を通ろうとした、その時。


――バキッ!!


 男はジャックを殴った。


「何が報告するだ!! ギルドは冒険者の味方だ!! 相手にされねえに決まってるのに偉そうにするんじゃねえぞ!!」


 殴られ倒れたジャックに男は容赦なく蹴りを入れる。

 これには黙ってみていた周りが止めろと叫びながら数人が男を取り押さえようとしたが止めに入った人達はその場で倒れてしまった。

 ワタシは怖くて動けなくて何も出来ないでいる、情けなくて涙が零れた。


「アレックス、止めて!!」


 誰かが男に抱きついて止めに入った。

 止めに入ったのはジャックの妹・ジェシカだった。


「おい! 離れろ! コイツに罰を与えてるんだ!」


「お願い! 止めて! もう暴力は振るわないで!!」


 泣きながら男を止めるジェシカに男は舌打ちをするとジェシカを殴った。

 殴られたジェシカは昏い目で男を見ているだけで何も言い返す事もせず、ただただ男を見ているだけ。


「チッ! 萎えた、ジェシカ、お前は二度と俺達の前に現れるな、俺に逆らったんだ、お前は出て行け!!

 リコとミーシェには俺から伝えておくから、俺達の家に来るんじゃねえぞ」


 男はそう吐き捨てると去って行き、声を掛けられるまで動くことが出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る