第10話 ダンジョン調査開始しました③

 ゴブリンが出てくる。


 ドンドン出てくる。


 倒しても倒しても出てくる。


 なんなの此奴ら!? どれだけ居るの!? ジャイアントゴブリンが居るから繁殖力も強化されていらっしゃるの!?


「いや、それはない」


 近くに居るイヴァンさんがアタシの疑問に答える、心の中で言っていたのにどうして解ったの? と思ったら口に出てたらしい、なんか恥ずかしいな。


「それはないという事は、異常という事ですね」


「ああ。ゴブリンの群れ、ジャイアントやキングが率いた群れと何度も対峙した事はあったがこんなに湧いて出てくる事はなかった」


 ベテランのイヴァンさんの経験から、こんなに湧いて出た事はないというのだから間違いないのだろう。

 この異常の原因がハッキリさせるには、奥に居るであろうジャイアントゴブリンの所にまで行かないといけない。

 行くには、この大量のゴブリン達をどうにかしないと・・・・・・。


「チッ! ラチが開かない! デン! 強行突破するぞ!! お前の自慢の盾技をゴブリン共にお見舞いしてやれ!!」


 流石のカレンさんもゴブリンが倒しきれないと判断し、デンさんに強行突破の指示を下すとデンさんは盾を構え直し前を見据えた。


「解った。お前等、儂のフォロー頼んだぞ!!」


「「「「了解(しました)!!」」」」


「レナード殿達は安全な所へ隠れていてくれ」


「わかったにゃ。安全になったら出てくるにゃ」


「「「「「にゃ~」」」」」


「行くぞ!! 儂の必殺シールドラッシュ受けてみよ!!!!!!」


 デンさんはぬおおおおおお!! と雄叫びを上げながらゴブリン達は盾で退いていく。弾き飛ばされたゴブリンは地面や壁に強く叩きつけられ、二度と動くことはなかった。

 盾を避け弾き飛ばされずアタシ達に襲いかかってきたゴブリンはカレンさん達が倒していく。

 アタシは疲労を取るスキル・リフレッシュを中心に回復、補助、追いつかない時はアイテムを使って皆をアシストした。


 ゴブリンをそうやって倒しながら奥に進んでいく。

 どれだけ倒したのだろう? どれだけスキルを使ったのだろう? どれだけアイテムを使ったのだろう?

 息を絶え絶えになる頃、ようやくゴブリン達の群れを突破した。


「ハアハア・・・・・・、久々に使ったもんだから。疲れたわい」


「デンさん、これ、体力と魔力を同時に回復してくれる薬です」


「お~、嬢ちゃん、すまんな、ありがたく頂こう」


 ニコリと疲れを感じさせない笑顔でデンさんは薬を受け取ると一気に飲み干す、あれだけの働きをしたのだから相当疲れたのだろう、本当にお疲れ様です。

 アタシはデンさんだけでなく他のメンバーにも同じ薬を渡す、 此処はゴブリンの巣でもありジャイアントゴブリンの領域、下っ端ゴブリン達は入れないけどジャイアントゴブリンが居る以上、この領域を守る護衛のゴブリンが急に襲ってくるかもしれないから準備は大切。


「サンキューな」


「ありがとう、フロルちゃん」


「お姉さん、感激! ありがとう」


「ありがとう、頂くよ」


 皆、疲れているのに笑顔で御礼を言ってくれる。


『サンキュー! フロル』


『またアンタに助けられちゃったね』


『フロルが居るから頑張れるよ』


 ああ、いけない。

 また思い出しちゃった、もうあの頃には戻れないんだから思い出しちゃいけないのに、今のアタシはギルド治安維持部隊・黄昏トワイライトのメンバーなんだから!!

 昔の、仲が良かった頃の思い出を振り切ってアタシは薬を飲んだ。


「さて、回復も済んだしジャイアントゴブリン討伐しに行きますかねと言いたいけど静かすぎないか?」


 イヴァンさんはそう言って辺りを見渡す。

 侵入者であるアタシ達を倒しに来るであろう護衛のゴブリンが出てこない、本当に静かだ。

 ジャイアントゴブリンの身に何かあったのかな?


「・・・・・・もしや、もう始まってるのかもしれない」


「始まってる?」


「奥に行けば解るよ、に行こう」


 何かに勘づいたアッシュさんの後に続いて奥を目指す。

 静かな空間にアタシ達だけの足音が響く、ゴブリンの巣なのにゴブリンを見かけない此処は不思議な場所にように思えた。


 目的の最奥に着く、其処に居た、いや、其処には白い大きな繭があった。


 近くにはゴブリンの骨が散らばっている、これは一体・・・・・・?


「やっぱりね、ジャイアントからキングになる為の準備に入ってたんだ」


「準備ですか・・・・・・?」


「ああ、未だにどんな風に繭になるのか解明されていないけれど繭になる前には栄養値が高いとされている雌のゴブリンを大量に食べると聞いている。

 散らばっているゴブリンの骨の角は小さい、雌のゴブリンで間違いないね」


 あの大量のゴブリン達はキングになる為の時間稼ぎだったんだろうとアッシュさんは続けた。

 それを聞いてやっぱりとしか感想しか出てこなかったアタシは繭を見る、繭はドクドクと心臓のように動いてる、この中でキングゴブリンになる準備をしているのか。


「は~、久々に強敵と戦えると思ったんだが、まあ、時間が掛かりすぎた。あっさりしていても良いか・・・・・・」


 溜息をつきながらカレンさんは己の手の平に出現させた炎で繭を燃やす。

 繭は一気に燃えさかり、燃えカスだけを残して無くなった。


「これでジャイアントゴブリンの討伐は終了、さて、残ったゴブリン達の討伐に戻るぞ」


「「「「「了解(しました)」」」」」


 こうして、ジャイアントゴブリンの討伐を終え、残りのゴブリン達はジャイアントゴブリンが居なくなったのを察知しアタシ達を見て逃げていった。

 隠れていたレナードさん達は避難先でぐっすりと寝ていた、寝顔が可愛かったです。


――――――


「例のジャイアントゴブリンは討伐されたようです」


 暗い森の中。

 黒いフードを纏い仮面を付けている如何にも怪しい男が水晶を通して何者かに連絡していた、どうやら始まりのダンジョンに出現したジャイアントゴブリンの報告をしているようだ。


『そうか、少し強化したぐらいじゃダメだったか』


「ですが、転送魔術式は成功と判断してもよいかと・・・・・・」


『そうだな、だが、余り乱用は出来んな。調査しているのだろう? 魔力の痕跡が見つかるのも時間の問題だ。

 ところではどうした? 姿が見えないようだが、まだ使える筈だと思ったのだが・・・・・・』


「・・・・・・今は魔力温存の為に寝ています」


『解った、引き続きを渡してやった人間の監視を頼んだ』


「了解しました」


 プツンと通信が切れると男は木の影に隠れるように座り、男と同じ黒いフード、仮面を被った少女の元へ歩く。

 少女がケホケホと咳をしていると、その背を咳が治るまで優しく撫でた。


「大丈夫か?」


「・・・・・・うん」


「無理はするなよ。明日もあの男の監視だ、ゆっくりお休み」


「・・・・・・うん」


 男は少女の頭を優しく撫でると子守歌を歌い始めた。

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