第6話 初仕事は見廻りでした

「さて、フロル、今日より治安維持部隊として働いてもらう。

 最初の任務はイヴァンと一緒に大通りの見廻りだ」


「見廻りですか?」


 顔合わせして、ギルド本部を一通り案内してもらったあと治安維持部隊の拠点にやってきて早々にカレンさんから見廻り任務を言い渡された。

 大通りは冒険者達が使う武器、防具を取り扱う店を中心に宿屋や憩いの場となる酒場が集まってる通りでアタシもパーティーに居た頃に必要な道具があった時に買いに行っていた、アレックスが入ってからは以下略。


「私達、治安維持部隊ってのはぶっちゃけると暇なんだ。問題なんてそうそう起きないからね」


「暇なんですか………」


「暇って言っても、普段は受付嬢に妙に絡んだり脅したりする冒険者とかの対応ばかりだな」


 だから、セリエさん、受付嬢さん達に治安維持部隊は好かれてるのか。

 ギルド本部内を案内されてる時に受付嬢さん達の方から話しかけてきて大変だと思うけど頑張ってねと応援された。

 受付嬢さん達、本当にお疲れ様、笑顔の裏で大変な苦労をしてるんだな。


「それプラス大通りの見廻りだ。道具屋を始め、色んな店が集まってる大通りは冒険者が多い、だから冒険者同士のイザコザがそこそこ起きる。

 私が言うのもあれだが冒険者ってのは気が強かったり、気性が荒い奴が多いからちょっとした事でも喧嘩になる。酒を飲んでると尚更だ。

 最初はちょっとした喧嘩でも周りを巻きこんで大喧嘩に発展する事が多い、そのせいで店側が被害ににあって畳んじまう所もある、そういった店を出さない為にも見廻りするのさ、ギルドをずっと支えてくれる人達を傷つけるのは許されない」


 気が強く気性が荒い奴が多い……か、それを聞いてアレックスを思い出す。

 冒険者全員がそうでないと思うけどアレックスみたいな奴の対応しなきゃいけないと考えると嫌だな、でも、そんな人達のせいで被害を受けてお店を畳むしかない状況にされたお店の人達はもっと嫌だろうな。

 それにしても・・・・・・。


「なんでイヴァンさんなんですか?」


「それはだな・・・・・・ 「オレの方が店の人達と一番仲が良いからだ」


 アタシ達の傍にやってきたイヴァンさんがカレンさんを遮って口を挟む。

 カレンさんは遮られた事に不満なのかイヴァンさんを恨めしそうに見ながら「イヴァンの言うとおりだ」と続けた。


「コイツ、人懐っこいせいか店の特にご年配の店主達に好かれてるのもあるが仲裁が上手いんだ。おかげさまで大通りで騒ぎが起きた時に呼ばれるのがイヴァンだ」


「まあ、話を聞いて冷静になる時間を与えれば大体は治まるからね。

 姐さんの言うとおり、気性が荒い奴が多いけど基本的に冷静になれば話せば解る奴等ばかりだ、悪い連中ばかりじゃないぜ。

 ただ、冷静にさせるのに時間がかかるけども・・・・・・」


 イヴァンさんが少しげっそりしながら話す内容に全面に同意する。

 一度、大通りで冒険者、しかもAランク同士の喧嘩に出くわした事があるからだ。

 怒号が凄いわ、野次が凄かったのを覚えてる。

 その頃、冒険者成り立てだったアタシ達はビビりまくり足早でその場を去ったから、その後、どうなったかは知らない。

 喧嘩が大騒ぎに発展するのも野次を飛ばして煽る人達がいるからだろうなと思い出を振り返りながら思った。


「話は此処までにして、今回の見廻りは店の人達に挨拶するのが目的だ」


「挨拶ですか?」


「ああ、店主や店員と親しくなるのも仕事の一環だ。

 それにフロルはまだ幼さが残ってるから可愛がられそうだし、イヴァンに続いて親しくなれるかもな」


「え? アタシって幼いですか!?」


「姐さん、それって褒めてるのか?」


 イヴァンさんに呆れ顔で言われて、カレンさんはしまったという顔をする。

 無意識だったんですね?

 一応、アタシは15歳なんですよ、でも、周りから童顔って言われるから幼く見えてるのかな? それはそれでショックなんだけど・・・・・・。


「ご、ごめん、と、とりあえず、見廻り行ってきな」


 こうして、アタシはイヴァンさんと共に大通りの見廻りに行った。


――――――


「まあ、可愛いお嬢ちゃん♪ こんな可愛い子といつお付き合いしたんだい? あたしに黙ってるなんてひどいじゃないか~」


「小母さん、この子は新しくオレら治安維持部隊に入った子なんだ。オレの彼女じゃないよ」


「初めまして、フロルと言います」


「そうなの! いや~、イヴァンちゃんに春が来たと思ったけど違うのね~。此方こそよろしくね♪」


 うふふふと笑う雑貨屋の店主さんに圧倒されながら挨拶をする。

 アタシとイヴァンさんを恋人同士だと思ってたらしいけど流石に冗談だよね?

 イヴァンさんはニコニコと笑って流してるけど、ちんちくりんなアタシと恋人だと思われて嫌な感じになってなきゃいいけど。

 雑貨屋の店主さんはイヴァンさんに昨日はこんな事があったとか亭主とこの前ちょっとした事で喧嘩したとか話している、この人、話が長くなるタイプだ、対するイヴァンさんはニコニコしながら話に相槌をして適当な所で次に行かなきゃいけないから話を切り上げて雑貨屋を後にした。


「はあ~、あの人、話が長いんだよ、良い人なんだけどね。捕まったら気が済むまで喋り続けるから気をつけろよ」


「わ、解りました。気をつけますね」


「じゃあ、次は隣の道具屋に行くぞ。この道具屋は爺さんと孫がやってるんだ」


「へえ、そうなんですか」


 こんな感じでイヴァンさんにお店の情報を教えて貰いながら挨拶して廻った。

 お店の皆さん、イヴァンさんが居たからかフレンドリーにしてくれて緊張しながらもスムーズに挨拶できた。

 大通り半分ぐらいのお店に挨拶を終えると大通りが賑やかになっていた、食事処に人が集中してるから、もうお昼か。


「もう、こんな時間か。挨拶は此処までにして食事処を中心に見廻りするぞ」


「残りのお店の挨拶廻りは明日ですか?」


「そうなるな、挨拶できたらするぐらいでいい」


「解りました。見廻りで気をつけなきゃいけない点ってありますか?」


「そうだな・・・・・・」



「ねえ~、アレックス、此処が今流行のお店らしいよ♪」

「早く行こうよ~♪」

「アレックスさん、早くしないと混んでしまいますわ」

「おいおい、お前等、そんなに引っ張るなって!」



 この声は・・・・・・・・・・・・。


 声だけで解る、彼奴らだ、彼奴らが此処に居る。

 近づいてきてる、でも動けない、このままじゃ見つかるかも。

 どうしよう、どうして、体が動かないの?


「コッチだ」


 イヴァンさんがアタシの腕を強く引っ張って背後に隠す。

 彼奴らの声がイヴァンさん越しに聞こえる。

 彼奴らの楽しげな声が遠くに行くとアタシはその場で座り込んだ。


「大丈夫か?」


「・・・・・・解らないです」


 どうしてだろう。

 彼奴らの事は割り切ったと思ったのに体が強ばって動けなかった。

 また何か言われると思って動けなかった。


「・・・・・・今日は一旦帰るぞ」


「でも!」


「無理すんな、そんなに顔を青白くさせた新人を無理に仕事させる訳にはいかない」


「・・・・・・ごめんなさい」


「いや謝るのはオレの方だ。ボス、マスターからお前が居たパーティーの事は聞いてたのにすっかり忘れてたよ、不甲斐ない先輩でごめんな」


 背中を優しく撫で安心させるような笑顔のイヴァンさんに感謝しつつ自分が情けなくて仕方なかった。

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