初仕事編
第5話 顔合わせしました
翌日。
宣言通り早起きしたアタシは身支度の準備をしていた。
昨日、カレンさんから寮の前で顔合わせするという予定になってると聞いたから綺麗に身支度を調えなきゃ。
「フロルちゃん、起きてる~?」
「は~い、起きてます!」
着替え終わると同時にノックと共にドア越しからアウラさんに声をかけられた。
わざわざ迎えに来てくれたみたい、カレンさんの言うとおり面倒見が良い人なんだな。
迎えに来てくれたのに待たせるわけにはいけないから鏡でさっと服の乱れがないか確認して最低限の荷物と大事な魔術用の杖を持って外に出た。
「お待たせしてすみません!」
「あらあら待ってないわよ、逆にお姉さんのせいで慌てさせちゃったかしら。ここ寝癖ついてるわ」
「え?」
うふふと笑いながらアウラさんが寝癖を直してくれる、本当にありがたいけど少し照れくさいな。
小さい頃、よくお姉ちゃんに寝癖を直してもらってたっけ、そんな昔の事を思い出したら家族の顔が浮かべるとそろそろ家族に手紙を送らなきゃいけない事を思い出す。
冒険者になると言ったとき、家族から大反対されたが最終的には認めてくれて、村を出る前に贈られたのがアタシが持っている魔術用の杖だ。
この杖はアタシの宝物、彼奴――アレックスには居場所とかお金とか色々と奪われたけど、この杖だけは奪われなくて本当に良かった。
杖を贈られた時に月一、忙しい時は無理に書かなくてもいいけど手紙を送ってほしいと約束したのだ、この約束は破らずにずっと続けている。
今回の手紙の内容は・・・・・・、家族にパーティーを追い出された事を教えるべきなのかな?
教えるってどうやって伝えればいいの? ありのままを書いたらきっと・・・・・・。
「フロルちゃん?」
「あっ、いえ、なんでもありません。皆さん、もう待ってますよね? 行きましょう!」
初日に暗い気持ちになるのはいけないな。
心配そうな顔をしているアウラさんに大丈夫だと笑みを向けて待ち合わせ場所に向かう、今は今日の事だけを考えよう。
「来たか」
寮に出るとカレンさんの他に大きい盾を背負ったドワーフに探検家の格好をしているコボルト、腰に二本の探検を携えた夕焼け色の髪の青年、受付で初めて会った時のメンバーが揃っていた。
本当に迫力がある人達ばかりで本当にアタシが加わっていいのかと戸惑う。
「アウラ、お迎えご苦労さん。嬢ちゃんが新しい子だね?」
「はい! フロルです!」
「あっはははは! そんなに緊張せんでも取って食ったりはせん! 儂は見ての通りドワーフの盾使い、デンという。よろしくな」
厳つい雰囲気のドワーフ、デンさんがニコリと笑って話しかけてきてくれたけど緊張しているのが丸わかりでデンさんにポンポンと頭を撫でられてしまった。
「デンさんの言うとおり、緊張しなくていいよ。むしろ、僕達の方が新しいメンバーを迎えるんだから緊張してるよ。
僕は種族はコボルト、名前はアッシュ、職業は服を見れば解ると思うけど探検家だよ。よろしくね」
「フロルです、よ、よろしくお願いします」
紳士に挨拶してきたアッシュさんと握手する。
いや、緊張してないって嘘でしょ? って言いたいぐらいに爽やかな紹介で逆に緊張する。
それにしてもモフモフな耳に尻尾だな・・・・・・、触りたい。
「僕に何かついてるかい?」
「い、いえ、なんでもありません!!」
やばい、耳と尻尾見てるの気付かれた!?
慌てて否定すると夕焼け色の髪の青年が大声で笑い出した、アタシ、何かやっちゃった?
「いや~、君、アッシュの耳と尻尾に見とれていたんだろ? 確かにモフモフしてるし触りたくなる気持ちわかるよ」
「そうだったのかい? 耳は苦手だから尻尾なら・・・・・・」
「いえいえ、気にしないで下さい! モフモフしてるなと思っただけですから!」
「そうかい、触りたくなったらいつでも言ってね。僕達、コボルトにとって毛皮を褒められるのは名誉な事なんだ!」
「そうなんですね。もし、機会があったらで・・・・・・」
毛皮を褒められるのは名誉なんだ、1つ賢くなった。
最後の一人は・・・・・・、こっちを見てニヤニヤと笑っている青年。
先ほどのやり取りの恥ずかしさもあって睨付けるとまた声を出して笑われた、アタシ、面白い事した!?
「イヴァン、笑ってないでちゃんとしろ」
「カレンの姐さん、睨まないでよ。いや~、オレがこのチームの最年少だったからようやく脱却できるのがつい嬉しくてね。
オレはイヴァン、剣士だ。よろしく」
カレンさんに人睨みされた青年――イヴァンさんは快活に笑うとアタシに握手を求めてきたから素直に。
「よろしくお願いします」
その手に握手した。
――――――
「お~い、そっちは大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
フロル達が顔合わせしてる頃。
ギルドが初心者用ダンジョンとして認定している通称・始まりのダンジョンにて、新人冒険者パーティーがゴブリン討伐に赴いていた。
このダンジョンはギルドが初心者用と認定しているだけあって低級モンスターしか居らず罠もない、階層は地下二階までのダンジョンだが冒険者に成り立ての者にとってはダンジョン探索の基礎を学ぶための場として活用されている。
ゴブリン討伐を終えた新人達は一休みも兼ねてお互いの戦果の報告をしていた。
「それにしても此処って初心者用のダンジョンなんでしょ? ゴブリンの数多くない?」
「確かに。巣がある地下二階ならこれだけ出てくるのは解るけど、此処は一階。君の言うとおり多いよな」
女冒険者の言葉に築かれたゴブリンの死体の山を見ながら他の冒険者達は同意する。
このダンジョンの地下二階奥にゴブリンの巣がある、それに暗がりから襲う事を好むゴブリンがダンジョン内とはいえ明るさがある一階に山を築けるほど数が居るのは可笑しいと新人でも判断できた。
「なあ、やっぱり引き返した方がよくないか?」
冒険者の一人が顔を青くしながらそう言うと同意する者とゴブリンは低級だから多くても問題ないと反対する者とに分かれ、パーティー内に不穏な空気が流れる。
――ズシン。
だが、そんな不穏な空気も一瞬で吹き飛ばすほどの地響きが響き渡った。
「な、なんだ!?」
「さっきの地響き・・・・・・?」
「お、おい、あれ!?」
冒険者達は奥、地下一階に繋がる階段の方へ視線をやる。
其処には・・・・・・。
「きゃああああああ!!!!!!」
紅い目の黒い巨体が立っていた。
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