第8話 桃田君は意外に紳士
無事に、合同演奏会が終わった。
私としては、とっても感動。
三曲演奏したのだけど、一曲目は「風になりたい」これは、THA BOOMって歌手が歌った楽曲で、とっても爽やかなんだ。
二曲目は、「ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス」、アメリカの作曲家デイヴィッド・R・ギリングハムが、アメリカ合衆国ミネソタ州にあるアップル・ヴァレー高校の創立二十五周年を記念してつくった曲なの。荘厳さがあり、華やかで力強く、でも最初のピアノの静かな入り方がとっても好きで、パーカッションの迫力が凄いんだ。
最後は、盛り上がる曲、「シングシングシング」。これは私も大好きな曲。トランペットがカッコいい。
チラリと青葉の方を見た時、真剣に前を向いてトランペットを吹いていた姿は、やはり絵になる。
ギャラリーに、中学生や高校生の子達もいたけど、女子達はもう顔がとろけそう。
ああいうのを見ると、いいなぁ、と思ってしまう。私には、そういう可愛さが無いから。
だから、今は無理でも、いずれはそうありたいと思ってしまう。
好きな人には、とびっきりの笑顔を見せたいし、目の前にいる子達みたいに、純粋に好きな人を見つめられるようになってみたい。
「白石さん、ご苦労様。やりやすかったよ。」
佐藤さんからねぎらいと、お褒めの言葉を戴いた。手伝いに来て良かったなと思ってしまう。
手伝いの人達は、イスを片付けると解散になった。
何だか余韻がまだ心の中にあり、音楽好きだー、って思ってしまう。
その時、
「白石さん、これから時間あるなら、ご飯でも食べない?」
振り向くと、桃田君が他の手伝いの子と一緒に声を掛けてきた。
「何かの縁だし。出店している食べ物屋さん、結構あるからさ。」
そう言うと、出店の方を指さす。
柑月中から手伝いに来た女子は、皆、行くらしい。向こうの手伝いの人も、全員ではないけれど、だいたいの人は残って、こちらを見ている。
先程の自己紹介があまりに余裕が無く、じっくり桃田君を見ていなかったけど、なる程、手伝いの女子が残るのも納得のイケメンだ。
バスケをしていると紹介されたが、確かに、運動部独特の機敏さと、はつらつさがある。
バスケって、あんまり見た事ないけど、本当に女子にモテそうな、ルックスと明るさを持った人だ。
でも私は、苦手かも。
少しチャラそうだし、モテ男と言う部類に、少し距離を置きたくなっている。
「誘ってもらって申し訳ないけど、これから、用事があって行かないといけないの。だから、私はここで、お疲れ様でした。」
そのまま歩き出そうとすると、桃田君に肩を掴まれ、
「いいの、お昼、まだでしょう?」
そう言われて、じっと見られると、言い訳の一つでもしないと、離してくれなさそうなので、
「母親が病院に勤めていて、今日はそこに用事があるから、病院の食堂で食べようと思ってるんだ。それに、今日は手伝いで来てたから、そんなにお金も持ってないし。」
最後は尻切れトンボのように、声が小さくなってしまう。
だって、こんなに間近で男子なんか、見る事ないもの。
そう思うと、最近、こういうシチュエーション、何だか、多いかも。何なんだろう。
「そっか、なら仕方ないね。俺の妹も、今、入院中なんだ。東洸大学病院。小学三年生なんだけど、風邪が悪化して、肺炎になっちまって、見てるこっちが苦しいくらい。今はだいぶん、良くなったけど、退院はまだ。」
「同じだ。」
首を傾げて、桃田君が見て来る。
「あ、ごめん、今から行く病院。今、そこの病院の児童館に寄付した本が無くなってるみたいなんだ。私が寄付した物もあって、だから、調べに行くの。」
そう言うが早いか、
「俺も行く。」
踵を返すと、他の皆に謝りに行き、こちらに駆け寄って来た。
だけど、桃田君は知らない。
あなたの後ろのどす黒い視線を。
女子達を私は直視できない。
「行こ。」
私の二の腕を掴むと、出口の方へ、スタスタ歩いて行く。
私はというと、申し訳なさと、後の怖さで、体の体温が引いてしまいそうだ。
多分、これで、また私に友達が出来ないんだろうな。
最近、古典研究部のせいもあり、目立つ方達とのお付き合いが、余計、私の周りから人を遠ざけている気がする。
「瞳子ちゃん、足、動いてる?」
茶目っ気たっぷりの言い方に、少しムッとしながら、
「大丈夫なんですか?桃田さんがいるほうが、盛り上がりそうでしたよ。」
先程の、恨めしい視線が、まだ頭の中で交差している。
「これも縁だしって、言ってたじゃないですか。」
桃田君には、関係ないのに、八つ当たりしてしまう。
「あれあれ、俺の心配してるの?それとも、彼等の心配?って言うか、自分の保身かなぁ?だいたい、瞳子ちゃんとの事だって縁じゃない。」
そう言いながら、覗きこんできた。
「近いです。すいません、何か、他の人が残念そうだったから、桃田さんて、モテそうだから。」
「うむ、それは、俺の滲みでる雰囲気と、顔の良さ、スタイルの良さからで、俺の内面ではないからね。そう言われても、余り嬉しくないかも。だいたい、外見なんて親から受け継いだもので、俺の実力では無い。それを期待されるのも、嫌かもね。」
自分の良さも、他人からの視線も、良く分かってる人なんだな。
もっと、チャラい人かと思っていた。
「いっとくけど、俺より、瞳子ちゃんとお昼を一緒に食べれない方が、男女とも残念だったかもよ。」
「それは無いです。」
「はっきり言うなぁ、どうして。」
溜息をつくと、
「友達、出来ないし、男子に好意をもってもらうほど、可愛気もないですし。それに女子もって事は、絶対無いですから。」
「分かってないよなぁ、可愛いのに。」
多分、凄い変な顔だったと思う。
理解不能で、何を言っているのだこの人はと、本当に思ってしまったから。
「そんな顔しないの。青葉も君の事、気にしてるんだから。」
もっと驚いて、とうとうその場で足を止めてしまった。
私には先程からの、桃田発言は、どうしようもなく居心地が悪い。
この人は、自分が人からモテるから分かってないのだ。
「そんなに俺、変な事、言った?」
止まった私の前に来て、整った顔を傾ける。
「倉崎君は、小学校が一緒で、出会った時、余り良い印象を私に持ってないからで、気にしてるよりは、怒ってる方が正しいような。それから、本当に可愛いとかはやめて下さい。そうでないのは、自分が一番分かってます。」
目の前から、唸り声が聞こえた。
「こりぁ、手強いわ。青葉が気にするのも仕方なしか。取り敢えず、瞳子ちゃん、これだけは言わせて、君と同中の子達は、君が手伝いに来てるのを見て、嬉しそうだったよ。憧れと言うか、女子独特の、宝塚的と言うか、だから友達が出来ないって言うけど。」
「そうだったんだ。」
桃田君の言葉を途中で遮り、
「えっと、何かな。」
宙を見据え、自分の考えにハマっている私を見て、びっくりしている。
「そっかー、バレちゃったのかなぁ。陽子先輩、本番まで隠すって言ってたんだけど、あんな目立つ集団で隠す事なんて、出来ないもんね。私だって、あの中に入れば、些少、おこぼれ的なものがあったのかしら。どっちかって言うと、霞んで見えなくなりそうだけど、うーむ。」
一人で百面相をしている私に、多分、呆れたのか諦めたのか、「行こっか」、二の腕を掴まれ、引っ張られてしまった。
「手強いわ。」
ぼそっと、言った言葉の意味は分からず、病院に着くまで、あーでもないこーでもないと頭を捻っている私を、呆れて見ていたと思う。
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