第5話 態度が大きくなるのは成長の証

 それからと言うもの、昼休み、放課後と練習が始まった。しかし、全員が集まる事がなかなか出来なく、台本通りには進まない。

 陽子先輩の厳しい激が飛ぶ中、今度の犠牲者は誰かと、ビクビクしながら自分の役をしている。

 それなのに、

「トーコ、もっと顔を近づけて、ダメダメ、その距離は恋してる感じに見えない。もっと情熱的に、熱く、視線も絡めて。」

 無理難題を私に言うのだ。

 えーん、女子に顔を近づけろだなんて、それに先輩だよ、無理だよ。

 「トーコはまだ恋した事がないんだよ。そうでしょう。」

 如月先輩が、面白がって私に絡んでくる。

 自分もかなりキワドイシーンがあるものだから、不貞腐れているのだ。

 陽子先輩に言ったところで、聞いてもらえるわけもなく、暇暇に、私にちょっかいをかけてくる。

 「ありませんけど、冴先輩みたいにモテないですし、好きになる程、男子と絡んでません。」

 「おっ、最近言うようになったじゃん。トーコが、日に日に先輩に対して態度が大きくなるのは、成長ととるのか、先輩の威厳がないのか、あー、多分、私に対してだけなんだろうな、最近名前で呼ばれるし。」

 チラッと横目でこちらを見ながら、

 「はぁー、仕方ないか、トーコの方が男らしいし。」

 「冴先輩、私、中一の女子です。止めて下さい、絡んでくるの。」

 本当に、流し目で、憂えたような目つきでこちらを見てくるのは、止めてほしい。

 否応なくドキドキが止まらない。

 本人には絶対に言いたくはないけど、この美貌で見つめられて、落ちない人っているんだろうか?

 男女問わず、惚れてしまいそうだ。

 「それよ、冴。」

 いきなり大声で言われ、皆が振り向く。

 「今の感じを劇で出しなさいよ。トーコは男よ、あなたは阿那と恋するの。阿那を虜にして自分が阿那の家、右大臣家に近づき、姉の恵琉紗を追い出そうと企む貴族の二男坊なの。いい、もっと色香を出しなさい。流し目どんどん使いなさい。今の感じを忘れないために、冴、花梨のシーンからもう一度。」

 恨めしそうに、私と陽子先輩を見ながら、嫌々ながらも役に取り組む。

 それでも、冴先輩は、ここにいる全員を見惚れさせてしまう、本当に凄い人なのだ。

 で、私はと言うと、男じゃないし、女子だし、心の中でぶつぶつ唱えながらも、ちゃんと休まず練習をしている。

 だけど、ふと思ってしまうのだ。

 私はなんでここにいるのだろうと、心の底から疑問に思ってしまうのだった。

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