第3話 古典研究部とは⁇

 私立柑月中学校は、歴史ある女子中学校で、中等部と高等部があり、余程成績が悪くない限りは、そのまま高等部に進学できる。

 勿論、高校受験もあるので、他校へ進学する人も、他中学からの受験者もいる。

 ただ、大学への進学率も良い為、余程気に入らないとか、もっとレベルの高い高校へ行きたいとかでなければ、そのまま高等部へ進む人が多い。

 ただし、入学して見ると、意外に締め付けがきつく、他校の緩い校則が羨ましい部分もある。

 この前など、スカート丈が少し短いだけで、一時間のお説教をされたと、クラスの子が言っていた。

 だから、生徒からは不平不満もあるのだが、親のウケがとても良い学校なので、そうは言っても、それなりに満足はしている。

 それは、歩いていても実感できる。

 この制服を着ているだけで、柑月の子なら大丈夫ね、みたいな安心感があるみたいで、コンビニの前でお喋りしていても、微笑ましく通り過ぎてくれる。

 私はコンビニの前で一緒に喋る人がいないので、よく分からないけれど、病院の事務員さんに児童書を渡した時は、キレイに使っていたのね、それにあなた、背筋もピンとしてるし、きちんとした話し方をしている。柑月の子はやっぱり、違うわね。

 なんて言われた。

 他校の事はよく分からないので、これが普通だと思っていたけれど、毎日の起立、礼は、揃わなければやり直しだし、朝礼の時には、先生がその日の決め事を私達に復唱させる。

 例えば、「今日は一日笑顔でいましょう」、とか、「今日は他の人のいい所を褒めてあげましょう」、とか、他愛もないことだし、小学生みたいだな、と思うところもあるけど、何と無く気を付けてしまう。

 中学から高校までの六年間、みっちりマナーと身だしなみを鍛えられるので、私達からしたら高等部の先輩など、神々しく見えてしまう。

 中等部と高等部は、別棟だが、同じ敷地内に建てられているので、渡り廊下で、行き来が出来る。ただし、校門は別なので、なかなか会う機会は無いのだけれど。

 行事などは、一緒にする事もあるので、その時は中等部の生徒が高等部に行く事もある。

 それこそ、秋に行われる文化祭は合同で行われる為、生徒会の皆さんや、吹奏楽部や演劇部、文芸部、放送部など、合同で出来る部活の出し物は、一大イベントになる。

 「白石さん、高等部の方が呼ばれてますよ。」

 お昼休み、お弁当(食堂もあるのだが、混雑するし女子達のお喋りが煩いので、自分は教室で食べている)を食べ終えた頃、教室で食べていた他の同級生に言われた。

 入口へ目を向けると、確かに、高等部の方が二人立っている。

 「ねぇ、白石さんは、梅園先輩や神崎先輩とお知り合いなの?すごいわ、高等部の憧れですものね。」

 呼びに来た子が、羨ましそうな眼差しで、潤んだ目で見てくる。

 私はというと、誰?ポカーンとした顔で、まじまじと入口に立っている二人を見てしまった。

 周りの子達は、羨ましいのか、陶酔した顔で、高等部の二人と私を交互に見ている。

 確かに、目立つ二人ではある。

 二人のうちの一人、髪の長い先輩の方が、自分を見て手招きをしている。

 我にかえると、慌てて教室の入り口に行き、二人にお辞儀をすると、喋る間もなく、なぜか両脇から腕を取られ、引きずられるように高等部の校舎へと連れて行かれた。

 引きずられている最中も、中等部の子達が、キャーとか悲鳴じみた声で、こっちを見てくる。

 無言で連れて行かれる自分としては、視線が痛すぎて辛い。それも、まだ親しい友達もいない自分としては、余計目立つのは嫌なのだ。

 (あのー、怖いんですけど、知らない内に、私は何かした?)

 自問自答しながらも、黙って連れて行かれた先の教室は、どこよ?

 ?マークが頭の周りを飛び交っているのに、その部屋には、十人くらいの人がいて、自分をジロジロ見てくる。

 その内、髪の毛や腰まわり、腕や肌まで触ってきたのだ。

 完全に硬直している自分はそっちのけで、そこにいる人達同士で話をしている。

 「背が高いのはいいね、ヤッパリ。」

 「映えるよね。つくりがい、あるわ。」

 「教室の外からでも、目立つし、周りの女子も、少し引いていたから、すぐ分かりました。話題になると思いますよ。中等部も今から取り込んでおきたいし。」

 「ただ、演劇部の方はどうなの?部長の方には言ってあるけど。まぁ、生贄を差し出しておいたから、怒ってはいたけど、内心嬉々としてたと思うんだが。」

 「大丈夫です。如月先輩にはご迷惑だったかもしれませんが、部長の方はホクホクでしたよ。なにせ、出てくれるだけで、客が集まりますから。」

 「後は、日時が被らないのもいいんだろうな。あっちは初日の土曜、こちらは日曜日。ただ、昼時間なのは痛いけど。」

 「仕方ないよ。生徒会が先に良い時間帯を根回しするわけにはいかないでしょう。これだけのメンバーが出るんだ、時間なんて関係無く、来るでしょう。」

 「そうだといいけど、文芸部の方もプレッシャーで、何せ一人一人が個性的なもんで、それにこの子だ。台本は、作ってはいるけど、直しが必要だわ。」

 「台本は任せる。後は家庭科クラブが協力してくれるはずだから、衣装や小物は何とかなると思う。それと、背景、これは各部が協力してやる事にする。」

 「夏休み前から練りに練ったんだ。どうにか間に合いそうね。この子が入ってくれて良かったわ。なにせ、水無月が出れないって言われた時は、どうしようかと思ったけど。バスケ部の部長も、国体に出るからって、文化祭とは被らないじゃないって話。」

 「仕方ないですよ、薫子はバスケ部のエースですから。冬開催のウインターカップも狙っているでしょうし、何せ、薫子がバスケ部に入部した時は、バスケ部の先輩の歓迎が半端無かったらしいですよ。」

 「知ってる。ま、分かるけど。」

 自分の周りで話されている、この会話は一体何なんだろう。自分に関係あるのだろうか?

 取り敢えず、黙って聞いてはいたが、モヤモヤが膨らむ。

 このままだと、放置状態な気がするので、自分を呼びに来た二人の上級生の一人、何だか派手な人の方へ恐る恐る聞いて見た。

 「あの、私に用事があるのでは・・・。」

 自分を呼びに来た上級生もキョトンとして、あら、忘れてた的な表情をした後、ニッコリ笑顔で、

 「そうだったわ、まだ自己紹介が済んで無かった。陽子先輩、この子、まだ自分の立場を把握してないみたいです。自己紹介を兼ねて説明しても良いですか?」

 陽子先輩と呼ばれた、少し気の強そうな美人が自分に顔を向け、ニヤリと笑う。

 なぜだか、背筋にヒヤリとする感覚が湧いた。

 「忘れてた。昼休みが終わりそうなんで、簡単に説明する。私は、柑月女子高等部の生徒会長をしている、東御陽子。まぁ、この前決まったばかりだけど。後、ここの古典研究部部長もしている。名前の通り、古典をより深く勉強し、独自の解釈や発表をする部なの。今回は特に気合いを入れてる。何せ、初めて文化祭で見てもらうし、生徒会長になったからには、盛り上げたいじゃない。十一月三日がここの学校の文化祭なのは知ってるでしょう?」

 軽く頷く。

 確か、この学校が出来た当初から、文化の日には、何かしら生徒がそれに相応しい催し物をする、それが伝統となっているらしい。

 今は、文化の日と次の日が、ここの文化祭となり、今年は確か、十一月三日が土曜日なので、翌日曜日も文化祭になっていた気がする。

 まだ九月で、初めての文化祭になる一年生でも、話すら持ち上がってなく、それも、中学生の間は飲食店の出店は出来ないので、どちらかと言えば、少し傍観者的な面がある。

 勿論、出し物はするけど、クラス全員による劇や合唱(これは体育館で)、もしくは、教室内での展示物など、飲食店以外の物で、節度を守れば、何をしても良いとの事だ。

 「よろしい、そして柑月女子中等部、高等部は合同で文化祭を行う。よって、部によっては、中、高等部で出し物を合同でしたりもする。古典研究部は、合同で行うんだが、何せ新設部で、私が高一の時に立ち上げた部だ。まだ、中等部の部員がいない。と言うか中等部まで勧誘して無かったんだが、今から、白石瞳子、君を古典研究部への中等部入部、第一号とする。私達と文化祭で盛り上がろうじゃぁないか。」

 拳を握り、力説する陽子先輩を眺めながら、鈍くなった頭を一生懸命、働かせなければならない。

 えっと、もしかして、勧誘なんだろうか?

 私が余程、ぼやっとした顔をしていたのか、陽子先輩の隣にいた、少し冷たい印象のするキレイな人が、

 「要するに、瞳子ちゃん。これは勧誘ではなく、決定事項ね。あなた、部活に入ってないでしょう。少し調べたけど、家庭の事情で入ってないわけでもなさそうだし、時間あるんじゃないかな。瞳子ちゃん以外は高校生になっちゃうけど、あら、時間ないわ、とにかく、明日から昼休み、ここに来てご飯を食べる事。そこでまた説明するから。そして、これを記入するようにね。では、教室に戻っていいわよ。」

 入部届出書を手に握らされ、背中を押されると、そこにいた全員がワラワラと移動し始めた。

 私一人、入部届を片手に茫然とした足取りで中等部がある校舎へと向かう。

 一体、今のは何なんだ。

 叫びたい衝動を抑え、何だか、今日は疲れたなぁ、明日の事を考えると頭痛がしそうだけど、これ、断ったらどうなるんだろう。

 大きな溜息をつくと、こういう時に友達がいれば話せるのに、つくづく思うのだ。

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