五章 一夫多災

「おい!なんであのクズ達が捕まってねぇんだよ!騎士団は何してんだ!」


 ネヴィルは食べていたブドウのような果物を壁に叩きつける。


 ミルコの店から少し離れた高級宿屋で、ネヴィルは激怒していた。


「何か帰っちゃったね。どうしたんだろ?」


 水晶玉に映っているバルト達を見ながらナナが首をかしげた。


 実は、ネヴィル達は2日ほど前から、バルトを探していたのだ。


 ナナの使役魔法で小型の生き物を操り、その生き物の目を水晶とリンクさせる方法で街中探した結果、昨日の夜見つける事ができた。


 ミルコの店に騎士団が派遣されたのは、ネヴィルが裏で動いてたからである。


「あのクズ、今度はどんな卑怯な方法を使ったんだ!毎回毎回、ゴミみたいな卑怯なやり方しやがって!」


「どちらにせよ、また煮え湯を飲まされましたなぁ。やっぱり面白いお方達ですわ」


「ダフネ!俺が契約者だって事忘れんなよ?お前に金を払うのは俺だ!英雄になる俺の機嫌を損ねてると、痛い目を見るぞ?」


「それは大変ですわぁ……英雄の首となったらとるのに苦労しそうやし」


 ダフネはネヴィルの脅しに、笑顔で答えた。


「ちっ……どいつもこいつも俺を苛立たせやがる。ナナ、今はどんな感じだ?」


「声は聞こえないから、良くわからないけど……あ!何処かに転移する準備してるみたい!」


「転移だ?この街から逃げだそうとしてんのか?」


 ネヴィルが水晶の近くに戻り、バルト達の様子を確認する。


「あ?こいつ指名手配されてるキースとか言う騎士団員じゃないか?」


「本当だ!やっぱりグルだったんだ。この人が転移魔法を展開してるみたいだよ?」


「こいつら何処に行こうとしてやがんだ?ナナ転移先を特定しろ!」


 ネヴィルは苛立ちながら、爪を噛み始めた。


「無理だよ!そんな事出来るわけないじゃん!」


「本当使えねぇな!お前とジースターをパーティーメンバーに選んだのは、俺の人生で最大のミスだ!」


「はぁ?ネヴィルが頼み込んできたから仕方なく入ってやったんだけど?ジースターもネヴィルに何か言いなよ!」


 ナナはネヴィルを指差しながら、ジースターを見る。


「俺は金が貰えればそれでいい。それ以外は興味ない」


 ジースターは目を閉じたまま、静かに答えた。


「わっちもですわ。この魔法の構築の仕方やと……北の外れにある遺跡に転移するみたいです」


 ダフネはいつの間にかナナの横に移動して、水晶を覗いていた。


「え!?あんた、何で見ただけで分かるの?」


「それは、企業秘密です」


 驚いているナナにダフネはわざとらしくウィンクをする。


「北の遺跡だぁ?何であんな何も無い……いや、待てよ……」


 ネヴィルが胸のポケットから、1枚の地図を取り出す。


「あっははははは!あいつらたまには役に立つじゃねぇか!ナナ、北の遺跡近くに転移魔法の準備を始めろ!」


「別に良いけど、何か分かったの?」


「魔王の居場所だよ。これは有力な魔王の本拠地候補が書かれた地図だ。そこに北の遺跡も入ってる」


「まじで!探す手間省けたじゃん!これでやっとパーティー解散できる!今すぐ準備するねー!」


 ナナは嬉しそうに、準備に向かった。


「それには俺も同感だ。おいしい所だけはしっかり貰いにいくぜ……ついでにぶち殺してやるから覚悟しとけよ、クズ野郎」


 ネヴィルは水晶に写ったバルトを睨みつけ、水晶を叩き割った。







「無事着いた……のか?」


 一瞬で目の前の景色が森の中に変わり、バルトは周りを見渡した。


「ここは、本拠地の遺跡まで2キロの地点だ。ここから北へ少し歩くと遺跡に着く」


 キースも警戒しながら、周囲を確認する。


「魔物といきなり闘うはめになるかと思いましたが、全然いませんね。遺跡の守りを固めてるんでしょうか?」


「感知魔法無効がかけられていて良く分からないわ。けど、こっちも今回は同じ魔法をかけてあるから魔王サイドにもバレてないはずよ」


 リリィが他の効果魔法をバルト達にかけながら、話した。


「あれ?リリィって感知魔法無効なんて使えた?」


 それを聞いてクリスがキャスを含め、ビックキャットの召喚を始める。


「師匠に教えてもらったわ。師匠は索敵、感知系の魔法なら私の数段上だから」


「まじかよ、だから俺の居場所とかすぐにバレるのか……あっ!終わったかも……」


 バルトの疑問が1つ解決したと同時に、サキュバス店に行く難易度が1つ上がった。


「とりあえず、先に進むぞ。一ヶ所に長居するのは危険だ。案内役も含め、俺が先頭で隊列を組んでくれ」


 キースが先頭を歩き、バルト達があとをついていく形で出発した。





「バルト様!お久しぶりです!」


 遺跡に向かい歩いていくと、キャスがバルトの側に寄ってきた。


「おぉ!元気してたか?」


 バルトはキャスを撫でながら、嬉しそうにするキャスに癒された。


「はい!魔界で早く展延てんえん出来るように毎日鍛練に励んでいます!」


「それは良い心掛けだ!楽しみにしてるからな!」


「はい!1日も早く出来る様に頑張ります!」


「ちょ、ちょ、ちょっと!?バルト君、キャスに展延てんえんするように言ったの!?」


 キャスとバルトが和やかに話しているところに、クリスが慌てて入ってきた。


「あ!そう言えば、クリスにはまだ言ってませんでした。バルト様から展延てんえんの許可が出たんですよ!」


 キャスは嬉しそうに、クリスに報告する。


「バルト君、君ってやつは……」


 そう言うと、クリスは下を向いて震えだした。


「え!?何か不味かった!?だったら本当にごめ……」


「やっぱりバルト君は最高だ!本当にバルト君に出会えて良かったよ!」


 クリスは今まで見たことがないくらい喜び、はしゃいでいる。


 バルトには全く意味が分からなかったが、とりあえず怒られなかった事に安心した。


 興奮しながらクリスはバルトがした事の凄さを話していたが、専門的過ぎて良く分からなかったので、要約する。


 どうやら展延てんえんは、使役者以外の人間が許可をしないと出来ない仕組みになってるらしい。


 しかも許可を出せるのは一定の条件を満たした人間しか出せないらしく、その条件はクリスやキャスにも分からないのだ。


 条件を満たし、展延てんえんが可能になると、体の何処かに許可をした人間の名前が浮かび上がる仕組みなんだとか。


 他にも色々言っていたが、理解できなかったので割愛かつあいする。


「キャス、本当に良くやったよ。これでバルト君と死ぬまで一緒に居れるのが確定したからね!」


「はい!私もバルト様のお側にいれて幸せです!」


「ん?ちょっと待て。なんでそうなるんだ?」


 バルトは、クリスとキャスのとんでもない会話に割り込む。


「だって、バルト君はキャスと一種の契約をしたんだよ?使い魔は契約者が近くにいないと人型にはなれない。

 まさか、バルト君はキャスが頑張って展延てんえんするのに、意味がない進化にする気かな?」


「え……バルト様、そうなのですか?」


 キャスが悲しそうな顔でバルトを見る。


「いや、その……えーっと……」


 バルトはキャスの潤んだ瞳に困惑していると、リリィが一言で話を終わらせた。


 しかも、バルトにとっては最悪な方向で。


「この国は何人と結婚しても良いのだから、キャスも含め全員バルトのお嫁さんにしてもらえば良いだけの話じゃないかしら?」





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