五章 デス・マスク
「クリス、私が第二婦人ですわ!そもそもあなた男性じゃないですか!」
「はぁ?この国は異種族、同性の結婚は認められてるんだけど?2番目は僕だよ」
「別に私は何番でもいいんだけど、あなた達は数字の早さでマウント取ってきそうだから私が師匠の次の妻になるわ」
「私はもらって頂けるなら何番目でも良いです!」
ハンナ達が移動しながら、話を勝手に進めていた。
「バルトよ、私が言うのもなんだが……黙っていて良いのか?」
「良いんだよ。変に会話に入ってボロを出すなら、黙秘するのが正しい判断だからな。俺は何も聞いてないし、知らない」
バルトはあたかも本当に話を聞いてないかのようにキースに答える。
「相変わらずのやり口だな。ところで何故皆2番目なのだ?もう本妻がいるのか?」
「……その件には触れないで……」
バルトのテンションが一気に下がり、目に光がなくなった。
「ま、まぁ、私も妻が3人いるが特に問題なく過ごしているし大丈夫だと思うぞ?」
バルトの落ち込み方を見て、キースが慌ててフォローする。
「へぇー、お前バ……見た目は良いからモテそうだもんな」
「何か失礼な事を言いかけなかったか?毎日賑やかで楽しいぞ。その分金はかかるがな」
「き、気のせいだ。そりゃ3人も家庭を持てばかかるだろ。ちなみにいくら位かかるんだ?」
「月に大体金貨100枚くらいだ。妻達が節約してくれてるから、それ位で収まってる」
「金貨100枚!?……でも1家庭30万ちょいって考えたらあり得るか……てことは……」
5家庭 × 金貨30枚 = 金貨150枚
「人でなしと言われようが、軽蔑されようが絶対に逃げきらなければ……」
バルトは大量の油汗をかきながら、心に誓った。
「うわぁ……かなりの魔物の数だね。流石にこれは倒すにしても時間がかかるよ」
クリスが大量の魔物を見て、ため息をつく。
バルト達は遺跡の近くの高台へ、魔物の大体数を把握するために登っていた。
ざっとみても1000体はいるのが分かる。
「一斉にケルベロス全員と私で攻撃を仕掛けても、15分はかかるだろうな。その間に魔王が先制攻撃を仕掛けてこない保証もない」
「それは困りましたわね。何か良い方法はないのでしょうか?」
キースとハンナが難しい顔をしながら、魔物の大群を見つめた。
「いや、あいつらは倒さないぞ?」
バルトが当たり前のように答える。
「バルト、倒さないって言うけどどうやって遺跡に入るの?入り口まで見つからないで行くのは不可能よ?」
リリィが面白い答えを期待する眼差しで、バルトを見つめる。
「こんなこともあろうかと、用意しました!魔物のマスクー!」
そう言うとバルトは、精巧に作られた魔物の顔のマスクを荷物から出した。
「バルト、期待のし過ぎは良くないことが分かったわ。バルトも人間だもの。」
「あのなぁ……それはこれを見てから言えよ。キース、俺を魔物の群れの中に転移させてくれ」
「いや、バルト流石にそれは……」
あのキースにまで心配されるとは……
周りから見れば、だいぶアホな作戦に見えることを
バルトは実感した。
「大丈夫だから、早くやってくれ」
「……どうなっても知らないからな?」
キースはバルトを一瞬で魔物の群れへ転移させる。
「うそ……本当に気付かれてないわ……」
リリィは驚いて、手に持っていた弓を落とした。
魔物達はバルトを少し気にしている様子はあるが、人間だと気付いてない。
バルトは手を上げで、回収するように合図をする。
キースは急いでバルトを高台へと転移させた。
「だから言ったろ?」
バルトはマスクを脱ぎながら、ドヤ顔をする。
「バルト!どんな仕組みなの?」
リリィが目を輝かせて、バルトに詰め寄る。
「聞いて驚くな……これは本物の魔物の顔で作ったマスクだ!しかも魔物の魔力も微妙に残した一級品だぞ!
だから知能の低い魔物にはバレな……あれ?どうかした?」
バルトが自信満々でトリック発表したにも関わらず、リリィ達は光を失った目でバルトを見ていた
「バルト君ってたまに目的の為なら魔王より、えげつない事思いつくよね……」
「バルトさん、流石に魔物とはいえオーバーキルかと……」
「流石バルトね。自分の思考は奇人の発想には遠く及ばないと分からせてくれるわ……」
「バルト、君は幼少時代を地獄で過ごしたのか?」
ハンナ達が次々とバルトの人格を疑う発言をする。
不味い!これから大勝負が待っているのに、こんなイメージのままいけるか!
バルトは思いつく中で、1番のボケで笑いをとることにした。
「え?僕、またなんかしちゃいました?」
どうだ!異世界あるあるのド定番!
これでウケないはず……はっ!ハンナ達は異世界側の人間だった!
恐る恐るハンナ達の方を見ると『これだけ言われてるのに自分の異常さに気付けない、ガチのサイコパス』を見るような目で、バルトを見ている。
「さすが、バルト様!敵の皮でカモフラージュするんですね!魔界ではメジャーな潜入方法なんですよ!非道ですが、効果は保証します!」
キャスが止めを綺麗にさしてくれた。
「あの時間がないので嫌かもしれませんが、皆さんも被ってください。お願いします」
バルトは笑顔で泣きながら、ドン引きするハンナ達にマスクを配った。
「よし、全員被ったな?では、始めるぞ!」
そう言うと、キースは転移魔法を展開する。
魔法陣が強くひかり、次の瞬間には全員魔物の群の中に移動していた。
気付かれてない事を確認し、全員一言も声を出さずに、遺跡の入り口を目指す。
知能が殆どない魔物が気付くとは思えないが、念のため会話はしないことにしていた。
ここまでは順調か……
バルトは少し安心し、入り口を目指して歩き続ける。
ここまで来たら、魔力をなるべく消費せずに遺跡の中に入っておきたい。
バルトは更に歩くスピードを上げようとした瞬間、バルト達を見つめるような強い視線を感じた。
急いで視線を感じた遺跡の右上の方を見ると、そこにはカシウスがこちらを見ながら立っていた。
やばい、読まれてた!
バルトの鼓動が一気に速くなる。
魔物に囲まれた状況で、カシウスの相手をしたら無傷で済むはずがない。
少しでも被害が少なくなる方法を考えなくては……
バルトは頭をフルに回転させる。
先制攻撃される前になんとか……
ん?先制攻撃?
バルトは違和感を覚えた。
なんで俺達を見つけたなら、その時点で魔物に闘うように指示を出さないんだ?
奇襲は闘いでかなり有効な手段にも関わらず、それをしてこない……
バルトはキースとの昨日の会話を思い出す。
そしてそれは希望的観測が、絶対的な事実に変わった瞬間だった。
バルトはニヤリと笑う。
バルトは前にいたキースの肩に手を置いて、念話で伝えた。
『キース、この勝負案外俺達が有利なのかもしれないぞ?』
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