四章 ナイショのはなし

「ちょっと、リリィ君!どういう事だい!?」


 リリィと入れ替わりに、ミルコが店からリビングに押し出されてきた。


「3秒待ってなさい」


 リリィの手だけが見え、再び店への入り口のドアが閉まる。


 すると本当に3秒で『失礼しました!』という騎士団員の声が聞こえ、店を出ていくような音がした。


「もう帰ったから大丈夫よ」


 リリィは何事もなかったかのように、リビングへ戻って来た。


「いやいやいや、何をしたんだよ!?」


「え?帰って欲しいと伝えただけよ?」


「そりゃそうだろうけど、何で素直に帰るんだよ!」


「バルト、人はそんなに難しいことでなければ、案外お願いを聞いてくれるものよ?覚えておきなさい」


 バルトの質問をはぐらかす様にリリィが答える。


「あっ!もしかて君は……いや、気のせいだったね」


 ミルコがリリィを見て、何かに気付いた様だったがリリィが口に人差し指を当てたのを見て、笑いながら言うのを止めた。


「ミルコさん、何か分かったんですか?俺にも教えて下さい」


 それを見てバルトはミルコに駆け寄る。


「ははは!私の気のせいだったみたいだ。これはフランも簡単にはいかないかもなぁ」


 ミルコは笑いながら、店へ出ていった。


「ミルコさんまで……キースは分かったか?」


「もちろんだ!誠意を込めて頼み込んだリリィの勝利と言えよう!」


「うん、そうだね」


 キースに聞いた自分がバカだったと気付き、バルトは子供を見るような優しい笑顔でキースに答えた。




 しばらくすると、ハンナとクリス達も無事に帰ってきたので、明日の朝魔王の本拠地に乗り込むことを伝える。


「敵の能力が分からないからなんとも言えないけど、何とかなるんじゃないかな?」


 クリスはフランに料理を教えてもらいながら、軽く答えた。


「私は取って置きの防御魔法を覚えてきましたから、任せてください!」


 ハンナも相当自信があるのか、鼻唄を歌いながらテーブルを拭いている。


「もしかしたら、命を落とす可能性だってある。本当に俺のわがままにつき合ってもらって良いのか?

 今ならまだ討伐自体をやめることも出来るぞ?」


 バルトには普段と変わらないハンナ達が無理をしているように見えた。


「それはありませんわ。これ以上バルトさんと冒険をする時間を魔王ごときに減らされてはたまりません」


「僕もハンナに賛成かな。それに、これからもこのパーティーで冒険者を続けたいなら、どちらにしろ倒すしかないんだし」


「それに魔王を倒さないことには、指名手配されたままになってしまうでしょ?私達は私達で闘う理由があるのだから、バルトは巻き込んでしまったなんて思わないことね」


「別に魔王を倒さなくても他にも方法は……」


「誰も傷付かない選択をするんじゃなかった?」


 クリスがわざとらしく聞いてくる。


 どうやらバルトが不安視していた事は、取り越し苦労だったらしい。


「そうだな……さっさと指名手配なんて汚名は晴らして、日常を取り戻すぞ!」


 バルトは手を前に出した。


「バルトさん?どうしました?」


 それを見て、ハンナはきょとんとしている。


「いや……流れ的にエンジン組む感じ……じゃなかった?」


「いや、私は……」「ぼ、僕も遠慮しようかな……」「バルト、そのノリ体が痒くなるわ」


 ハンナ達は、寒過ぎる余興を結婚式で披露した友人代表を見るような目でバルトを見た。


「バルトよ!良いアイデアじゃないか!」


 キースだけノリノリで、バルトの手の上に自分の手を重ねる。


「キース……俺は案外痛いやつなのかもしれない……」


 バルトは死んだ魚の目をしながら、キースに話しかけた。


「痛い?怪我か!?どこが痛む?」


 バルトは静かに手を下ろし、キースを見た。


「俺の存在だ」


 そういうと、バルトは笑顔でトイレに消えていった。






【本日臨時休業】


 ミルコは店の入り口に、大きな文字で書いた紙を張り付けた。


 朝になりバルト達は店の方で、魔王討伐の準備を始めたからだ。


「ミルコさん、回復薬や新しい防具までありがとうございます」


「私達が出来るのはここまでだからね。少しでも役に立つことを祈っているよ」


 せめて何か出来ないかと思い、ミルコはバルト達の装備を密かに新調していた。


 基本的には形は変わってないが、質が格段に上がっていて、動きやすさは桁違いになっている。


 バルト達に依頼した、隠れダンジョンでの素材集めは、バルト達の装備を作るためでもあったのだ。


「転移出来る人数が5名じゃなければ、私も行きたかったです……

 今回はバルトさんの妻として夫を待つ練習に専念しますね!」


 フランが心なしか不安そうに、そわそわしているように見えた。


「心配をかけますが、絶対に戻ってきますから。美味しいフランちゃんのご飯楽しみにしてるよ?」


 バルトはフランの頭を撫で、指切りをする。


「そろそろ行けるか?」


 キースが床に魔方陣を展開し、準備が出来た事をバルトに伝える。


「そうだな……そろそろ行くか」


 バルトはハンナ達に目で合図を送り、全員魔方陣の中に入った。


「では、行……」


「待ちな!ケルベロスの兄ちゃん!」


 キースが転移魔法を発動しようとすると、ミルコの店に男が3人入ってきた。


「あれ?あなた達は確かギルドメンバーの……」


 ハンナが目を細めながら、男達を見る。


 そう言われ、バルトも確認するとキースがギルドに来た時に、周りにいたような気がした。


「あぁ、そうだ。名乗る程の者じゃねぇがな。

 今から何処か行くのか?」


 3人組の一人の髭おやじがバルトに尋ねた。


「そうだけど……なんでここにいるって分かった?」


「勇者が騒いで、この店が捜査対象になったって聞いてな。試しに寄ってみたんだ」


 バルトはギルドメンバーの意図いとが分からず、混乱する。


「それで、何か用かな?僕達急いでるんだけど」


 クリスは警戒しながら、ギルドメンバーを睨み付ける。


「おいおい!勘違いするな、俺達は味方だ!

 今日は何かに役立てばと思って1本だけだが、神級しんきゅうの回復薬を渡しにきただけだ」


神級しんきゅう!?って相当高いだろ……俺達に渡す狙いはなんです?」


 バルトも怪しい提案に警戒を強めた。


「別にボランティアで渡すわけじゃねぇ。お前らが死んだら、また俺達のギルドランクはランク外になっちまう。

 そうなると、依頼の数が激減しちまうからな。

 それを阻止したいから助けるだけだ」


「そういうことなら……ありがとうございます」


 バルトは髭のおやじから回復薬を貰うとお辞儀をした。


「お互いの利益がある話だ、礼はいらねぇよ」


 そう言うと、ギルドメンバー達は立ち去っていった。


「あのおじさん達も素直じゃないねぇ」


 そう言いながらクリスはクスクス笑う。


「ん?どういう意味だ?」


「僕達がいなくなっても、ギルドランクは簡単に下がらないんだよ。理由は複雑だから説明しないけど、通常一度ランクに入ると10年は下がらない仕組みなんだ」


「……渋いツンデレって悪くないジャンルだな……俺もいつか使おう……」


 バルトは遠い目をしながら言った。

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